2月3日曇り 『町娘1名』
「新しいの、入ったぞー!」
カルラはいつも以上に気合いの入った声でそう言うと、次の瞬間その勢いが沈んでいくのが目に見えて分かった。
髪が長く、スカートを履いていたため、その人物が女性だと分かったのだが、年端もいかない子供だったときの反応だ。
ここ、テストに出るから覚えておこう。
そのことを理解したらしい少女は、頬を膨らませて、青臭い演技で大人っぽく振る舞う。
「ふーん、アンタがド変態のカルラってやつね。聞いていたとおり、冴えない独身男の顔ね」
冴えないは余計だ。
しかし大抵、人より上に立とうとする人は、人より下に居るものだ。
カルラは腕を大きく振って否定を表す。
「あ~、それは隣町の話だよ。悪いがそっちに行ってくれないかな」
「嘘……。私、間違えたの? どうしましょう、困ったわ。ここに来るまでの運賃しか持ってないのに……」
それはどちらにせよ帰れないし、ここから行ける隣町は、この少女が来た場所しかない。
どうやら、おつむが緩い子らしい。
「もうっ! 女の子虐めたらいけませんよ!」
「シュラ、たぶん客だぞ。だが、金は無さそうだ」
「…………お客さんですか?」
最近シュラちゃん、お金のことしか考えてない。その原因がオレだから何も言えないけど。
「そういや、うちに何の用だったんだ?」
「え? やっぱり、ここがロリコン変態鍛冶屋だったの?」
「人違いだ、とっとと帰れ」
「いいえ、こんな幼い子供が居るのなら見過ごせないわ!」
腰に手を当て、自信を持った語気で言いきった。その瞬間、シュラの表情が抜け落ちた。
「……私、子供ではありません。ありません。アリマセン……ーーー」
最近、誰にも信じて貰えないから拗ねてしまったようだ。
「わ、私のせい……?」
「そうだな。こいつはこんなにも幼く、幼い、幼すぎる子供だが、中身は大人なんだ」
「カルラさん、断罪しますよ?」
俺がいつ罪を犯したっけ。最後がいつかは覚えていない。
「私は、こう見えても17歳なのです。だから、私のことを子供扱いしないでください」
「そうなの~、あ、お菓子あげるわ」
「ありがとうござーー……信じてください!」
乗せられる方も悪いが、必死に訴える弟子が、少し憐れに思ったカルラは遅い助け船を出した。
「本当らしいぞ。だから、子供扱いしてやるな」
「にわかに信じがたいわね」
「じゃなきゃ弟子にしねぇだろ?」
採用基準が魔法の有無だったことは、すでに頭には無い。しかし、その言葉で納得したらしい少女は微笑む。
「分かったわ。お兄様達が勘違いしていたのね」
「お兄様?」
「ええ、私はテウス・レ・マットよ。私が最初に暴いたんだから、急いで自慢してくるわっ! それじゃね!」
上機嫌で、少女は走り去っていった。能天気なその様子を見て、カルラは呟く。
「絞りカスか……」
テウス・レ・マット(15)
特技……算数
備考……優秀なレ・マット家で唯一の落第者。しかし、馬鹿な子ほど可愛い。




