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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
406/411

2月9日雨 『小鬼1名』

「新しいの、入ったぞー」

「道を教えて」


 小雨が降る夕暮れ時、角を生やした少女が立ち止まる。気温は下がり、少し冷えた時間帯にも関わらず、袖の無い虎柄の衣服を身に纏った彼女は大きく口を開き、小さな牙を見せびらかすように言った。


「ちょっと宇宙までの道を教えてッ!」

「鍛冶屋に分かったら、誰も苦労してねぇ」


 もし仮にそんな道を見付けていたのなら、こんな所で貧乏しているはずがない。カルラが面倒くさそうな目を向けると、小鬼の少女は不満そうに顔をしかめた。


「どうして教えてくれないのッ!?」

「いや、知らねぇからな」

「あたしが嫌いだからッ!?」

「いま丁度嫌いになったな」


 どうやって帰そうか。思考がそちらの方向へと移ったとき、背後で注意の声が聞こえた。


「カルラさん、女の子を虐めてはいけませんよ」

「どう見ても俺の方が困ってるだろうが。今にも殴っちまいそうだからな」

「はい。だから止めたのです」


 弟子のシュラは呆れた様子でそう言った。そして、目の前の客人を見ると、少々の特徴から種族を思い出す。


「この方は、小鬼族のようですね。角を生やした背丈の低い民族で、病や薬剤に強い耐性を持つ方々と聞いています」


 薄着で平気なのは、そのせいだろうか。

 カルラが関心しているのを余所に、少女は頬を膨らませて不満を漏らした。


「宇宙に行けないと、あたしは困るの」

「だからって、宇宙への道なんて言われても、俺達が困るんだよ。一人で巨人の星でも探してろ」

「カルラさん、それは他作品です」


 投げやりな言動に、シュラは冷静な注意をすると、少女は聞こえない声量で言った。


「今回はまた、変わったお願いを頂いてしまいましたね」

「無茶を言われるのは慣れてるけど、今度は宇宙か」


 あまりにも遠すぎる。

 子供が行きたいと空想するのは、分からなくもないが、それで困るような事情に関しては疑問が残る。


「なんで、そこまで宇宙に行きてぇんだ?」

「流れ星が欲しいんだ」


 流れ星?


「三回お願いすれば、それが叶うんだろ。あの子の病気だって、治るかもしれないじゃないか」


 泣き出しそうな目で、少女はそう訴えた。カルラは小さく溜息を吐くと、乱暴に、角の生えた頭を撫で回す。

 一通り撫で終えると、カルラは小さく語りだした。


「馬鹿言うんじゃねぇよ。願ったところで、病気が治るなら医者は要らねーよ。願ったところで、死ぬ奴は死ぬ」

「でも……」


 少女が言うよりも先に、カルラは言葉を続けた。


「だから、傍に居てやれ」


 雨粒が弾ける中、その声は静かに響く。


「遠くで傍観者を気取ってる、お星様なんかより、身近で自分を想ってくれる奴の方が頼りになる。空に手を伸ばしてる暇があるなら、そいつの手でも握ってやれ」


 想いの籠った発言に、少女は瞳を湿らせる。そして、何か迷った様子で左右を見ると、カルラに向かって無邪気な笑みを見せた。


「うん。まあ、風邪なんだけどね」


 自分が勘違いしていたことを諭されたカルラは、小さく胸を撫で下ろす。


「カルラさん、落ち着いて下さい」

「まだ何も言ってねぇよ」

「では、その手に持った棍棒を置きましょうね」


 宇宙まで逝くのなら、これが最短なのに。そんな事を思いながら、カルラは武器を置いた。

コニー・ブラウン(17)

特技……笑う。

備考……

とある貴族の使用人の家系に生まれた少女。賢くはないが、元気で丈夫なため、頼りにされる事が多々ある。優しいが、看病は阿呆。


小鬼族……

強靭な肉体を持つわけではないが、毒や熱、寒冷等には非常に強いため、毒ガスを用いた戦闘で敵を翻弄することができる。

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