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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
11/411

1月9日曇り 『盗人1名』

「新しいの、入ったぞー」


カルラは湯のみを、小さな灯りに照らされたテーブルに置き、青あざを作った右目で、向かいに座る人物を見た。

身体を傷だらけにした、目付きの悪い少年がふてくされたような表情で俯いている。


「なんで、こんなことをしたのですか?」


外見の年齢が辛うじて上回るシュラが、優しげな物腰でそう尋ねる。テーブルの上には、金細工のブローチが場違いな存在感を放っていた。


数十分前、俺が寝ているところに怯えた様子でシュラが来た。どうやら倉庫の方から妙な物音がするらしく、二人で見に行ったら案の定、鍵を壊して盗みに入った奴がいた。

そして、取り押さえて今に至る。


取り押さえる時に暴れたから、顔面1発と腹に2発攻撃を受けながらも、なんとか捕まえることが出来た。

まあ、その内の顔面1発、腹に2発、足に4発は取り乱したシュラにやられたものだけど。


「黙ってないで、何とか言え。正直に話したら、警備隊には連絡しねぇでやるからよ」


カルラが強い物言いで迫ると、少年は泣き出しそうな目を擦り、閉ざした口をゆっくりと動かした。


「うるさいよ、オッサン。臭い息で僕に話しかけないで」

「よーし! 通報して檻にぶちこんでやろう。口は災いの元だと体で教えてやる!」

「カルラさんっ! 子供になんてことをしているんですかっ!!」


大人げなく胸ぐらを掴み、拳を振り上げるカルラを、シュラは叱りつけるような口調で抑える。

仕方なしに離した手をシュラの背もたれに乗せ、唸るような声でシュラに言う。


「だが、コイツに反省の色が見えねぇ。今、逃がしてやっても同じように盗みをやるに決まってる」

「分かりました。私がやります」


真面目に言うと、頬杖を付いて不機嫌そうな少年を見た。


「お名前を――」

「子供が偉そうに口を挟むな」


シュラはにこりと微笑み、そのまま掌に閃光を走らせる。その瞬間、室内を赤黒く染め上げる巨大な炎が出現する。

そんな現象を小さな手の中で引き起こしたシュラは、可愛らしい仕草で尋ねる。


「魔法って、見たことはありますか?」


一ミリも笑わっていない目で見据え、少年に向かって炎を振りかぶる。


「覚悟っ!」


瞬時に、カルラは腕を掴む。


「じゃねぇぇっ! それ本気で店が消し飛ぶやつだからぁっ! それに、コイツ殺ったら、お前が連れて行かれちゃうから落ち着けって!」

「離して下さい! 成長期なんて……成長期なんてっ!」

「コイツ殺しても成長期は奪えないから!」


飛びかかろうと手足を暴れさせるシュラを羽交い締めに、カルラが宥めていると、少年は相変わらず余裕ぶって椅子の上で仏頂面を浮かべながらこう言った。


「馬鹿な奴ら。僕なんてさっさと捕まえればいいのに、拘束もなければ、警備隊も呼ばないなんて、ほんと頭悪いね」

「ああ? お前こそ馬鹿だ。泥棒なんざ、儲かる仕事でもねぇのに」

「好きでやってるわけじゃないっ!!」


一変して、椅子の上に立って感情を見せる少年。そんな姿を見たカルラは、疲れてぐったりとしたシュラを下ろしてから、彼に言った。


「んなこと分かってらぁ。大方、戦争や災害で親が死んで、行くとこがねぇんだろ? だから、牢屋の臭い飯が貰えると今は安心している」


俯きかげんで、少年はカルラの話を聞いている。


「牢屋の生活に慣れたらお仕舞いだ。そして、ガキをそんなふうにさせたら、大人の方も仕舞いだ。……俺らにゃあ、お前を救う義務があんだよ」

「お前に何が出来んのさ」


カルラは淡々と、少年の目を見て答えた。


「知り合いに宿屋のどうしようもねぇ爺が居てな、そこの女房が見張りに猫でも飼いたいって、言っていたんだよ。だが、猫一匹小僧一匹、べつに大差ねぇだろ?」

「……紹介、してくれるの?」

「盗みをしなけりゃな」


何かを迷ったように視線を動かして、少年はゆっくり、大きく頷いた。


「しないよ。絶対に、しない」

「分かった。明日の朝にでも、行ってみるとしよう」


そう言って、カルラはテーブルの上の湯のみを手に取る。


「温いな。新しいのを入れてくる」


ダイニングから台所へ足を運ぶ。火の魔石を点けて、新しく湯を沸かし始める。

湯のみを2つ手に取ったとき、背後に誰かが立った。振り返るとシュラが、手伝います、と言って駆けてきた。

黙って沸くのを待つ間、シュラが尋ねる。


「あの話、本当ですか?」

「半分な。見張りには猫より犬の方が向いている」


仕方ないですね、とでも言うかのようにシュラは小さく笑みを浮かべた。


「お人好しですね。でも、断られたらどうするのですか?」

「断らんさ。この町の連中は全員、馬鹿みたいに人が好きみたいだからな」


笛の音が響く台所で、鍛冶屋の二人は大きな欠伸を揃える。

タルト・ローマン(8)

好きな食べ物……カレー

備考……隣国の村の出身で、魔物災害の被害者。1人だけ生き残ったが、行く宛もないため盗人になった。

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