4月8日雨 『司祭1名』
「新しいの、入ったぞー」
カルラが顔を出すと、聖職者風の男が恐怖に顔を歪めて、仰け反りながら震えだした。
「あ~、なんたる事か……。悪魔のような形相の男がこちらを睨んでいる~」
「カルラ、呼ばれてる」
隣に居たニコが袖を引き、男の方を指差す。その反応に、少し面倒そうな溜め息をついてから、カルラは言った。
「……あのな、俺だって傷つくこともあるんだからな? そういうことを連呼しているとーーー」
「あ~く~ま~!」
「うるっせぇっ! 消し去ってやろうかっ!!」
なおも仰々しい声を上げる男に、カルラが怒鳴ると、ニコは冷ややかな視線を向ける。
「カルラ、そういうとこ」
その声に耳を傾けず、カルラは男に掴みかかって、上下左右に揺すり始めた。
「テメェ、何しに来たんだ? 営業妨害か? うちに嫉妬したライバル店からの刺客か? 答えろ!」
「ひぃぃっ!?」
恐怖に顔をしかめる男。そこに、異変に気がついたシュラが歩いてくる。
「カルラさん、落ち着いて下さい。うちにライバルは居ません」
そう言うと、カルラは何故か気を良くして、照れたように頭を掻いた。
「まあ、そうか? 確かにうちは名店だが、奢ってはいけねぇからな、シュラ」
「いいえ、こんな独創性が独り歩きしたようなお店と張り合う人がいないと言う意味ですよ、カルラさん」
呆れた様子でそう言うシュラは、カルラを放っておいて、男の方を向き、そして優しい笑みで尋ねた。
「それで、何かご用ですか?」
「おお、天使のような子供よ~」
「子供ではありません、早く答えてください……」
優しい笑みは少し冷たくなったが、司祭は気付いておらず、しつこい喋り方で注文を始めた。
「私はか~み~に仕える者~。故に、私は祭壇を作って欲しいの~、で~す」
それを聞いて、嫌そうな顔をするカルラは言った。
「祭壇? やっぱり宗教がらみで良いことねぇな。神なんて嫌いだ」
「失礼ですよ、カルラさん。ともかく、どの宗派のものか、教えて下さいませんか?」
シュラがそう尋ねると、男は懐から羊皮紙で作られた設計図を取り出した。二人が覗き込むと、そこには異様なものが描かれていた。
「はい~、あ~りがと~ございま~す。これが、私のところの祭壇で~す」
上機嫌で言う司祭を他所に、カルラは即座に応える。
「却下で」
「な~んでですか~!?」
驚く司祭に対して、カルラは冷静に言う。
「いや、禍々し過ぎんだろ。何だこの棘、この目玉、あと何で黒何だよ」
「最近のファッ~ショナブルゥ~な若者に合わせた~造形です」
まるで芸術家きどりの男の幻想を壊してやろうと、カルラは低い声で言葉を選ぶ。
「そのファッショナブルゥな……」
ニコが指先で袖を突いてカルラに言う。
「カルラ、ファッ~ショナブルゥ~」
「呼び方はどうでもいいからな!? 俺が言いたいのは、若者だって近寄らないってことだ、こんなのじゃ」
悪魔避けになら使えそうな気もするけど。
「我が儘ですね~」
「誰が我が儘だ、心配してやってんだよ」
悪魔のような形相でカルラが言う。
「そういや、祭壇なんて何に使うんだ? 儀式か? 生け贄か?」
「いいえ~飾りで~す」
平然と言ってから、思い出したように付け足す。
「……あ、たまにお祈りもします」
「遅ぇよ!」
聖職者は、こんなのしか居ない気がする。
司祭の男
備考……最近、ナンパに挑戦してみたが、ファンキー過ぎる格好で誰も近寄らなかった。