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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
411/411

2月14日曇り 『殺人鬼1名』

「…………」

「カルラさん」


 呼び掛けにも応じず、部屋の中から出てこないカルラを心配して扉を開けたシュラは、目の前の光景に絶句した。


 床の上には、赤黒い液体にまみれた知人のジャック・アグラムが横たわっていて、同じく汚れた大剣を手に持ったカルラが虚ろな目で、その肉体を見下ろしている。


「カルラさん……ついに……」

「"ついに"って何だよ! 俺はまだ、お前が考えているような事はしねぇよッ!」

「"まだ"って何ですか!?」


 鉄臭い室内をもう一度見回して、シュラは声を静めて尋ねた。


「それで、何故このような状況になってしまわれたのですか?」


 自室で知り合いを切りつけなければいけない状況など、そう多くはないのだろう。カルラは冷静さを取り戻し、事の顛末を短く説明する。


「こいつが部屋に押し掛けてきたんだよ。俺が部屋で素振りをしているときに」

「何故この狭い部屋で素振りを……?」

「んなことより、当然のように入り込んでるコイツに驚け」


 被害者も加害者もおかしい。そんな感想を抱きつつ、シュラは床の上でピクリとも動かないジャックに目を向けた。


「本当に亡くなってしまわれたのでしょうか……」

「ちゃんと切ったから間違いない」

「正直に言わないで下さい。信用が薄れます」


 呆れたような声で言うシュラは、僅かな異変に気がついた。先程まで確かに握られていた手が開いている。

 疑問が明瞭になるのと同時に、横たわった身体が大きく動き出した。


「んあ、あ~カルラ君かぁ。おはよ~」


 身を起こし、両腕を上に向けて伸ばしながら、口を開いて欠伸をするジャックに、カルラは不快そうな態度で質問する。


「なんで生きてやがる?」

「多少は喜んでください。罰を受けなくて良いのですから」


 それにしても傷を負っているとは思えないくらい、元気そうに笑みを浮かべるジャックの姿は、やはり奇妙な印象を受ける。落ち着かないカルラを背に、シュラは床に座るジャックに尋ねた。


「ジャックさん、この血液はどうされたのですか?」


 一瞬、何のことか理解できない様子で固まるジャックは、そそくさと懐を漁り始める。出てきたのは割れた小瓶で、付着している水溶液は薄暗い室内で赤黒く映る。


「これはね~、カルラ君達に売りに持ってきた赤錆なんだ~。お金が無くなっちゃってさぁ」

「赤錆?」

「うん! 幾らくらいに成りそう?」


 答えに困り、黙り混むシュラは、背後に立つカルラに向けて言葉を放つ。


「カルラさん、その武器を納めてください」

「……何もしねぇよ」


 そう呟いて、カルラはそっと大剣を床に置いた。

ジャック・アグラム(21)

趣味……雲を眺める。

備考……

鍛冶屋を含め、誰かに迷惑を掛け続ける男。突飛なことを思い付いては実践し、人柄のせいで大抵失敗に終わる。最近、予言者を始めたのだが、失敗して村から出入り禁止されている。

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