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りんなとゆうちゃん  作者: 如月海月
Chapter1
7/49

裏エピソード4 続

 そのまま散々当てもなく適当に通りを彷徨い続けた覚えがある。夜の煌びやかな装飾までもが何だか末恐ろしいものに見えてきて、私も内心泣きたいような気持ちだった。だけど、すぐ後ろでは既に優太朗が私の服の裾を掴みながら半泣きの状態で、ここで自分が泣いてはダメだと想ったことをよく覚えている。

 行きすぎる人々の顔にお母さんがいないか、藁にもすがる心境で目を走らせていた。

「お腹空いたー足が疲れたあ」

 ぐずぐず言う優太朗のセリフはほとんど無視していたけど、ある時優太朗が掴んでいた私の服の裾をくいくいと引っ張って尋ねたのだ。

「ねえ、僕達置いていかれちゃったのかな」

 ばっと振り返る。驚いて優太朗が掴んでいた服を離した。実は、幼心に私もそんなことを考え始めていたのだ。お母さん達は私と優太朗をここに残してさっさと家に帰っているのではないか、そんな恐ろしい想像が私の胸にも広がり始めていた頃だった。

「そんなわけないでしょ!」

 怒鳴られるとすぐにまた優太朗はぐずつき出した。

「だって、こんなに探してもいないんだよ。ねえ、りんちゃん。僕達どうなるの?」

「絶対見つかるに決まってるもん」

 それはほとんど自分に言い聞かせた言葉だった。

「ほら、泣かないで。私が見つけてあげるから」

 そういうと、とりあえず優太朗は持ち直したみたいだった。ごしごしと目を拭き頷く。それから少し恥ずかしそうに、もじもじしながらこう言った。

「ね、また手繋いでもいい?」

 私は答えずに右手を差し出したと記憶している。左手で私の手を握った優太朗が途端に安心したような笑みを浮かべ始めて「気楽なやつ」とこんなようなことを心中で思ったような気がする。


 それからまた少し歩くと、奇跡的に私達は見覚えのある場所に戻ってきた。遊園地のマスコットキャラクターのパレードがやっていた最初の通りだ。私が園内で唯一地理を把握していた場所だ。

 キャラクターのパレードはまだやっていたので、もしかしたら彷徨っていた時間はそんなに長くはなかったのかもしれない。けれど、体感的にはとてつもなく長かった。思わず優太朗の手を離して駆け出した。

「あ、待ってよ!」

 後ろから優太朗が付いてくる気配。そのまま走っていくと、待ち合わせのベンチに座っているお母さん達が見えた。

 優太朗を振り返る。

「あそこだよ!」

 気が付くが早いが、優太朗は自分の親の元へ猛ダッシュ。私も後に続いた。


 優太朗はお母さんの元へ飛び込んでいったけど、いざ見つけたとなると私は途端に恥ずかしくなって、途中から歩いた。

 私のお母さんが、優太朗のお母さんにこう言ったのを覚えている。

「ね、心配なかったでしょ」

 どうやら、優太朗のお母さんは迷子センターに報告しようと提案していたらしいが、私のお母さんが問題ないと言って止めていたらしい。ホントにたまたま戻ってこれただけなのに、もし私が元の場所を発見できなかったらどうなっていたのか考えなかったのだろうか、この親は。

 まあとにかく、私達は無事合流できたのだ。

 優太朗のお母さんが事の顛末をきいて、苦笑交じりに優太朗に言った。

「まったく、全部凜奈ちゃんのおかげね。ちゃんとお礼言った?」

 すると、優太朗は母親から私の元へ飛びついてきた。

「うん! りんちゃん大好き!!」

 優太朗の体を受け止めながら「本当に調子のいいやつ!」と思いつつも、私は満更でもなかった。何しろ、とにかく戻ってこれたのだから。



 授業終了の鐘で意識が覚醒した。完全に睡眠していたわけではないが、こっくりこっくり船は漕いでいたらしい。私を睨みつけている国語教師と目が合い、起立の号令に従いつつ目を反らす。「礼! ありがとうございました!」

 何故今更あんな昔のことを思い出したのだろう、優太朗との思い出なんて他に腐るほどあるっていうのに。再び自分の席に座って物思いに耽っていると、友達がやってきた。

「りんな、寝てたっしょ」

「まあ、ね」

 すると、友達はくすりと笑った。

「丁度良く鐘が鳴って良かったね。あとワンテンポ遅かったら先生が頭を叩きに来てたよ」

 はは、と乾いた笑みが漏れる。間一髪だったわけだ。

 友達は更に笑みを深めて尋ねた。

「ね、何か顔しかめてたけど。夢でも見てたの?」

「夢? 多分、見てたかな」

 考え事のつもりが、いつの間にか夢に変わってしまったみたいだ。それでも、内容はよく覚えてる。

「悪い夢だったの?」

「ううん」

 即答する。すると、友達はちょっと困惑したような表情になった。

「え、でも……」

 それを遮るように私は立ち上がった。伸びをしつつ教える。

「そういう種類の夢もあるってこと。仕方ないんだよ、私の役目だから」

 そう。別に悪い夢では決してなかった。今も昔も、優太朗は手がかかるのだ。それが再認識できただけで、意義のある夢だったと言える。


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