表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
47/411

2月12日曇り 『司書1名』

「新しい本が入ったわよ」


古い紙の臭いが漂う埃っぽい広間に、女性の声が響き、並べられた本棚の森に消えていく。

褐色の肌が特徴的な彼女は、つまらなそうに前方を見る。

そこには木造の床を軋ませながら、長身の男がいくつかの本を手に持って近づいて来ていて、彼は三メートル先で立ち止まった。


「久しぶりだな、ライブラ」


受付台の向こうに座る眼鏡の女性に向かって、カルラはそう言った。

名前を呼ばれた、ライブラは美人に整った顔を不機嫌そうにしかめ、静かに唇を動かした。


「カルラ君、遅すぎだとは思わないのかしら?」


そう言われても反省する気配を見せないカルラは、随分と以前に借りた書物を受付台の上にどっかり乗せた。


「そうか? とりあえず、生きてる内に会えて良かったじゃねぇか。いつ死んでもおかしくはないだろ?」

「私、そんなに歳を取っていないのだけれど」

「人間の世界だと、百を越えてりゃババアだ」

「人間って不便よね」


道具の性能差みたいに言うんじゃない。

まあ、今日はそんな話をするために来たわけでもないから、反論なんて意味のないことをするつもりはないけど。


そんな話をしていると、後ろで小さな足音が近づいてくる。


「カルラさん、置いてかないでくださいよ~」


馬車の代金を払っていたシュラだった。小さく白く、小動物のようなその姿を見たライブラは、興味深そうに言った。


「あら、愛らしいわね。ペット?」

「……っ!?」


出会い頭にそう言われ、シュラは驚いて体を硬直させる。言葉に迷って詰まって口ごもっているため、代わりにカルラが答える。


「いや、違うからな。……こいつは俺の弟子だよ。シュラも否定しろ」

「すみません。突然のことで、驚いてしまいまして……」

「こんなに小さな奴隷なんて聞いたことはないけれど、法律上は大丈夫なのかしら?」

「話聞いてたか? 奴隷じゃなくて、弟子だっつてんだろ」

「同じものじゃない」


違うよ?

これだけの叡知の中にいて、どうしたらこれほど偏った知識が身に付くものか。


「ま、人間族では無さそうだし、実年齢と外見が違うのは、よくあることではあるけどね。私みたいに」

「人間族ではないのですか? ダークエルフのように見えますが……」

「私は夢魔族よ。普段は隠しているけれど、羊みたいな角が生えているの」


瞳を輝かせているシュラを見て、ライブラは楽しそうに教える。その姿は親子のように見えるのだが、実際は何世代分の差があるのだから、世界は不思議だ。


「本は返した。もう行くぞ」

「カルラ君、ちょっと待ちなさい」

「何だ? しばらく来ないから、何も借りねぇぞ?」


ライブラはかぶりを振って、人差し指と中指で挟んだ、一枚の封書を差し出した。


「違うわ。貴方の師匠からの手紙を預かっているの。受け取ってくれないと、私が文句を言われるのよね」

「……どうも」


手紙を受け取って、カルラは急ぎ足でその場を立ち去る。シュラはぺこりとライブラにお辞儀をしてから、その後を追った。

階段の踊り場で追い付くと、カルラの横に並んで歩く。


「それ、カルラさんのお師匠さんからの手紙ですよね」

「みたいだな。字が同じだから、間違いない」

「会ってみたいですね。この近くに住んでいるのですか?」

「いいや、もう死んでいるから、土の中だろうな」


楽しそうな声が止まり、途端に静かになる。


「それは……悪いことを聞きました。申し訳ありません」

「何言ってんだ? 人間族はすぐに死ぬんだから、いちいち悲しむんじゃねーよ」

「でも……」


シュラが立ち止まったことに気がついて、数歩先でカルラは振り返った。


「私は、カルラさんが居なくなったら悲しいです」


泣き出しそうな震えた声でそう言った。

どうして、こんなに素直な弟子を持ったのか、もっと性根の腐った奴ならば、もっと、自分のような奴ならば、こんな言葉を口にすることもなかったのに。


「まだ俺は死なねぇよ」


約束されない約束が、もう一度心に結ばれる。

ライブラ・シームズ(111)

特徴……眼鏡と角

備考……サキュバスをイメージした外見と反対の、真面目で冷たい人格で作りました。参考キャラは雪の人!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ