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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
407/411

2月10日晴れ 『蟹1匹』

「新しいの、入ったぞー……ん?」


 そう言ったカルラの足の裏に、何か硬い感触が昇る。石でも踏んだのか、そう思いながら足を退かし、何気なく異物の正体を確認した。


 そこには、あまり見掛けない生物が横たわっている。


「これは何だ?」

「蟹ですね。甲殻類の」


 不意に溢れた疑問に、横に立った弟子のシュラは即座に答えた。

 もちろん、それくらいは食文化に疎くても分かっている。二本のハサミも、硬い殻も、記憶にある姿形をしているだが、一点だけ異なる点があった。


「何でここにカニ? ふつう海とか川とかで生きるもんだろ」


 周辺には、海域も無ければ、蟹が生息するような川もない。そのため、魚市場にも出てくることは無く、カルラも遠征先で一度だけ食べただけだった。

 カルラはまだ息のある蟹を睨んで呟く。


「どうして居るんだよ、ふざけてんのか」

「唐突に、進化の可能性を否定しないで下さい」


 シュラは呆れた様子でそう言うと、カルラと同じく蟹を凝視した。


「しかし、この種類は海に生息するものですね。誰かの落し物でしたら、届けて差し上げなくてはいけません」

「別に要らねぇだろ。売りもんだとしたら、落とした時点で食えねぇし」

「観賞用という選択肢はないのですね……」


 その言葉にカルラは反論を述べる。


「観賞用って言っても、こんな地味なカニに観賞するような価値はねぇよ。この顔を見てみろ、人生をすべてを諦めたような顔をしてる」

「蟹は、大抵そんな顔だったと思いますけど」


 そもそも顔ではないことを、あとで図鑑を見て知った。

 シュラは、すぐに食べようとするカルラから守るように、蟹を両手でそっと持ち上げた。


 幼い肌にトゲを食い込ませ、シュラは表情を強ばらせながら言う。


「それにしても、やはりトゲは痛いですね」


 カルラも深く頷き同調する。


「確かに食いにくいよな。前に食ったとき、硬すぎて歯が欠けるかと思った」

「あの、え、カルラさん? 殻ごと食べたのですか……?」

「え?」

「いえ……」


 思えば、蟹は食べられるとは聞いたことがあったのだが、調理法までは聞かずに焼いて食べたのだった。通りで不味いわけである。


 気まずい空気を変えようと、カルラは口を開く。


「しかし、やっぱ誰も取りに――――」

『ぴぇーーーッ!』


 そのとき、甲高い鳴き声が辺りに響く。羽が目の前に飛び込んだかと思えば、シュラの手から蟹を奪って飛び立つ。


 渡り鳥らしき生物の影を眺めながら、カルラは言った。


「だから言っただろ? 食用だって」

「あの種類の鳥は、虫も食べますけどね」

蟹……

堅い外骨格を持つ甲殻類の生物で、その他水産節足動物も同じように呼ばれることがある。茹でると美味く、中の身を食べられる。人を無口にする魔力を持っている。

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