表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
23/411

1月21日曇り 『迷子2名』

「…………チッ」


釜戸の傍の土間に座り込み、カルラは苛立ち気味に拳を地面にぶつけた。

他に誰も居ないと分かりきった店の方から、誰かが近づいてくる気配がする。


「あら、不機嫌そう。また何かやった?」

「なんで毎回、善良な俺が原因だと思うのか聞いて良いか?」

「善良ではないからかしら」


事情を知らないイグは、あるいは知っていても尚、平静で、長い睫毛をゆっくり瞬かせ、真っ直ぐカルラを見据えた。


「あの子と何かあった?」

「占いか? よく当たるもんだな、羨ましい限りだ」

「……」


痛々しい笑みに、イグは掛ける言葉を見失う。

何も言わずに見据えるその視線に耐えかねたカルラは、虚ろに視線を反らした。


「昨日、帰ったらシュラが居なかった。何かあったのかと思って探したら、書き置きが見つかった。里帰りだとよ。んで、もう帰らないらしい」


急いで書かれた文字は脅されたようでもなく、丁寧に封印まで押されていた。

目を伏せて、イグは尋ねる。


「どうするつもり?」

「どうするも、本人が帰りてぇって言うんなら、止めやしねぇよ。好きにすりゃいい」


カルラがそう言うと、イグは呆れたとばかりに溜め息を吐き、もう一度、鈴色の声を室内に響かせた。


「言葉を間違えたわ。貴方はどうしたい?」


カルラは目を閉じ、言葉の意味を噛み砕くように時間をかけ、そして答える。


「……まだ教えてないことばかりだ。だから、戻ってきてほしい、かもな。だが、俺には権限はねぇ。シュラなら、計算も出来ねぇ俺なんかより、ずっと良い師匠を見つけるだろう。大丈夫さ」

「府抜けたわね」


言い訳染みた言い分に、イグは冷たく、淡々とした口調で言う。


「昔の貴方なら、もっと自分勝手に連れ戻したはず」

「うるせぇ、俺の何が分かんだよ。お前は俺の母ちゃんか」

「いいえ、元同僚のイグノラネスよ」


分かりきった発言に真顔に答えたため、カルラは反応に困り、戸惑いながらイグを見た。


「……冗談だぞ?」

「……冗談返しよ」


気づいていなかったらしく、目を逸らされる。朝焼けの逆光が眩しくて見えづらいが、珍しく頬を染めているようだ。

どちらが腑抜けか。

それを誤魔化すように、イグは少し大きな声を出す。


「追いなさい。それを、あの子も望んでいるわ」


その言葉に、カルラは鼻で笑う。


「都合のいい話だな。それも占いか?」

「いいえ、これは乙女の勘」


至って真面目とばかりに、表情を動かさずにそう言った。


お節介な占い師だ。

後悔は先に立たずと言うが、先を見える者はどうだろう。後悔などなく生きられるのだろうか。

いや、もっとマシな未来があれば、自分が何か変えられたのなら、そう思うこともあるかもしれない。


とりあえず、占い師の助言に逆らうよりは、外れたときに慰謝料を貰う方がマシに決まっている。


カルラは膝に手をつき立ち上がり、イグの隣を通りすぎる。


「そうかい。ちょっくら行ってくるよ。言っておくが、お前に言われたからじゃねぇぞ。うちは……ほら、あれだよ、退職届けを手渡しでしか受け取らねぇとかいう厳しい企業だから」


並べられた理由に、イグは満足そうにくすりと笑う。


「あの子は南の森よ」

「そうか。まあ、その、助かった」


礼を言い、カルラは走り出そうと身構える。


「じゃ、行ってく―――」

「―――あっ、東の森だった」


勢いのまま転ぶカルラ。すぐさま立ち上がり、擦りむいた顔をイグに近づける。


「おーい、てめぇ。俺の感動的な場面になんで間違えるのかな?」

「忘れただけよ。早く行きなさい。口臭いわ」

「何それ、ちょっと傷つくからやめて!」


気の抜けるような会話に切りを付け、カルラはもう一度身構える。


「じゃ、今度こそ行くからな!」


止める者も居らず、素早く街道を東へと掛けていく。

残されたイグは唇に指を当て、斜めの方向を見る。


「あ、西だった」


思い出した未来を聞くことは、もう叶わない。

カルラ・ピースメーカー(21)

特技……物作り

概要……筋肉質で高身長は作者の憧れ。作業中は手拭いを頭に巻き、紺の作務衣を着ている。

下着は履いてますよ、どうでもいいね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ