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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
39/411

2月4日強風 『狩人1名』

「新しいの、入ったぞー」

「……動くな」


構えられた鉄の筒は、カルラの眉間に真っ直ぐ向けられていて、照門の上で狙いをつける鉛色の瞳には、淡い光が揺れている。


何故こうなったのか、それを一言で説明することは極めて難解である。


「お前、私のパンツ見ただろ……!」


頬を真っ赤に染めて、左目に眼帯を付けた少女はそう言った。

まあ、一言で言えばそうなるのだが、別に見たくて見たわけではなく、風が吹いたところに彼女が通り掛かり、薄い布切れが捲れたことが原因だ。

ああ、あとついでに、綺麗な足だったのも原因の一つだ。

とりあえず誤魔化さなければ、俺は店中に脳液をばらまいて昇天し、小説がR18に昇華してしまうことだろう。

カルラは腕を組んで、真面目に固めた顔で言う。


「誰も見てねぇよ。熊ちゃんパンツなんて」

「見ているじゃないかっ! 今すぐ頭から脳を消し飛ばしてやる!」


参ったな。今はシュラが買い物中で、お子様の雰囲気で切り抜けることは出来ない。


彼女が構えて居るのは火縄銃で、王都で開発された最前端の武器なのだが、威力が分からないため、不用意に避けて店が壊されても困る。


あとで叱られるのは俺なのだから。


「悪かったって。……だが、わざとじゃねぇんだ。神様だってそう言うだろうぜ?」


引き金に掛けられた指に力が入る。


「風のせいだと言うのは分かっているが、お前が私の下着を見たことは許されるべきではない。文句は死神にでも言ってろ」

「何でだよ。三途の川渡りながら男子の会話みたいなのやらなきゃいけないんだよ! あと、俺が死ぬときは天使がやって来て、犬ぞりで召されるんだよ、すっげー感動を生むんだよ」

「生むのはせいぜい、フラグだろ! 一番最初に逃げ出して死ぬんだ!」


よく分からない会話になり始めた二人のにらみ合いは悪目立ちして、周囲の人々の視線を集めている。

それでも誰も助けに来ないのは、人望ゆえか、楽観視ゆえか、あるいはそこまで気にしていないのか。

下手に動かれても撃たれるから良いのだが、少しだけ悲しくなってくる。


「そろそろ落ち着け。俺を殺したって意味無いだろ? 他にも見ている奴がいたかもしれないし」

「そうかもしれないが、でも……もう20になるのに……熊ちゃんパンツなんて……恥ずかしいだろ?」


急に乙女されても困る。


「大丈夫だよ。俺の同居人なんて、自分のこと大人だって言うのに、兎やヒヨコのパンツを履いているんだ。ざらに居るから気にすんな」


カルラがそう言うと、少女は目を伏せて、少し嬉しそうに微笑んだ。


「そうか……。私だけではないのか……」

「そうそうそう!」


ここぞとばかりに頷き倒すカルラだったが、彼女は冷たい視線で銃を構え直した。


「ま、下着を覗いたことを反省してないから許しはしないがな」


引き金に力を込めて手前に引くと、乾いた音が響き渡る。しかし、弾丸は反れて、建物の梁に当たっていた。


驚きで見開かれる瞳には、強い風に煽られて、大きく上を向いた銃身が写っていた。


「大丈夫ですか?」


魔法を打った手を下げて、シュラは何のこともなく尋ねる。カルラは大手を振って、大袈裟に感謝を表した。


「おー! シュラ、ありがとな。あとでお小遣いをやろう」

「要りません。それで、お客さんは大丈夫でしたか? カルラさんに何か嫌なことでもされましたか?」


俺の心配では無かったようだ。


「つらかったですよね? もう大丈夫です。こんな人のために人生を棒に振らないで下さい」

「ああ、ありがとう。少々取り乱したようだ」


あれで少々か。女の子って怖い。


「落ち着いたら、またお越し下さい。……お名前を伺ってもよろしいですか?」

「リアン・ファルコネット。旅の狩人だ」


握手をして、リアンは銃を背に乗せて去っていった。今度は風に気をつけて、スカートを押さえているらしく、つまらない。


「まったく、はた迷惑な奴だったな。怖い怖い」

「それではカルラさん、問題です」


店の奥の戻ろうとするカルラに、シュラは冷たい笑顔でそう言った。


「家事をしないはずのカルラさんが何故、私の下着の柄をご存知なのでしょう?」


当てずっぽうだったのだが、当たってしまったらしい。青い顔で命乞いをするカルラに、骨身を削る竜巻の魔法が炸裂した。


女の子って怖い。

リアン・ファルコネット(19)

特技……遠距離射撃

備考……伊達政宗をイメージしたキャラなのだが、かなり可愛い趣味の女の子になっていた。世の中って不思議。

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