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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
403/411

2月7日晴れ 「目玉焼き2つ」

「新しい目玉焼き、焼けましたよー」


 台所から、シュラはフライパンを片手にそう言った。朝食としては一般的な、いわゆる外れの無い品選びに感心しながら、カルラは目の前に運ばれて来た皿を見る。


 そして、向かいの席に着いた弟子に言う。


「ずっと気になってたんだ。シュラ」

「ふぇ?」


 カルラが落ち着いた声色で呟くと、シュラは一瞬理解できない様子で口を半分開いて静止し、次に全身を真っ赤に染めて慌てふためいた。


「え、あっ、ふぁ、は、はいっ!? わ、私も、その……」

「ん? なに動揺してんだ?」

「なんでもありませんっ!」


 何をどうして怒鳴られたのか、正直分からないが、たぶん自分は悪くない。カルラは内心で言い聞かせていると、シュラは赤い顔を両手で隠しながら尋ねる。


「そ、それで、何でしょうか?」


 ここまで大袈裟に反応されると、言い出しにくい。しかし、今誤魔化したところで、また同じことを言わなければいけなくなる。

 カルラは意を決して、目の前の皿を指差した。


「目玉焼きに、ハチミツって掛けるものなの?」


 本日の朝食は、目玉焼きとトースト、あとはサラダで構成されている。それなのに、パンケーキへのリスペクトなのか、目玉焼きには甘い蜂蜜が掛けられているのだ。


 シュラもその間違いに気が付いたようで、顔を覆っていた手を口元に移動させ、申し訳なさそうに言う。


「あ、もしかして、お砂糖の方が良かったですか?」


 どれだけ人生が辛ければ、そこまで甘味に走るのか。


「違ぇよ。普通、目玉焼きって言ったらタバスコだろうが。人生と同じで甘くないもんだ」

「その痛みを伴う選択も、どうかと思いますけど……」


 戸惑うシュラは、小さく一息吐くと、赤みの引いた顔をカルラに向ける。


「私の故郷では、玉子料理は全て甘口でした。それにカルラさんも、何も言わなかったので、てっきりこれが一般的なのかと思っていました」


 確かにその通りなのだが、しかし、こちらにもそれなりの、聞くに聞けなかった理由があるのだ。


「仕方ないだろ、俺の料理はもれなく炭だったんだから。黒くない飯の食べ方なんて忘れちまった」

「何ですか、その記憶を犠牲にする食事……」


 辛い記憶は忘れるに限る。

 シュラは呆れたような表情を浮かべながらも、理解を示して頷いた。


「次からはタバスコも用意しますので、他にも何か気になる事があれば、言って下さいね」

「はいよ」


 互いを尊重すること、そんな当たり前のことが出来なければ、共生の道は開けない。他人にとって、自分は別人なのだから。


「……ああ。あと、酢豚にパイナップルは入れないよな?」

「残念ながら、酢豚にパイナップルは入れるものです」


 解せない。

カルラの手料理……

様々な調味料を使った炭。漢方薬などの手近にあった物を適当に放り込んでいるため、謎の効能が生じる場合がある。食べるな危険。

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