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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
13/411

1月11日曇り 『料理人1名』

「新しいの、入ったぞー」


その声を聞いた客が、鬼のような形相でこちらを睨む。

カルラよりも一回り長身な男は、それだけで畏怖する人相を想像させる、地鳴りのような声を響かせた。


「……包丁をもらおうか?」


様々な客を目の当たりにしてきたカルラは、ふっと鼻を鳴らし、軽く笑みを浮かべて答える。


「断る」

「断らないで下さい!」


危険人物からの凶器の要求を跳ね退けようとするカルラを、シュラは小さな体を弾ませながら注意した。

面倒な客を嫌がるカルラは、方眉を下げて不満を表す。


「だって、怖いじゃん。あの顔は、人とか殺る顔だよ。そんなヤツに俺の武器を持たせたら、店が爆破されかねないじゃん」

「……それは『包丁』の話ですよね?」

「ん、当たり前だろ? いきなり別の話をするはずがないだろ」

「私の知っている包丁は爆発しないはずなのですがね」


何かを諦めたように首を振るシュラは、冷たく尖らせた目に笑みを戻して、腕をくんだまま何も言わずに立ち尽くす男を見た。


「いくつかお持ちしますので、少々お待ち下さい」


そう言って店の倉庫まで走り出すシュラの背中に、カルラは店主らしく注意の声をぶつける。


「おい、勝手に決めるなよ。ここは俺の店で、お前は弟子なんだ。俺の決定には―――」

「カルラさん、先月の収益を覚えていますか?」

「………」


返す言葉が塞き止められ、シュラは髪を大きく振り乱したながら、店の奥へと消えていく。

―――……弟子の自主性を促すのも、師匠の役目だと思うんだよ、マジで。


しばらく待つと、木箱一杯に包丁"らしき"ものを入れて抱えるシュラが戻ってくる。そして、客の足元にどっかりと置いた。

背が足りないから、近くの棚に置けなかったことには触れないでおこう。

想像以上の品数に膝に手を付いて深く呼吸するシュラの後ろから、カルラは木箱の中身を確認した。


「うちに、こんなに包丁あったか? いつの間に作ったんだ、俺?」

「一応店主なんですから、商品くらい把握してください! ……それでどれが普通の包丁ですか?」


疑念に満ちた視線を横顔に受けて、カルラは一歩前に進んで体勢を低く中身を探りだした。

がしゃがしゃと探り、選んで男に見せる。


「これなんてどうだ? よく切れるぞ」

「カルラさんの"よく切れる"はあてになりませんけどね。ちなみに、どれくらい切れるのですか?」

「まな板まで、スッパリだ。スゲーだろ!」

「まな板を使う料理がなければ、ですがね。不良品じゃないですか」


男は鞘から包丁を抜くと、どこから出したのか林檎の皮を剥きだす。そして、一変も表情を動かすことなく呟く。


「貰おう」

「え……? 良いのですか?」

「切りたくないものを切らなければ、問題はない。鍛冶屋のダンナ、次だ」


くいっと首を動かして、同胞を見つけたように喜ぶカルラに選別を促す。鼻唄混じりに、作った包丁を山から探す。


「火炎包丁『不知火』。凍結包丁『白夜』。落雷包丁『竜鳴』。どれも威力だけは保証するぜ」

「それ、本当に包丁ですか? 買うわけないじゃ―――」

「ぜんぶ貰おう」

「へっ!?」


男はその後もカルラの選ぶ包丁を買い、とうとう箱が空になったところで財布の紐をほどいた。


「いくらだ?」

「えと、500,000Gです」


算盤を叩いて出した数字に戸惑いを見せるシュラに、男は金貨の入った財布をまるごと渡す。


「これでいいか?」

「は、はい! ありがとうございます!」


金貨の数を確認したシュラは、満面の笑みで答える。

大金をすぐに出せる、あんな大人になりたかったな。俺でも包丁ならすぐに……いや、悲鳴しか聞こえないだろう。


包丁の入った木箱を片手で持ち上げる男に、シュラは思い出したように尋ねる。


「そういえば、お客さんはどのようなお仕事を?」

「パティシエだ」


お菓子とかを作るあれだろう、似合わない。外見的にはカラメルソースとかを作るよりは、人に絡みそうな感じだから。

聞き慣れない言葉にシュラが首を傾げると、自分の荷物の中から包みを取りだし、それを小さな手に押し込めるように渡す。


きょとんとしているシュラとカルラに、熊でも殺しそうな目で男は言った。


「俺はプレタ・アブトマット。今度……ケーキ屋さんを作るから……そのうち来い」


男は照れくさそうに、足早にその場を去っていく。

木枯らしが吹く通りを見送り、シュラは包みを楽しげに見つめる。


「随分と、変わった方でしたね」

「そうだな。萌え要素のあるオッサンは初めてだ。ま、金を貰ったからその辺は許すとしようかね。で、それは何だ?」

「……何でしょう」


包みの中身はイチゴの乗ったショートケーキだった。少し甘すぎるそれは、オッサンが作ったと思うと苦くて丁度いい。

プレタ・アブトマット(40)

好きな食べ物……甘いもの

備考……外見は怖いが、内面は照れ屋。しかし、オッサンに萌え要素はいらない。

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