表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
21/411

1月19日曇り 『占い師1名』

「新しいの、入ったぞー」


と言う前から、彼女はそこに立っていた。

店の前で人形のように表情ひとつ動かさず、深く被った鍔付の帽子の影から、黄金色の瞳を光らせる。


そして、カルラが目を合わせると同時に、作り物めいた綺麗な顔に笑顔を浮かべた。


「あら、久しぶり。元気?」

「イグ……」


彼女のことを知っていたらしく、名前を呼ぶカルラ。その声に溜め息が混じるのは、懐かしさだけが理由ではない。


「こんなところで会えるなんて奇遇ね」


カルラは斜めに掛けた鞄を睨んで、呆れたような口調で言う。


「白々しい、どうせ調べたんだろ。お前に掛かりゃ個人情報なんてあったもんじゃねぇ」

「あら、いつから疑り深くなったの? 前はもっと、単純で、単調で、単細胞だったのに」

「誰がミジンコ脳だ? ……もう関係ねぇだろ。そんなことより、何のようだ? 戻ってきてほしいってんなら、お断りだが」


イグは小さくかぶりを振る。


「違う。ただ様子を見に来ただけ」

「あれ、お客さんですか?」


買い物袋を下げたシュラが帰ってきた。町では見ない、黒く華美な服装に目を白黒させている。

あまり触れられたくないカルラは、なげやりに答えた。


「いいや、単なる冷やかしさ。すぐに帰るから気にすんな」

「あら、何故そう思う?」


イグは当然のようにそう言うと、鞄から金色の懐中時計を取りだし、鎖の部分を持ってカルラの前に垂れ下げる。


「時計が壊れたわ。直して」

「俺は時計屋じゃねぇ」


鍛冶屋である。焼き菓子から爆弾まで作ろうとも、鍛冶屋である。


「前は直してくれた」

「道具がねぇんだよ。今は鍛冶屋で、使ってたやつは置いてきたからな」

「それならあるわ」


すべてを予見していたらしく、イグは鞄から小さめの工具箱を取りだし、掌に乗せる。


「準備良すぎかよ、出来る嫁かお前は。てか、それがあるんなら自分で直しやがれ」

「残念、不器用なの」


カルラは乱暴に頭を掻きむしり、工具箱と懐中時計を受け取った。


「分かったよ。ちょっくら中を見るから待っていろ」


精密な中身を弄るため、カルラは埃の少ない自室へと向かう。

残されたシュラはイグの傍まで近寄ると、興味と不安が見える表情で尋ねた。


「あの、カルラさんとは、どういった関係なのでしょうか?」

「昔の恋人」


即答されるシュラは、予想していた不意討ちにしどろもどろと慌てふためく。


「そ、そうなのですか。でもカルラさん、今は恋愛する気はない、と思います……けど」


その反応に、イグはくすりと悪戯めいた笑みを見せた。


「嘘、ただの元同僚。変わってるわね、あの人に惚れるなんて」

「惚れっ……!?」

「違う?」


恥ずかしげもなく尋ねるイグから、顔の赤さを隠すように手を構え、伏し目がちにシュラは答える。


「そういうのではなく、カルラさんは師匠ですから、連れていかれると困るので。でも……」


いい掛けたとき、カルラが扉を開けて戻ってきた。空気の読めない男だ。


「戻ったぞ。……何の話をしてたんだ?」


イグはカルラの方に視線移し、何事もなかったかのように返事をする。


「乙女の秘密。時計はどう?」

「歯車が1つ錆びていた。部品を変えりゃ直るだろうが、時間が掛かるだろうな。明後日、取りに来い」

「了解」


帰ろうと足の方向を変えるイグは、なにかを思い立ったらしく、再び二人の方を向いた。

そして、鞄から透明な球体を取り出して言う。


「せっかくだから占う?」

「占い、ですか?」


予期せぬ言葉にシュラは戸惑い、足りない言葉をカルラは補足する。


「イグは占い師をやっているんだ。どういう理屈なのか、1度も外したところを見たことがねぇ。困った能力だ」

「凄いのですね! お願いします!」

「了解」


シュラが空色の瞳を輝かせて観察していると、イグは水晶玉を覗くように見つめ、遠い目をする。

1分ほど経った頃、一呼吸おいてから二人を見た。


「見えた。金運は最悪。宝の持ち腐れの相が見える」

「何だそれ?」


店内に飾られた無数の商品を忘れたカルラに、シュラは訝しげな視線を送る。構わずに、イグは続ける。


「仕事運も低い。みにくいけど、怖い顔の相が見える」

「俺の顔か? ふざけんなイケメンじゃねぇか!」

「見にくい、よ。不穏な影も見える。また何かした?」


シュラとイグは、カルラの方を見る。

何か狙われるのだとすれば、態度の悪いカルラが発信源だと思うのは、至極当たり前のことだ。


「おいおい、何でこっちを見るんだよ。俺が原因とは限らねぇだろ。……ったく、俺をなんだと思ってやがんだ?」

「疫病神ね」


即答である。

イグはシュラの近くに寄り、膝を折って目線を合わせる。そして、小さな声で耳打ちした。


「でも、恋愛運はまあまあよ。良かったわね」

「ふぇっ!?」


その反応を穏やかな目で見ると、満足した様子でイグは立ち上がる。


「そろそろ宿に戻る。また会いましょう」


踵を返し、三歩進んだところでイグは振り替える。そして、シュラの顔を見て、人形のように、言い慣れた言葉を繰り返す。


「……イグノラネス・ブローニング。何か困ったら相談に乗るわ」

イグノラネス・ブローニング(20)

趣味……人間観察

作者メモ……某ゲームキャラの口調、雰囲気が気に入って真似た登場人物。未来は今、改変されたわ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ