表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
30/411

1月28日曇り 『行商人1名』

「新しいの、入ったぞー」


今日も鍛冶屋の前でつまらなそうに、通りを行く者達に対してカルラは呼び掛ける。


普段と変わらない行いであるのだが、あまりに何も変わらないため、その横でシュラは不安そうな顔をしていた。


「あの、もう明後日なのですよ? 本当に、このままで良いのですか?」


明後日というのは、昨日の手紙に書かれていた期日で、シュラの兄貴が襲撃してくる日時を事前に知らせてきたらしい。


確かに、友達の家に行くときは事前に連絡するのが礼儀ではあるのだが、それはお菓子やお茶の準備があるからであって、返り討ちの準備をさせるためではない。


しかし、せっかく時間が貰ったのだから、活用するべきところではある。


カルラはシュラの頭の上に軽く手を乗せた。


「心配すんな、成るようになる。あんまり気にすると縮むぞ?」

「えっ、それは本当……て、誤魔化さないでください! 兄が来たら、このお店潰れてしまうかもしれないのですよ!」


少し信じかけたな。

なかなか引き下がらない助手に困り、カルラは頭を掻く。


「そう言われてもな、材料が来なきゃ話になんねぇし。そろそろ来る頃だとは思うんだけど。……お、来たぞ」


そう言った視線の先には、十台の大型牛車の列が工房へと向かって来ていた。


その所帯が店の前まで来ると、中央の一際大きな車の扉が開き、少しばかり若すぎる少女が飛び出す。


「おやおや鍛冶屋の人ではないですかぁ。お久しぶりですね、ねぇ?」

「月一でしか来ねぇからな、お前」


結んだ二つの髪が楽しそうに揺れている。この一派の主とは思えない、無邪気な笑顔が眩しい。


「この方が、行商人さんですか?」


不思議なものを見るようにシュラが尋ねる。確かに小さいが、シュラほどではない。

外見的には十台後半といった姿で、幼い子供のように手を振った。


「そだよ。商業ギルド【杖ノ剣】所属、アラウリィ・クピテア・アーガレット。……君、前も居たっけ?」

「いえ、初めてです。シュラと言います」

「シュラ、シュラ姫、シューちゃん! シューちゃんって呼ぶね、ね! ねっ!?」

「え、は、はい、構いませんよ」


言った途端にアラウリィは跳び跳ね、全身で喜びを表現する。


「ヤッター、親友が出来たよ、鍛治屋さん!」

「そうか、ヨカッタナ」


もはや、どうでもいい。


「挨拶しただけですよねっ!? カルラさんも肯定しないでください!」


あだ名を容認したはずが、思わぬクラスアップをしていることに驚くシュラは、話を変えようとカルラに言った。


「カルラさん、商団を止めたのなら、何か買いたいものがあったのではないのですか?」

「ああ、そうだった。ラウ、龍燐とデンズラーロイト鉱石をくれ」


極めて特殊な要望を聞いて、一瞬理解できていない様子で固まる。


「龍の部位と、隕石? 兵器でも作るの?」

「まあ、そんなところだ。無いのか?」

「無いわけじゃないけど、貴族用に仕入れたものだけだから、かなり高額になるよ」

「どのくらいですか?」


帳簿を片手にシュラが尋ねると、ラウは軽快に算盤を弾き、険しい表情で必要な金額を提示した。


「ざっと、1,500,000Gだね。出せる?」

「ほいよ」


カルラは金貨の入った大袋を手渡す。


「どうしたのですか!? この大金」

「へそくり」


戸惑うシュラを他所に、商談は無事に成立する。商品を置いて、袋を片手に車内に戻るラウは、窓から頭を出して、大きく手を振った。


「またね~! シューちゃん!」


俺は?

石畳に車輪と蹄の音をならしながら、風のように商団は去っていく。また来るのは1ヶ月後だろう。


しばらく大所帯が流れるのを見ていると、シュラが小さく袖を引いた。


「あの、あんな大金使っても良かったのですか?」


額から察したのだろう。あれはシュラが来る前から貯めていた金だった。

自分のせいでそれを使わせたのではないかと、それを心配しているのだろう。


カルラは強気に、大きく鼻を鳴らす。


「ふん、別にたいした額じゃねぇ。それにアレだ、俺の腕を試すための金だから、気にすんな」

「……そうですか。今日は良い日ですね。同年代のお友達も増えましたし」


嬉しそうに、沸き上がる声を抑えるようにしてシュラは笑う。同年代と聞いて、ラウが実は6つも年下であることを、カルラは隠すと心に決めた。


今落ち込まれたら、きっとしばらく立ち直れないだろうから。兵器開発の計画を練り、カルラは工房へと戻る。


周囲を取り囲むように夜営するエルフの戦士達には、まだ気づいていない。

アラウリィ・クピテア・アーガレット(11)

特技……商談

備考……商業ギルド長の娘。シュラとは違い成長が早いため、年齢の割には大人っぽい見た目をしている。内面はその限りではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ