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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
22/411

1月20日霙 『影1名』

「新しいものが入りましたよ!」


誰も居ない通り道に、弾けるような声が響く。夕暮れに、染まることの出来なかった、淡い空をシュラは恨めしそうに見つめる。


「誰も、来ませんね」


独り言は誰に聞かれる心配もない。

冷たい雨の降りしきる今日に限って、カルラは朝から材料を仕入れに行っている。

シュラは置いてあった椅子に座り込み、一人の寂しさを紛らわすようにぼんやりと、流れることのない雲を眺める。

吐いた息は白く凍り、空の透明さに溶けていく。

ふと、視線を落としたとき、すぐ目の前に、気づけなかったことが不自然なくらい自然に、その人物は目の前で立っていた。

枯茶色のフードは、ほの暗い時間に影響され、表情を遠く閉ざす。


「あ、その……こんにちは!」


跳び跳ねるようにして椅子から立ち上がり、放った乾いた挨拶が空回る。

自分の声が胸中で反響し、シュラは頬を紅潮させた。

普通、店の前にいるのだから、いらっしゃいませ、の一言を相手に浴びせるべきなのだが、慣れない一人での接客が意識を麻痺させている。

もう一度、いつもの言葉を思い出し、シュラは口を動かした。


「何か、お探しですか?」

「……何を売っている?」


布で口を覆っているらしく、低い声は聞き取りづらい。

何とか聞き取れた言葉を理解して、シュラは店の棚から商品を紹介していく。


「こちらは、鋏です。作り手の趣味で、ミスリルの合金が使われた丈夫な品です。曰く、象が踏んでも曲がらないそうですよ」


返事がない。ただの しかばねの ようだ。

客人は、どうやら興味を示していないようで、無言でシュラの後ろで、乾いた土間に水滴の跡をつけるだけだった。

真面目で素直なシュラは、相手の要望に答えようと無難な商品を探す。


「釘です。作り手の趣味で、雷雷石が埋め込まれていて、常に帯電しています。使う際はゴム手袋が必須ですが、えと、良い品、ですよ?」


そもそも、無難な商品は数少ない。もはや不良品ではあるが、一応シュラは客の顔色を伺う。

やはり反応はない。

シュラは急いで次の商品を探すが、あまり良いのは見つからない。そして、判断基準も麻痺し、近くにあった商品を客の前に出す。


「か、カステラです! 作り手の趣味で、何故か硬いです。すごく硬いです! 象が踏んでも曲がらないそうです!」


象が踏む機会はないし、たとえ踏まれても食べない。

しかし、そんな奇々怪々な商品を見てか、あるいはシュラの頑張りを見てか、客はようやく要望を述べた。


「……いらん。身を守る道具を見たい」

「え、は、はい! それなら、こちらのナイフが最適です!」


初めて出た明確な言葉に、シュラは張り切って品を定める。

そして、カルラが今朝置いていったものを左手に持ち、満面の笑みで見せる。


「小さくて、持ち運びが出来て、その上威力も高い品です。師匠が自慢の作品ですよ。如何ですか?」

「……なら」


押し曇った声色は、唸るような低さになる。フードの隙間から、反射で光る瞳が2つ。

その両目は、空のように蒼い色をしていた。


「試せ!」

「へ―――あぁ、がっ、ゲホッ……」


客はシュラを壁に投げ飛ばし、そのまま左手と首を押さえつける。ナイフは届くことなく、手からこぼれ落ちた。

苦しそうにもがくシュラに男は問う。


「我らを捨ててまで欲しがったものは、その程度のものか? この程度のものが、我らより価値があるのか? 我らがそこまで憎いか?」

「やめ……はっ」


飽きたと言うように男が手を離す。

棚の上に落ちるようにして倒れ込むシュラは、元から白い肌を、さらに蒼白に染めていた。


「つまらんな、シュラ。お前が得ようとしたものは、これほどまでに下らない」


深く、足りない酸素を求めて肺だけが動き、発声に使う空気が間に合わない。

フードの男は踵を返し、もう暮れた闇夜に進む。


「また、お前の師が居るときに来る。それまでにお前が帰ってくれば、そんな手間も必要ないのだがな」


脅しとも取れる言葉を残し、男は去っていく。

その声色、体型、行動に覚えがあったシュラは、見えない影を追うように、一言だけ呟いた。


「……お兄ちゃん」


雨は凍り、冷たく空気を凍えさせる。

シュラ・トンプソン(17)

特技……全属性魔法

概要……普段の着物は、白い作務衣に足袋。あ、下着は履いてますよ、残念でしたね

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