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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.4~
101/411

4月7日曇り 『大工1名』

「新しいの、入ったぞー」

「失礼する」


呼び掛けに、間髪入れずに反応したのは、ヘルメットに袖無しの薄着を着ている女だった。短く黒い髪の毛と足袋、所々に付いた土を見る限り、外仕事をしているのだろう。


かんなを買いたいのだが、見せてもらっても宜しいだろうか」

「駄目だ」


女の願いに、カルラは首を横に降った。

その態度に、帳簿をつけていたシュラは眉を歪めて抗議した。


「カルラさん、意地悪はいけません。売らないとお金が入らないのですから」

「いや、そうじゃなくて」


いつものように怠惰な言い訳を口にせず、カルラは簡潔に言った。


「うちに鉋はない」

「へ?」


意外な発言にシュラは妙な声を出す。


「冗談ですよね?」

「本当にない。だって作ってないからな」

「そんなっ……」


明らかに戸惑い、口に手を当てて、天変地異でも見掛けたかのようにシュラは震えだした。


「鍛冶屋に必要なのかも分からない品を、何故か毎日作り続けてしまうカルラさんが、大工さんの道具を作っていないなんて……!」

「誰だ? その穀潰しは」

「カルラさんですよっ!」


その会話を聞いていた女は、頭をかいて困ったような笑みを浮かべている。


「無いとは困ったな。ここに来れば、大抵のものは何でも揃うと聞いていたのだが」

「ええ、あるのです。大抵は……」


おかしな物も存在するが、噂に違わぬ品揃えであることは明白だ。

それらを作ったカルラは、ただ面倒くさそうに欠伸をしている。


「ほとんど木材だから作らなかっただけだ」

「焼き菓子まであるのに……」

「スイーツ男子がモテるって聞いたから」

「理由が不純ですっ!」


どちらにせよ、流行りはすぐに終わったから結果はでなかったけれど。

シュラが心配していることだし、そろそろ商談に移ろうと、カルラは女の方を見る。


「ま、注文を受けたら作るが、どうする?」

「そうだな。先輩方にも休みは頂いたことだし、そうして貰えると助かる」

「決まりだな」


成立である。

注文書を書いているとき、女の姿を見ながらカルラは呟く。


「それにしても、女大工か」

「珍しいか?」

「ま、多くはないな」

「そうかもしれない」


うんうんと頷く姿は満足げで、どこか誇らしげだった。


「かくいう私も、本当は花屋さんになりたかったのだ」

「え、それではどうして大工さんになられたのですか?」


シュラが世間話に入ると、女は目を輝かせて叫び出す。


「だって、薄着で汗水垂らしながら日差しを浴びる女はエロいじゃないかっ!?」

「え、えええ……」


呼吸を荒く、必死になって言うその女に、シュラはたじろいで後ずさる。

カルラは腕を組んで、強くうなずいた。


「全面的に同意だ」

「そうだろう、そうだろう。あ、お兄さん、私の十二番目の愛人にならないか?」

「ダメです!」


不満そうに見る視線が二つ、シュラに向けられる。


「ダメです! ダメったらダメです!」


ま、どちらにせよ行かないが。

シュラの頭に手を乗せてカルラは笑う。


「そういうわけだ。俺はこいつの面倒見なけりゃいけないから、ダメらしい」


ふむと女は笑うだけ。


「そうか、それは残念」


そして、シュラの方を向いて尋ねる。


「君はどうだ? 愛人にならないか?」

「ふぇ!?」

「私には、年齢も性別も種族も次元も関係ないぞ!」

「だ、ダメ、です……」


シュラの許容量を振り切ったようだ。

大工の女(20)

好物……苺

備考……恋人を作るために男だらけの世界に入るが、恋よりも愛の方が上ではないかと悟る。

モデルは、物語るBL女子。

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