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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
27/411

1月25日吹雪 『将軍1名』

「寒っ!」


朝方、起きると雪が降っていた。いや、降っていたなんて半端なものではなく、無数の銀結晶が地面に目掛けて突き刺さっていた。


自室の窓から見える景色は案の定、白く染まっている。そもそも窓が凍りついていて、大して景色など拝めはしないのだが、それでも今日の天気を予見させることくらいは許してくれる。


ベッドも寒くなりそうだから、さっさと下に下りるとする。工房の炉に火を灯せば、熱くなるほどに暖は取れる。

悴みそうな足を急がせ、1階に行くと、外へ出る扉を開けた。


目に留まったのは、閉まっていたはずのシャッターが開けられていて、シュラが誰かと話している姿だった。

シュラもこちらに気がついたようで、にこやかにこちらを見る。


「カルラさん、おはようございます。お客さんが来たようですよ!」


指し示すその場所に視線を向けると、氷柱の生えたコートと、頭には氷の王冠を被る、見るからに寒そうな髭の男が立っていた。

手に持った槍を高らかに掲げ、自己の存在を証明するように宣言する。


「我こそはぁ、冬将軍なりぃ~!」


その瞬間、カルラの前蹴りが将軍の顎を命中させた。




室内家屋部分。

暖炉に火をくべ、暖かい飲み物をテーブルの上に置いて、冬将軍に向かってシュラは心配そうに眉を歪める。


「大丈夫ですか? カルラさんが怪我をさせてしまって……」

「シュラちゃん、シュラちゃん、俺も怪我したよ。心配して、腕折れたよぜったい」


ボロボロの体を震わせて、冷たい床に正座させられているカルラが言うと、シュラは辛辣に鼻を鳴らす。


「大丈夫です。明日には直ってますよ」

「シュラちゃん、漢字が違う」


直るじゃくて、治るだから。人体は修理できないから。


「そんなことより」


そんなこと?


「将軍さん、本日はどのような御用事で?」

「ふむ、我は道を尋ねに来たのだ」


冬将軍は髭を撫で、すでに冷めきっている紅茶に口に含む。彼が何者かを知らないらしいシュラは、愛想の良い笑みを見せる。


「雪が降っていますから、大変ですよね」


業を煮やしたカルラは、会話に横槍を入れる。


「いや、原因こいつだろ。シュラ、冬将軍って何か分かっているのか? あと、寒くねぇのか、そんな薄着で?」


シュラの服装は、真冬には少し足りないと思わせるような、生地の薄い上下の部屋着だった。


「私は平気ですよ。子供は風の子、と言うではないですか」


ああ、なるほど。そう納得して頷いてから数秒後、ようやく気がついたらしく頬を赤く染める。


「……子供ではありませんっ!」


もう遅い。


「それで、冬将軍さんをご存知だったのですか?」


尋ねられたカルラは立ち上がり、自分の体温を離さないように腕を組んで、民間伝承にいまいち疎いシュラに、知っている限りの情報を伝える。


「知ってるも何も、有名人だ。世界に冬を運んで、寒さで人々を震えさせる存在だ。この雪だって、こいつがここに居るからに違いねぇ」

「言いがかりではないですか! 冬将軍さんがそんなことをしたという証拠でもあるのですか」

「こんだけ暖房いれても寒い室内が何よりの証拠だっ!」


室内の気温は外気より多少高い程度の一桁台だろう。吐く息が白く凍りついて消えていく。

雪が降っているからと言って、こんなことが起こることは不思議を通り越して、異常だ。


そこまで言われ、将軍は目を伏せて溜め息を付いた。その息も寒いから止めてほしい。


「シュラ君、彼の言うとおりだ。この吹雪は我の責任」

「ほれみろ」

「何か、深い理由があるのかもしれませんよ!」


純真無垢なその瞳に、冬将軍は戸惑う。

さっき自分で道に迷ったと言ったばかりなのだから、その反応は至極当然と言える。

しかし、冬将軍には武の心があるため、嘘を吐くことはない、


「その通り、ここにたどり着く前に大変なことがあったのだ」


こともなかった。武人として、小さな誇りを守るつもりでいるらしい。

カルラの冷ややかな視線に、冷や汗を滴ながら、冬将軍は話を考える。


「我は先ほどドラゴンに遭遇してな」

「え、この辺りにドラゴンはいませんよ?」


早くも地雷を踏んだようだ。何とか巻き返そうと、言葉を紡いだ。


「間違えた。マンドラゴラに足を取られて……」

「いねぇな。もっと南だ」

「兎に追われ……」

「この辺りにはいませんね。もう少し北です」

「人が……」

「しつけぇぞ! てか、人間はどこにでも、うじゃうじゃいるからな。諦めろ、迷っただけなんだろ!」


将軍は唇を噛み、悔しそうに唸ってから、詰まっていた空気を吐き出すように呼吸する。

寒いし、少し臭い。加齢臭だろうか。


外は未だに吹雪いている。


「ふむぅ、その通り。我は道に迷った」

「最初からそう言えばいいんだよ。で、どこに行きたいんだ?」

「おお、有難い!」


行き当たりに神様にでも会ったように、将軍は大手を広げて笑みを浮かべる。


髭の男にそんな反応をされても嬉しくないが、これも人助け、妖精助けと思って、彼の道筋を照らしてあげても良いだろう。

将軍は行先を告げる。


「メイド喫茶はどこに行けばあるのだ?」


その瞬間、カルラのボディブローが将軍の下腹部に炸裂した。

冬将軍(?)

趣味……世直し

備考……女の子が集まる場所を求めて世界を回る。ただし、その身の冷たさと、寒いギャグは評判が悪い。

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