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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
46/411

2月11日晴れ 『猫2匹』

「新しいの、入った……ぞ?」


視界の隅に過ったのは猫の耳だった。自慢ではないのだが、それなりに背は高いため、猫ほどに小さな生き物が視界に入るには、猫が立てる程度のものが必要だ。

そして今、目の前にはそんなものはない。


ライオンだったらどうしよう、犬派なんだよな。


「ねぇ、オジサン。固まってどうしたの? 職場放棄なの?」

「生きることを放棄しなけりゃ男は大丈夫だ。あと、オジサンじゃねぇ……って、猫? いや、猫か?」


どちらにせよ、それは猫である。

そこにいたのは猫の耳をピンと伸ばし、背伸びしてし自分を強調する、少女のような、猫のような、猫顔猫耳の女の子がそこには居た。


「シュラっ! ちょっと来てくれ」

「……どうしましたか?」

「猫に人の顔がある。これはいったいなんだ? 人面猫でも流行らせたいのか?」


少女は人である。少なくとも、外見で言えば人に近く、唯一猫らしいものというのが頭頂部付近にある耳だけだ。

少し前に見た、犬人族の男は顔まで犬だった。


「この方は、猫耳族のようですね」

「耳? 人じゃなくてか?」

「はい。猫人族という種族もあるそうですが、その方々とは別で、耳と目だけが猫のような特徴を持っています」


言われてみれば、少女の瞳はアーモンド型で、人とは少し異なる。じっくり見ると、ぷいっと顔を背けられた。


「あんまり見ないでよね、困るから」

「ああ、悪い」

「加齢臭が移ったら困るから」


猫耳少女の失言に、カルラは冷ややかに目を細めた。


「猫はどう料理すると美味いんだったか?」


加齢臭が移らないうちに冷凍しよう。


「ダメです。落ち着いてください」


料理長であるシュラに止められては仕方ない、猫料理なる珍味は諦めるとしよう。


「で、うちに何のようだ、猫娘?」

「それは商標的にダメだよ、オジサン。私のことはノーイって呼んで」


どこの世界の商標だろうか。


「俺をカルラって呼んだらな」

「じゃあ、カルラ」


呼び捨てか。まあ、一向に構わんが。

ノーイはもじもじと自分の指先を重ねて、落ち着かない様子で口を動かす。


「お母さんを探してくれない?」

「なんだ、迷子かよ」


呆れたとばかりに言い換えると、ノーイは不機嫌そうに詰め寄る。


「違うよ。お母さんが迷子になったの。レディに恥を欠かせるなんて、カルラは女心が分かってない」

「お前に俺の何が分かるってんだよ。シュラも頷くな」


深く同意を示す弟子に、カルラはそう言ってから、屈んで少女と目線を合わせた。


「探してやるから、特徴を言え」

「猫っぽくて、女っぽい」

「いや、母親なら女だろ。そんな当たり前のーーー」

「あら、ここに居たのぉ~。探しちゃったわ!」


野太い声が地鳴りのように響き、カルラは驚きで表情を固めて、その根源を見た。

そこに居たのは、猫っぽくて、女っぽくて、それでもって男らしい男だった。


ノーイが喜んで抱きついていることから、怪しい人物ではないのだろうが、初対面のカルラたちの目には異様なものに写った。


「それは、お母さん……なのか?」

「あら、この子の面倒を見てくれていたの? ありがとうねぇ。アタシ、こう見えても中身は女だから、驚いちゃった?」


ええ、まあ。そんな言葉をカルラは飲み込む。


「ええ、まあ」


そして、すぐに吐き出してしまうほどに、この光景は記憶に重かった。


赤いドレスを着て、同じ色の高いハイヒールをバランスよく履きこなす姿は見事なもので、スカートの裾から見える逞しい足には濃い毛が見えた。


そして、なんで付けたのかと思わせる、可愛らしい猫の耳が、娘と同じように生えている。


「アタシは飲み屋のママをやっている、ミクシル・キャットウォーカー。今は持ち合わせがないから、そのうちお礼をさせて頂くわ。それじゃあ、ごきげんよ~」

「じゃあね~」


二人の猫耳親子はそう言って、大きく手を振って帰っていった。

カルラは何気なく呟いた。


「……ああ、去勢か」

「カルラさん、落ち着いてください」

ノーイ・キャットウォーカー(7)

特徴……少女

備考……猫耳属性の女の子で、見た目に反して毒舌。この前学校の番長になった。


ミクシル・キャットウォーカー(35)

特徴……男、筋肉

備考……猫耳属性のオッサンで、見た目に反してムエタイが趣味。源氏名はミクシア。

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