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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
48/411

2月13日曇り 『勇者一行』

「新しいの、入ったぞー!」


目の前を動く人波に目をとられていると、無制限に時間を奪われるような気がしてきて、そっと視線を伏せた。

振り返ると、二階から降りてきたシュラと目が合う。


「……カルラさん、私達は何故こんなことをしているのでしょう」

「ここでやることがあるんだよ」


ここは王都中央部に位置する商店街の一角、かつて師匠と経営していた鍛冶屋【モダン工房】の建物だ。


師匠が亡くなってから店を開けることもなかったのだが、野暮用が出来たため、資金作りのために開けることにした。

埃は被っていたが、中の設備は問題なく使えそうで、修理もいらなかった。


足元に置いた木箱を開き、カルラは店頭に品物を並べ始める。

訝しげにその様子を眺めるシュラの目に、ある人物の姿が写った。


「ミハエルさん!」

「おお、貴殿らは鍛冶屋の……。その節は世話になった」


以前、勇者として鍛冶屋に訪れた男で、腰に提げることが出来ずに肩に担いだ反りのある剣は、何もかもを切り伏せる、制御不能の凶器であることは記憶に新しい。


王に選ばれたのだから、ここに居ても不思議はないのか。


「ところで、貴殿らはどうしてここに?」

「出張、だな。何か買っていくか? ……って言っても、まだ大したもんは作ってねぇけどな」

「ふむ。それなら、鞘はあるだろうか? 今は封印で切れないようにはしているが、見る者が怖がるのだ」


確かに、目を凝らして見ると、作った覚えのない透明の膜が絡み付いているのが分かる。


「魔法ですね、それも高度の……。ミハエルさん、魔法も使えるのですか?」

「いいや、仲間が付けてくれたのだ。……おや、丁度来たようだ」


ミハエルが見る方向に、カルラ達も視線を移す。街道を行く人々は異様な雰囲気に圧倒されて道を開け、その真ん中には杖を持った女性がよろよろとバランスの悪い歩調で歩いてくる。


見覚えのあるその姿に、シュラは表情を明るく輝かせた。


「テュールさん!」


片腕にごつい籠手をはめた魔導師なんて、一人しかいない。

防御力を求めた彼女の結果なのだろう。多少は、扱いに慣れた様子だった。


「久しぶりでーーーモガ?」


テュールによってヌイグルミのように抱きしめられるシュラは、目だけでカルラに助けを求めてくる。

変態シスターや薬剤師でもないため、とりあえず放っておく。


「知り合いだったのか?」


ミハエルが不思議そうに尋ねた。


「前に、ちょっとな。……にしても、うちの弟子はモテるな」

「親しみを感じるためからではないだろうか。あるいは、子供はやがて大人になるから、名残惜しいのかも知れない」


外見はともかく、中身はそうなのかもしれない。やがて巣立つ刻が来ると思えば、今と言う時間も惜しくなる。

外見はともかく。


「そういや、鞘だったな。材料が無いから、今すぐは出来ねぇ。昨日、来たばっかりだからな」

「そうか。では、またいつか会おう」

「何だ? ここを離れるのか?」

「そもそも、我は勇者だ。遠方に住まう魔の王を裁くのが役目であるから、王都に戻ることは稀だ」


帰り支度、ではなく旅支度というように、強くシュラを抱き締めてからテュールも少し離れる。


「今日は戦争の調査報告のために来たのだ。恩人よ、なるべく早く、立ち去るといい」

「……じゃあね」


戦争と聞いて、カルラは不穏なため息をつく。

ミハエル達の旅路を見送ると、シュラはカルラに尋ねる。


「何だか、元気がありませんね?」

「そうかねぇ、俺はいつも健康なんだが」

「いつもは、もう少し人を小馬鹿にしたようなことを言うのに、今日はまともです」


そんなふうに見られていたとは心外だ。


「でも、いつもの、まともではないカルラさんの方が、カルラさんらしいというか……」


何かを言いかけて、シュラは黙る。

とりあえず、明日からは何とか、元気にやるとしよう。


時計塔の鐘が、都に正午を轟かせていた。

ミハエル・コルト(19)

必殺技……居合い切り

備考……何でも出来る設定ではあるが、基本鈍感なため、罠にはまりやすい。


テュール・シュワルツローゼ(25)

必殺技……左フック

備考……天然で、可愛いもの好きなお姉さん。現在パーティーにツッコミ不在。

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