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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
28/411

1月26日晴れ 『馬鹿1名』

「新しいの、入ったぞー」

「それでさシュラちゃん、僕は言ったわけだよ! 暴力ははん―――ターッ!」


変わった名言だな。

工房から出ると、入院していたはずのジャックが、あたかも当然というふうに湯飲み片手に談笑していたから、思わず後頭部を掴んで地面にぶつけてしまった。


あとになって、理由を聞いておくべきだったかもと思うが、まあいいやとカルラは続きを始める。


「なあ、どうしてコイツが居んだよ。寝不足で機嫌が悪いから、うっかり殺っちまうところだったじゃねぇか」


黒ずんだ目の下を指して、充血した目で睨む。R15指定されそうな光景ではあるが、カルラだからか、ジャックだからか、通行人は大して驚くこともない。


しかし、シュラだけは相変わらず止めに入る。


「うっかりで、そんなことしないでください! 今はお客さんなのですから!」

「客? シュラ、よく聞け。こいつには金はねぇし、置いていけるような金目の物もねぇ。早く、元居た場所に捨ててきなさい」


野良犬に対する処分のように、カルラがそう言うと、のっそりとした動きで野良人のジャックは立ち上がる。


「カルラくん、酷いよ~。せっかく退院したんだから、優しくしてよ」


すぐにでも病院に戻れそうな血を流して、それでも笑顔でそう言う。痛覚がないのだろうか。


「退院程度で騒ぐんじゃねぇよ。注意深く生きていりゃ、そんなヘマしねぇんだよ。俺を見ろ、こんなに健康だぞ? こういう人間の方が偉いに決まってるじゃねぇか」

「うん、馬鹿は風邪以外にも強いんだね!」


ヘマの原因が寝不足を発症し、ジャックの胸ぐらを掴む。


「……また病院に送られたてぇようだな。うちの商品の試し切りさせてやるよ」

「冗談が荒いよね~。本気にしか聞こえないよ?」

「そうか、それが遺言で良いんだな?」

「もう、いい加減に、してくださいっ!」


カルラの腕を掴んだシュラは険しい形相で叱責し、二人が離れたところでジャックに尋ねる。


「今日はお金を持ってきたのですよね?」

「うん、そうだよ~」


膨らんだ、重量感を思わせる財布をポケットから出し、ジャックは得意気に、いや、いつも通りに笑っている。

しかし、素直に喜べないカルラは、疑念を含んだ眼差しを向ける。


「はぁ? どうやって金を集めたんだってんだ? 盗んだんなら正直に言えよ」


入院していたのだから、そんな時間も無かっただろうのだろうけど。


「実は、出世したんだ~。この前、悪い人捕まえたらしくって、それで警備隊に入れたの。誰のことだろ?」

「あんときのか……」


どうやら、あのときの二人を捕まえた手柄が、何故かジャックの懐に収まったようだ。

天は何故こんな奴に味方するのだろう。


「まあ、せっかくだから、給料前借りして持ってきたんだ~」

「そうかい。ま、貰って置いてやるよ。今度はヘマすんなよ」

「うん! もう爆発しない!」


爆発する要因が、何もしなければ問題ないのだが、ジャックは気づく気配もなくそう言った。

蹄鉄の分の料金を受け取ると、ジャックを送り出す。


これから、町を守る任を受ける人物だと思うと、少々、かなり、ものすごく頼りないが、何とかなると信じよう。


これで多少なりとも正義感に目覚めることを祈りながら、その背中を見送った。


そして、あることに気がついたシュラが言う。


「あの、湯飲みが無いです……」


確かに、床には湯飲みも破片も見当たらない。

物体というものは消えることはない。誰かが持っていかない限りは。


「くっそ、やられた!」


就職祝いのつもりで持っていかれた湯飲みは、残念なことに爆発しない。

ジャック・アグラム(21)

趣味……お喋り

備考……近隣で最も優秀な部署に配属された。国境を警備するような部署に。


レトロ工房の湯飲み……数少ない危険要素を含まないカルラの作品。

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