わたしわたしの物語
わたしははじめ
小さな小さなものでした。
小さくて
ただただ
食べられるだけのものでした。
次に
光のない海に生まれました。
冷たい海でした。
寂しくて寂しくて、
なきくらすばかりでした。
光のある海に生まれました。
温かな海を知りました。
父がいて、
母がいて。
兄がいて、
妹も居りました。
けれども
みなで大きくはなれませんでした。
多くの出会いをしました。
たくさんのものを失いました。
やはり、
わたしはなきくらすのでした。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
どれくらい泣いたでしょう。
寂しさばかりがつのって
わたしはひとり。
ひとりぼっちです。
くるくると廻るわたしは
いつしか
丘に生まれました。
やはり、
小さなものでした。
よわいものでした。
たくさんの喜びと
悲しみを
知っておりました。
ですが、
たくさんの思いを
伝えるすべは知りませんでした。
目にうつる世界は
美しいというには
いささか淋しいものでした。
生きることに必死で
生き残ることに必死で
わたしは母と同じように
子を産み
育て
人知れず死に逝きました。
誰も知らないお話です。
だから
わたしわたしの物語です。
やはりわたしは廻ります。
くるくるくるくる
廻ります。
ある時は
鳥であり、
またある時は
虫でありました。
鳴きます。
啼きます。
どこまでも。
また逢う友よ
また逢う親よ
また逢う子らよ
逢いたい 逢いたい
そうなきます。
風よ 届けておくれ
雲よ 伝えておくれ
わたしはここにいる。
ここにいるのだと。
けれども
ひとり。
わたしは巡るのです。
何万刧の時を経て
わたしはわたし。
よわいものの命をいただきます。
よわいものをいただきます。
ありがとう。
ありがとう。
わたしは涙を流し
いただきます。
痛かろう。
辛かろう。
ただただ涙が流れます。
わたしのために
子らを生かすために
生まれてきてくれてありがとう
申し訳ない。
すまない。
わたしは
涙が止まりません。
それは昔
わたしの痛みでした。
わたしの苦しみでした。
わたしの悲しみだったのです。
わたしが小さなものだったころ
つよいものは
こんな気持ちになってくれていたんですね。
またありがとうと
なくのでした。
生まれ
死に
また 生まれ
わたしは人と生まれました。
生まれる前に死にました。
生まれても
少しもしないうちに死にました。
喜びを知らず
悲しみを忘れ
怒りを覚え
優しさを感じました。
祝福されぬこともありました。
祝福を受けることもありました。
殺されました。
殺しました。
たくさんたくさん
罪を背負いました。
背負わせました。
つらい つらい
ことでした。
涙が なみだが
止まりません。
人とは
なんと素敵なものでしょうか
空は青く
雲は白く
色とりどりの花は
まるで夢のようです。
美しい世界でした。
輝く世界でした。
来たかった世界でした。
生まれてよかったと
ここに来られてよかったと
温かななみだが
ほおを伝いました。
つらいことばかりでした。
けれども
美しいものを見たとき
心癒されました。
ささくれた心に
灯火がやさしく灯ります。
沈んだ心に
灯火がそっと寄り添います。
そんなところにいたのか。
わたしはそっと話しかけます。
こっちにおいで。
やっと逢えたね。
ひとりは寂しかろう。
どれ
少しばかりわたしの話をきいておくれ
淋しいひとりのお話さ。
苦しいひとりのお話さ。
わたしは渡しの物語を
紡ぐのです。
=わたしわたしの物語=
最後までお読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか?
書いていて、長いような短いような感覚でした。
みなさんはどう感じていただけたでしょうか。
これから頑張らせていただきたいと思います。
どうぞ宜しくお願いします。
この作品を、挨拶として
響