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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
12/411

1月10日晴れ 『兵士5名』

「新しいの、入ったぞー……ってシュラ、コイツらはなんだ?」


店の前には、やたらと険しい顔の男達が四人ほど、槍やら剣やらを持って話し込んでいて、こちらに気が付くと刺すような目付きで睨んできた。

そんな連中を前に、シュラは困り顔で振り返る。


「カルラさん、この方達が逮捕するって……」


それを聞き、カルラはつまらなそうに溜め息をついた。


「逮捕? つまり、お前らは役人さんってことか。……いったい、俺が何したって言うんだよ、こちとら善人通して生きている、ってのに」

「何が善人かっ!」


男達の影に隠れて見えなかったが、もう一人居たようだ。そのもう一人は、四人を退けて出来た裂け目を、いかにも偉そうな態度で闊歩した。

カルラの目の前まで来たその人物は、胸に手を当てて、大きな声でこう言った。


「私は国王陛下直属の国境警備兵団団長、ベルゼビュート・ニューナンブと言う者だ」

「長い名前だな。……よし、今日からお前はベルだ」

「勝手に私の名前を縮めるな!」


つんざくような声で喚く女兵士は、大量生産品とおぼしき安っぽい鎧を鳴らしながら、腕を組んで口端を硬く結ぶ。


「ふん、余裕があるのも今のうちだ。ご希望通り、この男の罪名を教えてやろうではないか。誰か、逮捕状をここに」

「ハッ! ベル団長!」

「何でお前も縮めた!?」


何故か光悦の表情を浮かべる男兵士に舌打ちをして、ベルは警備隊の判子が押された逮捕状を、何度も目線で確認してから読み上げた。


「まず、危険な物を扱っていると、住民から苦情が来ているな」

「確かに、俺は危険なほどにイケメンだが、町の美観に貢献しているからプラマイ0だろ?」

「この店には鏡は売っていないのか?」


怪訝な表情を浮かべて、蔑むようにベルは言う。


「そんな馬鹿みたいな物ではなくて、命に関わるような危ないものだ。よく分からんが、何でも切れる刃物、止まれない靴、爆発する蹄鉄……なんて書かれているな」

「……そ、そんなものがソンザイするわけないじゃないですか~」


額にあからさまな汗を浮かべて、ぎこちない敬語で返した。そして、そっとシュラの肩を掴んで、彼女達に背を向けて会話をする。


「……ちょ、シュラ、不味いぞ。コイツら、かなり調べてやがる」

「今まで見つからなかったことが不思議ですけどね。でも、困りましたね。どうしましょう」

「なんとか誤魔化す。手伝え」


そう伝えて、カルラは再びベルの方を向いた。二人の怪しい行動に、ベルは眉を潜めて尋ねる。


「何をこそこそと話していたんだ?」

「な、何でもありませんよ~」

「気持ちの悪い笑顔を向けるな。ともかく、店を調べさせてもらうからな」

「えっ……!」

「何か不都合でも?」

「いえいえいえいえ、どうぞどうぞ~」


ささっこちらへ、と彼女達を店内に招き入れる。その様子を、心配そうに見つめるシュラに、カルラは苦い顔を見せた。


「どうするよ?」

「特に困るような品は店内にはありませんよね。危険な物でも置いたのですか?」

「いいや。気晴らしにテルミット爆弾を十個ほど作っただけだ」

「……もういっそ、捕まった方が世のためなのでは?」


呆れた物言いでシュラはと息を吐いた。

見た目で言えば、小さな箱にしか見えないため、見逃す可能性の方が高いのだが、それでも不安は拭えない。


家捜しをする兵士達は、一通り商品を確認してから、ベルに向かって報告した。


「あの鎧、買ってもいいですか?」

「あの剣も」

「あの斧の方がいいだろ?」

「……もう帰りたい」

「お前達! 何をしに来たんだ!」


能天気な発言をする部下を、ベルは顔を真っ赤にして叱責した。部下の一人がやたら嬉しそうな表情で答える。


「でも、礼状に書かれているようなものはありませんでしたよ?」

「うぅ……じゃあ、仕方ないな。カルラ・ピースメーカー、お前を拘束させてもらう。最低でも一週間は牢の中で過ごせ」


手錠を片手にベルはそう言うと、カルラは肩を竦めた。


「分かったよ、牢獄でも何でも行ってやる」

「カルラさん、いいのですか?」

「ああ。鉄を叩いてりゃ一週間なんて、あっという間だ」

「はあ? 無理に決まってるだろ」


カルラの言葉を聞いて、ベルは気の抜けた声で否定する。驚きに見開かれた目で、カルラはベルの方を向いた。


「え、何で!?」

「むしろ、何故許されると思ったんだ? 獄中には娯楽品の持ち込みは禁止。鎚は脱獄の恐れがあるから、なおさらだ」

「じゃあ、行かねぇ! 一週間も鍛治が出来ねえなんて冗談じゃねぇ!」

「あ、待てっ! ――……と、あ、がふっ!」


工房まで逃げ出だしたカルラを追いかけたベルは躓き、手に持っていた書状が宙を舞った。

そのまま釜戸へ入った紙が無事なわけもなく、一瞬の焔となって、炭へと還った。


「あ、ああ……、礼状が。あれ発行するのに、一ヶ月も掛かったのに……」


涙を目に溜めて、床で転んだベルは言った。同情心から、カルラが手を差しのべると、それは弾かれた。


「た、逮捕礼状を再発行して、また来るからな! おぼえていろよ」


泣きながら駆けていくベルと、それをとぼとぼと追う部下達を見送る二人。一番後ろの兵士が、思い出したように立ち止まり、ふっと笑みを見せる。


「あの爆弾、なかなかの出来でしたよ」


表情を固めるカルラに、シュラが気がついたとき、彼の姿はすでになかった。

苦く顔をしかめて、カルラは小さく呟く。


「嫌な奴に、見つかったもんだな」

ベルゼビュート・ニューナンブ(19)

好きな食べ物……焼きマシュマロ

備考……せ、戦士は泣かないのだから、これは汗だ!


あやしい部下(24)

好きな食べ物……粘りけのあるもの

備考……ドM


テルミット爆弾……アルミニウムと三酸化鉄の化合によって生じる熱を利用した爆弾。気晴らしに作ってはいけない。

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