エピソード2
その数日後、俺はりょうに呼び出された。放課後の体育館裏である。りょうと俺はそんなに話す仲でなく、いわゆる所属グループが違うってやつだ。奴はスクールカーストのトップである。
「君、凜奈を連れ込んでるらしいね」
その時、俺は予め用意していたセリフを放った。
「だから何だよ。別に普通のことなんだが」
これは用意されたセリフで、当然俺の物ではない。同じ男であるりょうは、即座にそれを見抜いた。
「本当にそう思ってるの?」
答えられない。りょうは、ふっと小さくため息を吐いた。
「ずるいんじゃないの、そういうの。君はそれとも勝ち目のない戦いに一縷の可能性を賭けて先延ばしにでもしてるの?」
「なんのことだ」
俺が気色ばむと、奴は人を喰ったような笑みを浮かべた。
「言わなくても分かるくせに」
「あまり人をからかうなよ……そういえば、凜奈はお前の束縛っぷりにうんざりしてるみたいだぞ」
「気づいてないみたいだね。凜奈がそう言うのはどういうことか」
「は?」
人の顔色を見て育ってきた通称人見知りの優ちゃん(名づけ親は凜奈)が、人の感情を読み取れないはずがない。確かに凜奈は嫌がってたはずだが。
去り際、りょうは顔を近づけ耳元でこう囁いた。
「僕はもう、凜奈とはセックスも済ませた」
「っ!?」
途端、曰く言い難い不快感のようなものが浮かんでくる。生理的な嫌悪は、目の前にいる奴だけに対する物ではない。
何も言えない俺を見て、りょうは満足げな笑みを浮かべて帰って行った。それ以上、奴は何を言うこともなかった。最悪の切り上げ方であった。