2月13日曇り 『団子屋1名』
「新しいお団子のお味は如何ですか?」
どんよりと雲の流れが鈍く滞る午後のこと、鍛冶屋の前に、和服姿の少女が団子の乗った白い皿を両手で支えながら立っている。見上げた少女の視線の先には、鉛玉を模したような団子の串を口元に寄せ、真顔で咀嚼するカルラの姿が在った。
「独特の臭いが鼻に突いて、舌にとろける味わいは未知との遭遇としか表現できない。食間もジャリジャリするな」
カルラは団子をグッと飲み込むと、後味に顔をしかめながら、正直な感想を告げる。
「まるで汚泥みたいな味だ」
暴言に近い言葉に、少女は戸惑うことなく、真っ直ぐに言葉を受け止めて静かに頷く。
「ええ、泥ですから」
「いや、何てもんを食わせてんだッ!」
道すがら、目が合ったからという理由で試食を受け入れた協力者になんたる仕打ちだろうか。
「……あ~明日、絶対腹下す。そしたらテメェ、うちの商品を買って利益に貢献しろよ」
「いえ、泥を買ったので財布は空です」
「嘘吐くんじゃねぇ。近所の泥と同じ味がしたぞ」
「普段から泥を食べているんですか? 鍛治屋さん」
当然、まだ、一応は、泥水を啜るような惨めな生活をしないで済んでいる。思えば、奇跡としか言いようがない状況だ。
不満げなカルラの様子に、少女は反論を述べる。
「同じ泥でも、身体に良い微生物の居る泥が在るんです。そして、それを求める人々のために、商人だって存在しているわけですよ」
そこまで自信たっぷりと力説されてしまえば、料理に関しては素人以下のカルラは引き下がるしかない。
「へぇ、妙な食文化があるんだな」
「肌に塗るだけで、食べたりしませんよ。お腹を壊したらどうするんですか」
「じゃあ何で食わせたの?」
もはや、ただの嫌がらせである。
精神的にも身体的にも気分が悪くなりそうなカルラに対して、少女は可愛らしい丸みを帯びた顔に、溌剌とした笑顔を浮かべて、跳び跳ねそうな勢いで企画を熱弁する。
「まあ、この失敗を元に、美味しくて健康的な泥団子を作りあげてみせます。楽しみにしてくださいね、鍛治屋さん!」
その意気込みを聞いたカルラは、舌の上で淀んだ不味い唾液を飲み込んで、少女の語る未来を想像する。並々ならぬ覚悟と誇りを持って仕事に励む少女に対して、同じく仕事人であるカルラは、静かにアドバイスを語った。
「いや、野菜で良くない?」
泥である必要性は、たぶん無い。
ジョハリ・マトパラウンド(16)
種族……丸型族
備考……
南方に住まう種族の少女。東方に渡り、団子と呼ばれる食品に感銘を受けて、自身もその道に進むことにした。基本なんでも食べられる種族であるため、味に頓着しない。




