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カジヤノキヤクビト  作者: No.
序章とか、≪オマケ≫とか
2/411

番外編・異端の技師と、機械な少女(1)

注意!

※この話に出てくる登場人物は、2017年3月19日に来店したお客さんの物語です。彼らが訪れる10年前のオマケ小説となっております故、本作の『カジヤノキヤクビト』の物語には影響しません。

それをご了承の上、閲覧願います。


……なお、オマケ小説は不定期での投稿となっております。

目が覚めると、天井には機械の部品が忙しなく働いていて、ガタリ、ガタリと、歯車が犇めく音を無数に重ねていた。


イキカという街の外れ、時計塔に併設された第四倉庫の仮眠室で、機械整備員のトリガーに住み込んでいた。歯車の煩い音も、この街に長いこと住んでいればなれてしまうのだが、それでもやはり、眠りが浅くなるという問題が解決することはない。


耳栓でも付ければ良いと思うが、そうすると、今度は同居人が怒るのだから難儀なものである。


「先生、起きて! ご飯だよ!」


階下から女の子の声が聞こえ、眠気の残る頭を揺らしてから、トリガーはそっと、ベッドから飛び降りて、外に出る扉へ向かった。

この声で目を覚ませなければ、一日中拗ねてしまうのだ。


階段を下りて、数台の回路型魔動車が吊り上げられた整備フロアを抜け、キッチンのある扉に触れる。

扉を開ける前に立ち止まり、トリガーは自身の臭いを嗅ぐ。以前、食事の時に油の臭いを付けていた際には、怒られてしまった。


そのあと、風呂に放り込まれたのは良かったのだが、自分が洗うと服を脱ぎ出したのだから驚いた。外見が十三才の少女のままで止まっているため、親心に色々心配してしまうのだ。


とりあえず、今回はそこまで臭わないから大丈夫だろう。

がちゃりと、ドアノブを捻る。


「先生、遅いよ。ご飯、冷めちゃうよ?」


口尖らせて文句を言う少女が、トリガーの席とは向かいに座って待っている。

彼女の名前はラルカ。助手をしてもらっている。

ラルカの前に座ると、彼女はスンスンと鼻をならしてから、顔をしかめて言う。


「先生もしかして、またお風呂入らなかったの?」

「……臭うか?」

「臭う」


頬を膨らませて抗議する。自分の臭いは、自分で確かめるのは難しいものだ。

また風呂に放り込まれるのかと覚悟を決めるが、ラルカは深い溜め息をつくだけだった。


「先生は昨日もお疲れだったから、ラルカは許してあげる」


悪戯めいた笑みを浮かべて、ラルカは唇を動かす。


「感謝してもいいんだよ?」

「……ああ、いつもしてる」


そう言って、トリガーはラルカの手料理を口に運んだ。ふと、正面を覗き混むと、ラルカの顔が赤く染まっている。


「そんな恥ずかしいこと、よく言えるね」


何かの異常だろうか。今度のメンテナンスで確認しよう。

これからの仕事配分を考えながら、食事をしていると、何かを思い出したように、ラルカは声をあげた。


「あ、先生にお手紙来ていたんだ」


ラルカはエプロンのポケットから、封書を取り出してトリガーの前に置く。

封印は、イズマ大統領からの手紙であることを示していた。

手紙を読むことなく、手近にあったゴミ箱にそれを捨てると、トリガーは再び食事に専念する。


「読まないの?」

「……どうせ、お前の機械人形を寄越せ、とかだろう」


イズマ大統領の持つ会社では、ロボット兵器開発を行っている。しかし、その研究結果は毎年振るわないらしく、多くの機械工達の発明を奪うに至った。

そして、トリガーの発明にも目を付ける。


「ラルカは、先生が大事なの。お仕事も回してもらえなくなったし、だから、いざとなったら―――」

「お前はやらん。絶対にだ」


魔動機械人形『ラルカ』は、トリガーの発明品だ。


食事は必要なく、鋼の肉体と学習能力を持ち、なおかつ優しい、従順な心を持っている。兵士の代わりに、人を殺させるには、丁度いい存在だった。


この世界で唯一無二の成功例に、イズマはどうやってか気付き、ラルカを手に入れようと、脅迫めいた要求を繰り返している。

しかし、渡す気はない。


この優しい助手を解体させないためにも、そこから生まれる悲劇を起こさないためにも。


食事を終え、食器を洗い場に置くと、トリガーは黙って仮眠室に戻る。シャワーを浴びるために着替えを棚から取りだす。


ガタコト、ガタコト。やはり歯車の音が煩い。

だけど、どこかおかしい。普段、聞きなれてしまったその音の調子が狂っている。


見上げると、そこには人が居た。いや、人に似た何かだった。


「ワァァァーーーー」


叫び声とも、鳴き声とも聞こえる、そんな音を喉から出しながら、ソレはトリガーに飛び込んできた。


―――……パァンッ!


わめき声を遮るような、大きな銃声が響く。トリガーの手には、護身用にしては大きな拳銃が握られていた。


人の頭を砕いて消し去るほどの威力が直撃したのにも関わらず、ソレは原型を保ち、僅かに生命活動を行っているように見えた。

何者だったのか……。


そんなことを思いながら、止めを射そうと、ソレに近づいて引き金に指をかける。


「キャァァァァーーーー!」

「……ッ!」パァンッ!


突然ソレは起き上がり、トリガーに飛び掛かってきたため、銃弾は大きく外れた。飛び上がった衝撃で、床の鉄板が歪んでいる。

とてつもない筋力を持つソレに掴まれたのなら、おそらくそれだけで重傷を負ってしまう。


死を覚悟した瞬間、扉が開く。


「ロケット・パァーンチッ!」


パシュゥゥゥーー。風を切りながら発射されたラルカの腕は、謎の生命体の横腹に食い込み衝撃を与える。

ソレは体勢を崩して吹き飛ぶと、トタンの壁を貫通して外へと落ちていった。


緊張が解け、息切れをしながら膝を折るトリガーのもとに、ラルカは駆け寄る。


「先生、大丈夫っ!?」

「……あ、ああ」


ラルカの声で正気を取り戻したトリガーは立ち上がり、よろよろと壁まで歩いて、空いた穴からソレを見下ろす。地面に落ちて、それでも生きているソレの形には、見覚えがあった。

一度、友人に見せて貰った魔動の鎧。いくつかの改良、いや、改悪が見られるが、デザインはほとんど同じだった。


そして、その技術はイズマに奪われたはずだ。


「……ラルカ、逃げるぞ」


トリガーが焦燥の表情で言う。


「え?」


訳もわからない様子のラルカに、床に落ちた腕をくっ付けて、そのまま先導して引っ張る。玄関にあったコートと災害バッグを持って、トリガーは逃げ出した。

地下室を開き、マンホールの蓋を開けると、排水用の地下道に出る。ランタンに魔光結晶を灯すと、靴に水を吸わせながら歩き始めた。


「先生、あれは何だったの?」

「後にしてくれ」


水の音を響かせて、しばらく進み続けると光明が見えてくる。

排水の流れ着く、濁って異臭のする川の畔。背の高い草むらに隠れながら、トリガーは荷物を確認する。

その様子を見て、ラルカは冷静に尋ねた。


「先生……。この道は脱出用だよね?」

「命を狙われている。あの手紙に伝達魔法でも掛けてあったのだろう」

「じゃあ、あの人は暗殺者だったの?」


ラルカの問いに、トリガーは手を止めた。

アレを、殺意のままに襲い掛かるような生物を、人と呼べるのだろうか。……いや、無理だろう。


「……違う。あれは魔動鎧に呑まれた“元”人間だ。死んでいる」


ラルカは黙って俯く。

人間よりも優しい彼女には、人を傷つけたかもしれないだけで、心に傷を負う。だからこそ、戦争には向いていないのだと、イズマは解っていない。


「国から出る。川を潜って、壁の外へ行く」


イズマの独裁国家と化したこの国では、外に出るための検問は檻までの出入口にしかならない。そのために、国を縦断している一本の川を使うのが、最も確実だ。


問題は、外に出るまでの間が三十メートルほどで、流れも速いことだ。溺れ死んでも誰にも気付かれないというのは好都合だが、危険は伴う。


川までの順路を考えていると、ラルカがトリガーの袖を引っ張る。


「先生、ラルカは解体されても平気だよ? そんな危険なことしなくても良いの」


自分のせいだと言わんばかりに、寂しそうな目でラルカは言う。トリガーはラルカの頭を撫でながら、強い意思で、自分に言い聞かせるように声に出して言う。


「……お前は、やらん。誰が何と言おうとだ」


ラルカは黙って、その言葉を飲み込んだ。

トリガー・モトリスト(25)

種族……人間族

備考……魔動車の開発や修理を、非公式に行っている闇技師。腕は確かだが、対人相手の会話は苦手。巷では機械男として有名。


ラルカ(13)

種族……なし

備考……ほとんど人間のように過ごせる性能を持ち、外見も受け答えも人並み。機械人形であることは秘密にしていた。

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