2月9日晴れ 『落武者1名』
「新しいお化け屋敷って、ここか?」
「は、はひっ。そ、そそ、そのはずです」
隣町の娯楽施設を訪れていたカルラ達は、まだ開店前の店舗を見学している。
不気味な装飾が施された施設内は、自然と足取りが重くなった。そんなカルラの足に取り付き、震える弟子のシュラは言う。
「やはり止めませんか? このような事、間違っていますよ。世の理として」
「大きく言うな、信じちまうだろうが」
掴まれて異様に重い足を引き摺りながら、カルラは欠伸混じりに答えた。大して怖くもない設備なのだが、霊的な存在が苦手なシュラは恐怖しているようだ。
「金を貰ってる仕事なんだから、帰る訳にはいかねぇだろ。俺一人で行くから、お前だけで戻れ」
足も重いし。
カルラの心遣いに対して、シュラは思い直した様子で、大きく首を横に振る。
「だ、駄目です。女性の意見も聞きたいと言われていま―――」
「うらめしやァッ!」
「きゅう……」
会話の途中で壁から現れた落武者に驚き、シュラは力無く倒れた。頭を打たないように支えるカルラは、無事を確認してから落武者を睨む。
「ったく、何てことしやがる」
「え、いや、お化け屋敷だからね?」
戸惑う落武者は、矢の刺さったハゲ頭を擦る。
「でも、まさか気絶しちゃうとは思わなかったなぁ。そんなに怖かった?」
「ああ、生身の人間が一番怖い」
「社会の闇でも見たの?」
カルラの的外れな回答に、落武者は不満げな反応を示す。
「お化け屋敷の感想を言ってよ。そういう仕事でしょ?」
「仕掛けがショボい、メイクが弱い、客に近すぎて危ない」
「急に本気の説教もやめて、辛い……」
じゃあ、どうしろと?
自身の衣装を見回しながら、落武者は肩を落とす。カルラはシュラを抱えて立ち上がって尋ねた。
「出口はどこだ?」
「え、もう帰っちゃうの?」
「弟子が気絶してんだ、仕事にならねぇだろ」
そう言って、来た道を引き返そうとするカルラの腕の中で、シュラは声を漏らす。
「ふにゃ、ふぁっ! 起きてます!」
なんとか目を覚ましたシュラに、落武者は胸を撫で下ろした。
「良かった、これで続き――――」
「きゅう……」
「えぇッ!?」
声を聞いただけで、再び気絶してしまうシュラに、落武者は驚愕する。カルラを非常口に案内しながら、落武者は本物のように、悲しげな感情を背負って歩く。
「そんなに怖い?」
「お化け屋敷だろ。誇れよ」
「流石に傷付く」
お化け屋敷『和』……
サーカス団が経営する娯楽施設の一つで、東洋に伝わる恐怖を再現している。落武者以外にも、皿屋敷の番長や、四ヶ谷の階段等が出てくる。




