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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
45/411

2月10日雨 『兵士3名』

「新しいのーーー」

「来たぞ!」

「言わせろっ」


 いつもの言葉を遮って、晴れやかな表情で立つ人物は、1ヶ月前にここを訪れた女兵士だった。

 名前は確か、ベルモットだったか? 長いから忘れた。

 ともかく、そのような名前の奴が、以前と同じく取り巻きも連れて来ている。


「カルラく~ん、僕もいるよ」


 この前は四人くらい連れていたはずなのだが、今は二人になっていて、その内の一人が馬鹿こと、ジャック・アグラムの姿と言動と能天気な性格をしている。

 どうか偽物であって欲しいが、そうもいかないのだろう。


「お前、こいつの部下になったんだな」

「ああ。ベルちゃんは良い子だよ~、真面目で」

「縮めて呼ぶなっ!」


 雨粒を弾くフードの中で、赤い頬を膨らませて叫んぶ。

 そして、時間が惜しいのか、前回の反省を思い出したのか、納得のいかない様子のまま、カルラを見てこほんと咳払いをして、さっさと本題に入る。


「今度こそ書状を持ってきた。1ヶ月も猶予を与えたんだ、大人しく連行されろ」


 勝手に失敗しただけのだが、都合の良い言い方もあるものだ。言葉って万能。


「嫌に決まってんだろ。牢屋の中に金床と炉がないんなら、俺は絶対に行かねぇ。あとついでに、飯は霜降りステーキじゃなけりゃ嫌だ」

「それはどこの高級宿屋だ?」

「検討しますっ!」

「するなっ!! お前は黙っていろ!」

「はぁいぃいっ!」


 光悦とした表情で突っ立っている兵士は、先月の怪しい兵士だ。面倒な客が三つ巴でここに集まると、個性が目に五月蝿くて仕方ない。一人くらい消えてくれないだろうか。


「そういえば~、書状ってなんのことだ?」

「お前に渡していたやつだ。持っているだろ」

「ああ、これか」


 そう言って、ジャックは懐から、見せびらかすように書状を出す。ここで思い出してほしいのは、今の天気だ。

 書かれていた文章も、朱色の証明印も、雨の流れの中で崩れ落ちていく。


「あ、ああ……」


 1ヶ月も待ちぼうけを食らわせられたベルは声を失い、その原因であるジャックは不思議そうにそれを見ている。

 なんというか、そう、憐れだな。


「あー、これは大変ですね。帰ったら泣いてしまうパターンです」


 上司を前に飄々としている兵士M。


「そうなのか?」

「ええ、貴方を捕まえられなかったときは、二日間、自室で閉じ籠ってーーー」

「うるさい、黙れっ!」

「はぁい、黙りまぁす!」


 兵士どMはそう言って、口を両手で塞いでみせたのだが、一瞬見えた唇には満足げな笑みを確認できた。反省はしていないらしい。

 それに気付く様子もないベルは、不甲斐なさから涙を浮かべた両目でこちらを見る。


「ま、また来るから……待って……ヒック。うぅ……待ってにゃさいっ!」


 雨とも涙とも分からない水滴が頬を伝っている。彼女は上司でありながら自分勝手に、駄目な部下達を置いて走り出した。

 しかし、部下も上司と同じく自分勝手なようで、兵士Mはゆっくりと後を追うように歩き始め、ジャックに至っては居座るつもりで既に寛いでいる。


 数歩進んだところで、兵士Mは思い出したように振り向いた。


「そういえば、今日は何を作ったんですか?」


 カルラは少し迷いながら、商品について語る。


「……水で崩れた書物を直す道具だったりするもんだ」

「ふふっ。それは黙っておきますね。ここに来る口実が無くなりますから」


 兵士Mは何を考えているのか口元に笑みを浮かべ、フードを深く被りなおして、再びベルの足跡を辿っていく。

 何もしなければ良いのだが、知られた時点でそれはないだろう。その時は、いつかの自分に頼るとしよう。


「シュラちゃんはどこだい? お茶が欲しいーーーんギャバッ」


 蹴り飛ばされたジャックは街道に身を削り、水溜まりに沈む。

 雨音が強く、屋根を叩いている。

ベルゼビュート・ニューナンブ

性格……真面目

備考……最近、おかしな部下を押し付けられて困っている。


ジャック・アグラム

性格……能天気

備考……職場環境に満足している。


どM兵士

性格……どM

備考……最近、刺激が足りていない。

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