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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
33/411

1月29日晴れ 『南の森にて』

「新たに侵入者を確認したようだ」


腰に角笛を付けた伝令のエルフは、見張りをしていた二人のエルフにそう言った。長弓を肩に掛けて一人が尋ねる。


「何人だ?」

「1人。武器も持っていないが、西と東のことがあるから、見に行ってほしいそうだ」


今度は大きな斧を背負ったエルフが尋ねる。


「了解。特徴は?」

「こんなのではないでしょうか?」


そう言ったのはエルフではなく、髪を隠し、純血を示すような色気の無い服装をした修道女の姿だった。

確認不足だったのか、彼女は先ほどまで警戒していた場所に立っている。


「残念だが、今は町に入れない。明日ならいいぞ」

「私は今すぐ通りたいのです。ようやく傷が癒え、鍛治屋さんの幼女様を手に入れるのですから」


鍛冶屋と聞いて、カルラの仲間であると思った斧エルフは、脅かすように一歩ずつ、か弱そうに見える修道女に歩み寄った。


「それなら話は違うな。悪いがしばらくの間、拘束させてもらうぞ」


そう言った瞬間、まるで世界が暗転するかのように修道女の目付きが変わる。

そして、誰に言うのか、彼女は囁くように告げた。


「レラジェ様、やはり変質者でした。お願いします」

「シトリー様、分かりました。幼女を狙う変質者は許しません」


返事を口にする声は真後ろで、斧エルフが振り返る間もなく固い金属音が首に巻き付いて離れなくなる。

斧エルフは首のチェーンなんとか取ろうと引っ掻いて暴れるが、そこまで腕が回ることはなかった。


「アガッ……ガハッ!」


突然現れたもう1人の修道女を取り押さえようと、弓のエルフが動く。


「離しやがーーーウガッ、ゲホッ!」


何が起こったのかと、自分の足元に目を向けると、影になって見えていなかった最初の、武器を持っていなかったはずの修道女が、両手に鈍器を構えて攻撃していた。

腹に入ったその衝撃になす術もなく、エルフは膝をついた。


「援軍を要請しなければ」


遠巻きでその様子を見ていた伝令は、危機を悟って急いで撤退する。そして、思い切り、勢いよく角笛を吹く。


ブアォゥ~~~!


と、森中に響くほどの重低音が鳴るのだが、それに反応する者は誰一人として居はしなかった。


唖然、呆然、角笛を落として立ち止まる伝令エルフは、目の前にある光景に愕然とした。

見張っていた十数名のエルフの戦士達が、虫の息で倒れている。


何が起こったのかを尋ねる前に、答えが返る。


「レラジェ様、もう気配はない無いようです。この影の薄い方以外は」

「シトリー様、もう大丈夫だと思いますよ。あとはこの影の薄い方だけですから」


そう言って、鈍器も、鎖も、体のどこかに隠して二人の修道女が、伝令エルフの横を通りすぎていく。


汗だくで、武器も持たないエルフには、その背中を追うことは出来なかった。

超短編『暗殺修道女が居たわけ』


「レラジェ様、変態店主から幼女様を救ってこそ、我々は神の使いではありませんか?」

「シトリー様、変態店主の洗脳を解いてこそ、私達は救われるのですよ」

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