1月31日雨 『作者1名』
「新しいの、入ったぞー」
徹夜で行った仕事の疲れが、未だに抜けていない様子で、低く掠れた声でカルラはそう言った。
目の前にいる客は傘を片手に、細く小さい体を目立たせるように、爪先立ちでカルラを見た。
「初めまして、No.と申します」
カルラは、にこやかに挨拶する人物を一瞥すると、下に向けた顔を正面に戻し、自分の首に手を当てる。
「そうか、今日はすごく眠いから、早く帰ってくれないか」
「もうちょっと構って下さいよ! 私、この日物凄く待っていたのですから!」
そんな叫び声に反応するように、家屋部分の扉が開く。
横開きのその扉には、白く、No.よりも小さな女の子が、仮眠でもしていたらしいボサボサの頭で現れた。
雨粒の弾ける音が、町内全体に反響する。
「カルラさん、どうされましたか?」
「いや、何にも。ただ頭のイカれたヤバい奴が来ただけだ」
「そこまでのことしてませんよねっ!?」
あまりに失礼なことを言うカルラの言葉に、No.は頭を眉間をつまんで嘆かわしいとばかりに首を振った。。
「……まあ確かに友人達には、変わっているとか、狂っているとか、本当に人間かと言われますが、至って普通の人類ですよ」
「本当に何をなさったのですか?」
訝しげな表情を浮かべて尋ねるシュラ。それを無視して、No.は話を変える。
「君達が楽しそうなのを確認したから、もういいですよ。私もわりと疲れたから」
「知らねぇよ。てか、何も買わねぇなら来んじゃねぇ、面倒だ」
傘を回して、No.は不思議そうに首を傾げる。
「誰が買わないと言いました?」
「何だ、買うのか?」
「買いませんよ、お金ありませんし」
二度手間である。
ケラケラと笑い声を上げる顔に、カルラは腕を組んで、無愛想な顔を変化させずに口を動かした。
「シュラ、鎚を持ってこい。こいつを叩き割ってやる」
「ダメですよ!? お客さんが死んでしまいます!」
すでに拳を振り上げているカルラを押さえ込むシュラ。
その光景を見て、No.はつまらなそうな笑みを浮かべ、手を振る代わりに握って開いてを繰り返してから、通りを歩いていく。
「今月も無事、手慣らしとして始めて、形態を掴めました」
ふわりと地面から足を離し、No.は空を歩くように雨雲に消えていく。
珍しいその光景に、鍛冶屋の二人は目を丸くしていた。
「また来月、機会があればお会いしましょうね。以上、No.でした」
独りで何か言葉を発しているようだが、届く前に雨音が遮る。
飲み込めない状況の変化に、シュラはポツリと呟いた。
「えと……、変わった方でしたね」
「そうだな、狂った奴だった」
本当に人間かも定かではないが、来月も来ることだけは確かだった。
No.(?)
趣味……読書と執筆
備考……小説の世界に行ってみたいという理由で、始まる前から予定されていた人物。物語に一切影響しない、どうでもいい存在。