愛だけは知らずに
僕は呆気なく死んだ。今日もどこかで生まれているであろう死者の一部に僕はなった。
「うそだろ……おい、うそだと言ってくれよ!!」
僕のために友だちのみんなは泣いてくれた。でも、君たちは一週間後には笑って居酒屋で飲み明かしていたね。でも、僕の話をすると、少し沈黙が流れたことを忘れないよ。
忘れてくれていいんだよ。君たちの笑顔を少しでも遮ってしまうのなら、忘れてしまっていいんだよ。裏切らないでくれてありがとう。
「……俺たちは三人そろって初めてひとつの家族だ。これからも、それを背負って生きていこう」
「ええ……私たちが強く生きないと、あの世で笑われちゃうものね」
僕のために家族は誓ってくれた。でも、五年後には新しい家族が生まれたね。そのときのあなたたちはとてもうれしそうだったんだ。まるで、これから三人で生きていこうという風に。
それでも僕は祝福するよ。おめでとう。生まれた僕の弟もおめでとう。僕のようにはならないように。死んじゃいけないよ、誓いという形の重荷になるから。
だから、パパもママも僕のことを聞かされる弟も、忘れてしまっていいんだよ。ここまで背負ってくれてありがとう。
だけど、僕はまだ心の隅々が不安で満たされているんだ。友だちや家族に忘れられても、僕にとっての一番である彼女に忘れられていないか、とても心配なんだよ。
どんな形でもいいんだ。友だちのように、家族のように、僕に「忘れてしまっていいんだよ」と言わせてよ。それだけで僕は満足なんだ。
「そんな……信じられないよ!! こんなことあるわけないよ!!」
君は魂の抜けた僕を見て涙を流してくれたね。その時の僕は笑っていたと思うんだ。笑みの感覚がなくなるくらいうれしかったんだ。でも……
「……ほんと、めんどくさかったんだよ!! ATMのくせに私に泣いてもらえるなんて、あの世でも土下座して感謝しろっつーの!!」
君は僕に……
「えっ? ちがうよ。たーくんとはそんな気持ちで向き合ってないもん。たーくんが死んじゃったら、私絶対に立ち直れない。だから、死なないでね。あいつみたいに無様に死なないでね」
偽りの愛を向けていたんだ。
知りたくなかった。でも、僕は死んで、知る権利を得てしまったんだよ。ATMでもよかった。無様でもよかった。僕じゃないだれかを見続けてくれていてもよかった。
でも、僕はそれを知りたくなかったんだ。そうすれば、僕はいつまでも君を愛し続けることができたんだ。今は、胸が痛いよ。憎悪が体を蝕むんだよ。君を、僕と同じ、無様な場所に連れて来たくてたまらないんだよ。
……僕はもう、君の愛を知ってしまった。
「今日未明……マンションで女性の変死体が発見されました。原因は解明されておらず、現在捜査中とのことです。繰り返します。今日未明……」