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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
36/411

2月1日暗い 『出張中』

「新しいの、見つけたぞー」


種類も分からないような、貴重らしい石ころを片手に、カルラは笑みを浮かべる。

そんな様子を見て、ヘルメットのライトにシュラは目を眩しそうに細めながら、素っ気なく尋ねた。


「……カルラさん、ここはどこですか?」


その問いに、カルラは周囲を一度見渡して、視線を元に戻す。

どこまでも続くほの暗い洞穴内には、ランタンで照らされた二人と、採掘道具の影が延びていた。


「どこって、北にある鉱山だ。経費削減のために自分で掘れって、シュラが言ったんだろ?」

「私が聞いているのは、ここが鉱山のどこなのかということです。完全に迷ってますよね? お腹が空いてきましたよ」


地図も持たずに探索してから五時間が経過した今、二人とも帰り道を見失っていることに気がついたようだ。


「人間みんな、己を見つける迷子のようなもんだ。んな小さいこと気にすんなよ」

「しますよっ! 少しも危機感持ってないのですから!」

「……って言っても、手掛かりもねぇからなぁ」


そう言って、しばらく無音が続いた。何か気がついたらしく、カルラはピッケルを足元に置いて、歩きだす。

シュラもランタンだけを手に取り、慌ててその後を追う。


「どうされましたか?」

「向こうの方で水の音がした。もしかしたら、川に繋がっているかもな」

「本当ですか!? それを辿れば、出口も見つかるかもしれませんね!」


音を頼りに、確かめるような足取りでしばらく進んでいくと、予想通り、そこには川が流れていた。

しかし、そこに光はない。


「行き止まりですね」

「ああ、空洞があるだけだな。苔が生えてるから、気を付けろ」


灯りで照らすと、反射した鉱石の結晶が輝きを持つ。奥まった場所にあるためか、誰も手を付けていないようだ。


「穴場だな。ここも掘っておくか」


そう言って来た道を戻ろうとした時、川から這い上がるような水音が響いた。

誰もいないはずの川であるため、驚いて振り替えると、そこには人の形をした生物が立っていた。


「あれは……?」

「マーマンだな。早い水流に住む魔獣で、武器を使うことで有名だな。塩焼きが美味いらしい」

「食べませんよ!?」

「腹が減ったって言ったじゃねぇか」


確かにそれは事実であるため、言い返せずにシュラは口ごもり、話を反らす。


「い、今はそんなことはいいではないですか。魔獣なんて危ないのでは?」

「大丈夫だよ。群れでなけりゃ、かなり弱い」


そう言った瞬間、川の水が荒れだして、無数の水掻きが地面にでついた。

一匹だったはずの魚介類が、二十まで増えて、丸い目玉を光らせている。


「群れになりましたよ?」

「かなりヤバイ。逃げるぞ!」


手をつかむと、急なことに対処できずシュラは転んでしまう。

カルラが駆け寄ると、マーマン達はすでにそこまで迫っていた。

攻撃の合図をするかのように一匹が鳴くと、マーマンの群れが攻撃を始める。

やむ得ず、カルラは素手で立ち向かう。


ゴゴゴゴッーーー。


何が動く音がする。とても大きなものが、こちらに向かって動いている。

先程まで攻撃的だった魔獣が怯えて川の中に戻っていく。


助かった。

そう思ったのも束の間、暗くて気づけなかった天井に穴から、水が落ちてくる。


「カルラさんっ!」

「クソッ!」


空間は水で満たされ、二人の体は流されていく。

辛うじて掴んだ手を離さないようにして、それでも川の流れに巻き込まれて、二人は流されていった。

行き着いた先は、鉱山の入り口とは反対の緑生い茂る谷だった。

撫でるような風が体温を奪う。


何とか意識を失わずにすんだカルラは、シュラを抱えて水から上がった。


「シュラ、大丈夫か?」

「え、ええ。死ぬかとお持ちましたけど……」


とりあえず、当初の予定通り出口は見つけた。

ぐったりとしたシュラが、深く息を吐く。


「もう帰りましょう。そして、二度と来ません」


そう言ってから数秒後、カルラはあることに気がつく。


「やべっ! 荷物置いてきた!」

「もしかして、戻るつもりなのですか!?」

「当たり前だろ。あそこには鉱石も道具も置いてきたんだから!」


洞窟を出たのは、それからさらに十時間後のことだった。


マーマン……水性魔獣の定番。半魚人の雄と思われていたが、別個体であることが判明している。ソテーにすると美味しい。

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