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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.12~
402/411

2月5日晴れ 『医者1名』

「新しい口癖を考えてくれないか?」


 鍛冶屋の店内で、長椅子に腰を掛けた医者の男、ユバス・レ・マットは湯飲みを片手に願い出た。店主であり、彼の友人でもあるカルラは、訝しそうに首を傾げる。


「今さらキャラ作りか? 遅ぇんだよ。ここまで読んでくれてる読者は、大体テメェの性格を知ってんだ。諦めろ」

「カルラさん、読者って何ですか?」


 ナンダロウネ。

 戸惑う弟子のシュラの質問を欠伸で紛らわしていると、ユバスは長椅子の空いた席に湯飲みを置いて、静かに口を開く。


「そんな理由ではない」


 不機嫌に見える真顔を浮かべながら、ユバスは説明を始める。


「最近、患者の僕に対する反応が余所余所よそよそしいと思ってな。友達のように接して欲しいわけではないが、異常があれば即座に伝えられる関係が、医者としては望ましい」


 言い分として納得できるのだが、そのあとの行動が理解できず、カルラは疑問を呟いた。


「それで口癖か?」

「まずは会話から改善する。良い意見があれば金を払う」


 やはり解らない。。そもそも患者を殴るような暴力医者だから、避けられているのではないのだろうか。

 しかし、金を払うとまで言っているのであれば、断る理由は見当たらない。カルラはそう思い、腕を組んで考え始める。


「そうだなぁ……」


 ユバスの性格や特徴を踏まえ、あまり本質と離れすぎない言葉を探す。そして、十秒ほど考えたカルラは提案した。


「『地獄に送ってやろうかッ。』……なんて、どうだ?」

「それを医者が言うと笑えない」

「お医者さんでなくとも、駄目ですよ?」


 自信の在った回答が即決で断られてしまったカルラは、あからさまに不満そうな表情を浮かべて言う。


「でも、これ以上にお前に合った言葉なんて無いだろ? これを言って、絶望のドン底に叩き落とすのがお前の役目だ」

「僕は死神か何かかッ!?」


 失礼極まりない発言に、ユバスは椅子から立ち上がって憤慨する。拳を握ったが、カルラの言葉を肯定するように思えたのか、すぐに下ろした。


「もういいッ! シュラ、君に頼んだ」

「え、私ですか!?」


 カルラの背後で会話を見守っていたシュラは、突然の指名に戸惑いつつも、指先を唇に当て、真面目に考えを巡らせる。


「え、えーと、そうですね……。『君のハートをオペしたい』は、如何でしょう?」


 頑張って答えた弟子に、カルラは暫く沈黙する。そして、シュラの小さな頭を撫でながら言った。


「……無いな」

「済まない」

「自分で言っておいてなんですけど、駄目ですね」


 全員が却下すると、カルラは面倒くさそうな口調で、ユバスに諭した。


「やっぱり、お前の印象は俺達じゃ直せねぇ。恨むんなら、自分を恨め」

「うるさい。地獄でオペしてやろうか?」

「それ、もう死んでるよな」


 不貞腐れたユバスは、湯飲みを持ち上げて口を付ける。空の湯飲みは冷めきっていた。

ユバス・レ・マット(21)

好きな食べ物……トマト。

備考……

迷惑な患者に鉄拳制裁で応える医者。医院での評判は二分しており、看護婦達には称賛され、男の職員達からは嫉妬されている。以前同じように暴力を振るった別の医者は、懲戒処分を喰らった。

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