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その時世界が終わった

作者: 汐留

「さな、大丈夫だからね」

母はそういって私を抱きしめながら囁いた。母の腕の中、私は冷静にテレビの映像を見ていた。生放送という文字のあるその映像はとても現実の出来事には到底見えなかった。どうやら今日、世界が終わるらしい。

「お父さん、まだ帰ってこないのかしら。こんな時だっていうのに」

母は苛立たしげに呟く。私にはその言葉が可笑しくて少し笑ってしまった。こんな時だから帰れないんだよ、テレビを見れば一目でわかるじゃない。交通機関がダメになっているんだから。私は母にそう告げたくてうずうずした。けれど、母を苦しめるのは私の本心では無い。母さん、共働きである私の両親は家を空けることが多かった。今日、母が有休をとったのは何年振りだろうか。遠い昔に母と父と私で遊園地に行った事を思い出した。小学校低学年だった私は、ジェットコースターに乗りたいと駄々をこねて両親を困らせた。大きくなったらねと、その時は言われたけれどその時以来あの遊園地に行ってない。もう中学校三年生になったのに。まあ、もう乗る機会なんてないんだけれど。懐かしい記憶に心を和ませていると、テレビの騒音で現実に戻された。

「繰り返します。A国がB国に向けて核爆弾を発射しました」

第三次世界大戦が起こるのは時間の問題であった。そして、今回の戦争では核ミサイルが使われるであろう事も世界中が周知のことである。そして、その時が世界が終わるであろう事も。つい先ほど、超軍事国家A国と国連が宣戦布告をした。ここまで至った経緯は、複雑な利権や、様々な思惑が交差しており、何が直接的な理由なのかは分かっては、いない。唯一はっきりと中学生の私にも分かるのは、人が大勢死ぬことになるという事だ。私の国は、この戦争に直接関わりを持っていない。しかし、他人事ではなかった。確実に可笑しくなっている。政府の発表も矛盾したものも増えてきているし、ここら辺反戦の報道が激減した。なのに誰も疑問を抱いていなかった。いや、考えることを放棄しているようにも見える。かく言う私も、実感が湧かない。明日死のうが今日死のうが、100年後死のうがそう変わらないように思えた。人はいずれ死ぬのだから。どれだけ長生きしたとしても後悔をしてこの世から消えていく。交通事故や、病気でいつ死んだとしてもおかしくない。それが、今日だと分かってるだけの話なのだから。

「母さん..」

声が震える。やっぱり、どんなに理屈で理解しようとしても怖いものは、怖かった。今日、世界が終ると言われているのには理由がある。なんでも、ある黙示録によると今日が人々が罪を清算し、肉体から解放される日なのだそうだ。何百年も前からそう伝えられていたらしい。いつもなら、そこまで深刻に捉えられなかった。しかし、今はその黙示録を世界中の人々が信じていた。この以上なまでの終末へ進んでいく世の中に何か強大な意思を感じた。無意識に皆分かったのだろう。今日のこの運命から抗おうとする者、信じたくない者等が暴徒とかして、収拾がつかない。

「大丈夫よ、さな」

力強く抱き締められた。温もりを感じた。そして、少し後悔した。もっと母さんと一緒に居られればな。初めて胸が痛んだ。そして、

チャイムが聞こえた。父さんが帰ってきたんだ。ドアを開けて母さんと2人で抱き締める。父さんは、照れ臭そうに笑った。幸せだった。この時間が永遠に続けば良いのにとさえ思った。私達家族は、幸せだった

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