4月9日晴れ 『霊媒師1名』
「新しいの、入ったぞー」
「ふぅ……。お兄さん、悪霊に取り憑かれていますよ?」
カルラが呼び掛けを始めると同時に、着物姿の青年がこちらを見てそう言った。着物姿で、短く切った赤い髪を揺らしている。
錫杖はなく、魔道具らしきものもないのだが、それでも魔力の流れを感じた。
「また、宗教か。いい加減にしてくれよ、まったく。肉屋とか、騙しやすいだろ、何でうちに来るんだよ」
「僕は宗教ではありません、見えたものを言っただけです。お兄さんの肩に悪霊が乗っています」
「見えなけりゃ、神も幽霊も約束もおんなじだろうがっ」
青年が言っていることが正しいのか、それを知る術はない。有ることより、無いものを証明する方が難しいのは必然だ。
「どうなさいましたか?」
「カルラ、怖い顔してる」
そこに、シュラとニコが買い物から帰ってくる。シュラは客の姿を見つけると、買い物袋を置いてきて、接客用の笑顔に切り替わる。
ニコは飴を舐め始めた。
「何かご用ですか?」
「ふぅ……。君にも、悪霊が憑いているように見えますね。珍しいこともあるものだ」
「害悪なら、よく見かけるけどな。シュラも、見えるのか? ……シュラ?」
返事がない、ただの屍のようだ。ではなく、焦点の合わない目でどこかを見つめている。
カルラはシュラの肩を揺すろうと手を伸ばす。
「シュラ、どうした?」
「キャアアアアッ!」
「うわっ、どうした!?」
半狂乱で荒れ狂う幼女を取り押さえると、周囲の視線が痛い。痴漢ではないのだ。
「オバケ……。オバケなんて……死んでしまえばいいのです……」
「落ち着け! もう死んでいるから!」
普段、真面目で頼れる弟子には、幼女らしい面が見られるが、これもその一つなのだろう。
しかし、頼みの綱も無くなったか。
「カルラ、見えないの?」
ニコがそう言って、カルラの肩辺りを見つめている。
「ふぅ……。お嬢さんには見えるようですね」
「え、そうなの? 確かに、野性動物は勘がいいけど」
動物扱いで奇異の視線を向けていると、ニコが袖を引っ張り、唇を尖らせる。
「カルラ、それならカルラも見えてないとダメ」
「誰が野性動物だ? 俺は人間だ」
「ニコも動物じゃないもん。肉より砂糖が食べたい」
つまり虫になりたいということだろうか。劣化しているような気がする。
それはさておき、ニコが見えるのなら聞いておきたい。
「とりあえず祓えるんなら、祓ってくれよ。仕事に影響しそうだ」
「僕は祓えませんね、強すぎます。良い教会をお教えします」
青年は手記を手渡すが、少し遠い場所にある教会であるため、すぐには行けそうもなかった。
「んだよ、使えねぇな」
「使えませんねっ!」
「カルラ、シュラ、落ち着いて」
このままでは、色々と弊害がありそうだから、一応尋ねてみる。
「俺らに憑いている悪霊って、どんな奴だ?」
「ふぅ……、そうですね。お兄さんに憑いているのは、鍛冶屋の霊ですね。鍛冶仕事をしなければ禁断症状が現れるでしょう」
「なにそのヤバい薬みたいなやつ。悪霊ってそんなんだっけ?」
カルラの言葉を無視して、青年はシュラの方を向く。
「君にはロリコンの霊が憑いていますね」
「それは危険だな」
「危険って何でですか! 私は17歳です!」
その怒る仕草も、幼さの残る可愛らしいものであるから、きっと霊媒体質になっているのだろう。
そして、取り乱すシュラに青年が捕捉をする。
「あ、でも強い愛情を感じますよ」
「それは逆に不味いんじゃねぇか?」
リンデル・コーゲンス(21)
特技……霊視
備考……幼少期から霊が見える体質で、どんな霊なのかも分かるように訓練している。自分では祓うことは出来ないが、祓う気はないので練習していない。