雨、雷音、田んぼにて。
雷雨。
さぁっと降り出した雨は、一瞬で勢いを強めた。
みるみるうちに重い雨水の簾が視界を埋める。
傘を指したまま俺は、曇った視界の先を見つめた。
田んぼ。
その中の佇む一人の少女。
少女の見た目は、15、16歳といったところだ。
傘も指さず雨に濡れたまま、何かを待っている。
瞳を閉じ、全神経を研ぎ澄ませている。
傍目に見ている俺にも、それははっきりと感じられた。
すぅっ。
少女が小さく息を吸う。
稲光が閃き、その白い頬を鋭く照らす。
ドオオッ!!!
遅れてやって来た、地も砕けるような雷音。
その瞬間、少女がカッと目を見開いた。
「はぁっ!!!」
ズオオオオッ!!!!
少女の周囲一面に、幾つもの青い炎が浮かび上がった。
不規則に揺らめくその炎は、雨などお構いなしにゆらゆらと燃え上がる。
「ふんっ!」
少女が腕を降り下ろすと、その動きに連動して火玉は次々と水面に襲いかかった。
流星群の如く、次々と炎は水面に撃ち込まれる。
果敢に火玉を操りながらも、少女は冷静な瞳で水底の動きを眺めていた。
待っているのだ。予兆を。
ぐらり。
炎が水に飛び込んだにしては、不自然に大きな水面下の泥の動き。
少女がそれを見逃すはずはなかった。
「はあっ!」
ボッ!!!
明らかに火玉が着水する音とは違った音が響く。
ばしゃばしゃと、何かが暴れ、泥水が飛び散る。
ざばぁぁぁぁっ!
泥水を跳ね上げ、それは鎌首をもたげた。
雷光に照らされ、滑る体表が怪しく光る。
重量感のある首回りは、成人男性の二の腕よりも太い。
全長2mは超えるかという圧倒的な威圧感で、それは少女の前に姿を現した。
「…んん…うなぎ?」