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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
405/411

2月9日晴れ 『落武者1名』

「新しいお化け屋敷って、ここか?」

「は、はひっ。そ、そそ、そのはずです」


 隣町の娯楽施設を訪れていたカルラ達は、まだ開店前の店舗を見学している。

 不気味な装飾が施された施設内は、自然と足取りが重くなった。そんなカルラの足に取り付き、震える弟子のシュラは言う。


「やはり止めませんか? このような事、間違っていますよ。世のことわりとして」

「大きく言うな、信じちまうだろうが」


 掴まれて異様に重い足を引き摺りながら、カルラは欠伸混じりに答えた。大して怖くもない設備なのだが、霊的な存在が苦手なシュラは恐怖しているようだ。


「金を貰ってる仕事なんだから、帰る訳にはいかねぇだろ。俺一人で行くから、お前だけで戻れ」


 足も重いし。


 カルラの心遣いに対して、シュラは思い直した様子で、大きく首を横に振る。


「だ、駄目です。女性の意見も聞きたいと言われていま―――」

「うらめしやァッ!」

「きゅう……」


 会話の途中で壁から現れた落武者に驚き、シュラは力無く倒れた。頭を打たないように支えるカルラは、無事を確認してから落武者を睨む。


「ったく、何てことしやがる」

「え、いや、お化け屋敷だからね?」


 戸惑う落武者は、矢の刺さったハゲ頭を擦る。


「でも、まさか気絶しちゃうとは思わなかったなぁ。そんなに怖かった?」

「ああ、生身の人間が一番怖い」

「社会の闇でも見たの?」


 カルラの的外れな回答に、落武者は不満げな反応を示す。


「お化け屋敷の感想を言ってよ。そういう仕事でしょ?」

「仕掛けがショボい、メイクが弱い、客に近すぎて危ない」

「急に本気の説教もやめて、辛い……」


 じゃあ、どうしろと?

 自身の衣装を見回しながら、落武者は肩を落とす。カルラはシュラを抱えて立ち上がって尋ねた。


「出口はどこだ?」

「え、もう帰っちゃうの?」

「弟子が気絶してんだ、仕事にならねぇだろ」


 そう言って、来た道を引き返そうとするカルラの腕の中で、シュラは声を漏らす。


「ふにゃ、ふぁっ! 起きてます!」


 なんとか目を覚ましたシュラに、落武者は胸を撫で下ろした。


「良かった、これで続き――――」

「きゅう……」

「えぇッ!?」


 声を聞いただけで、再び気絶してしまうシュラに、落武者は驚愕する。カルラを非常口に案内しながら、落武者は本物のように、悲しげな感情を背負って歩く。


「そんなに怖い?」

「お化け屋敷だろ。誇れよ」

「流石に傷付く」

お化け屋敷『和』……

サーカス団が経営する娯楽施設の一つで、東洋に伝わる恐怖を再現している。落武者以外にも、皿屋敷の番長や、四ヶ谷の階段等が出てくる。

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