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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
29/411

1月27日晴れ 『郵便1通』

「新しいの、持って参りましたー!」

「わかった。だから台詞取るんじゃねぇ」


ある日の昼下がり、休憩がてら外に出たところ、目の前に鳥が降ってきた。

正確には鳥人族と呼ぶらしいそれは、大きな斜め掛けの鞄揺らし、ふわりと羽のような軽い動作で着地する。


まるで鳥のそれではなく、人間のような降り方を可能にするのは、魔法による効果の末だとシュラは言っていた。


彼の仕事は、遠い町と町の間を飛び回り、書きたいことを小さな紙切れに凝縮した言の葉を配り歩くことだ。


上空を安全に旅してきたのであろう、自分宛の文の一つを手に取り、彼に見せる。


「ところで、こりゃなんだ?」

「ワタシが知るわけないじゃな、あコレは王都図書館の催促状でしたよ」

「読んでんじゃねぇか!」


案の定、プライバシーも何もあったものではない。

空の旅は退屈だと言って、当然のように手紙を盗み見るような輩であることは、彼が郵便配達員として勤務しだしてからしばらくして知ることになった。


上空だから手の出しようもなく、苦情を入れたところで、郵便局は解雇する気配がないため、すでに諦めている。

苦々しく眉間に皺を寄せるカルラに、配達員は言い訳にならない言い訳を口にしたむ。


「だって気になるじゃないですかぁ。目の前に誰かの家庭の事情を左右するものがあるのに、それにクチバシ一つ触れられないなんて、人生の損に違うありません!」

「そんな理由で開けられたら、文通も出来やしねぇよ」

「気にせずにやればいいじゃないですか。ワタシ、応援しますよ。添削とかしてあげますし」

「それが嫌だと言ってんだが?」


言い合っていると、昼食の準備をしていたシュラが店に出てくる。鳥人間と目が会うと、瞳に愛想の良い笑みを浮かべた。


「郵便屋さん、こんにちは!」

「シュラさんどうも! シュラさんにも手紙来てますよ、はいどうぞ」

「ありがとうございます……あっ」


手渡された封書は、堅苦しい封印を施されていた。何かを察したシュラは困ったような顔で、それを何度かひっくり返している。


「誰からですかね?」

「なんだ、知らねぇのか?」

「女性の手紙を勝手に見るなんて、マナーがなっておりませんよ。恥を知ってください」

「その言葉、利子と延滞料金を付けて十倍くらいで返してやるよ」


シュラは手紙を持ったまま、家屋部分に戻っていく。何か大切なことでも書いてあるのだろうか。

配達員は楽しそうにそれを見送って、カルラに言う。


「しかし、変わった手紙ですね。魔法の封印をしてあって、他人は開けられないみたいでしたよ」

「結局、開けようとしてんじゃねぇか!」

「結果がなによりも重要なんですよ」


上下関係のない会社みたいなことを言うと、思い出したように鞄を漁りだした。


「そういえば、小包を預かっていました。判子をお願いします」

「小包? 誰からだ?」


あいにく寒中見舞いをくれるような気前の良い友達はいない。というか、たいした友達がいない。

人間関係構築の難易度に、渋い顔をするカルラの横で、配達員は宛名を見ずに答える


「エイル・レ・マット様です」


先ほど言ったように、たいした友達ではない。友達でもない。


「……中身は?」

「プライバシーですから、ワタシが知るわけないじゃないですか」

「そうか、でも気になるだろ?」


じりじりと後退る肩を掴んでカルラは言う。その辺に廃棄したら、大地が腐りそうで怖いから、開けないわけにはいかない。


無理矢理にでも目の前にいる生け贄に開けさせてやろうと、差し出される荷物をカルラは拒んだ。


「いいえそんなことはありませんよ」

「気になるよな。ほら、一緒に開けようぜ」

「イヤです! まだ仕事が……!」


揉み合う二人の足下に、小包がこぼれ落ち、固く閉ざされた蓋が落ちていく。

ボフンッ。

途端に紫色の煙が立ちこめ、二人は泡を吹いて、地に伏せた。


「ど、どうされたのですか?」


カルラの耳には、戻ってきたシュラの声が聞こえたような気がした。

これが幻聴か現実か、あるいは走馬灯なのかを確かめる間もなく意識は途絶えた。

郵便配達員・ペリカン(24)

特技……余所見飛行

備考……手紙を盗み見る悪癖を持つが、通常の3倍の早さで、確実に運べるため目を瞑られている。

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