放課後の出来事
何でだろう。志穂の顔がずっと頭でぐるぐるしてる。
「…君、……流斗君!」
「はっ、はい⁈」
ぼーっとしてたこともあったけど、学校で名前を呼ばれることがないから、驚いて立ち上がってしまった。
目の前には志穂が立っている。
「私は週番だからいるけど、みんな帰っちゃったよ?帰らないの?」
「あ…うん、もう帰る。」
やっぱり人と話す時はどうしても下を向いてしまう。こんなんじゃダメって分かってるのに…。
「流斗君、人と話すときは顔を見て話さないと!」
「いや…でもさ。」
「言い訳しないのー!ほらっ!」
そう言って志穂は僕の顔を上に向けた。
志穂の瞳に僕の顔が映る。
あれ?顔があつくなって来る。なんか、今日の僕はおかしい。
「流斗君?顔が赤いよ?熱とかない?」
「いっ、いや、大丈夫です…」
「ならいんだけど…じゃ、あたしは週番の仕事しなきゃだから!
今日に限って仕事が多いんだよねぇ。」
志穂は笑いながら黒板の掃除を始めた。
志穂は背が小さいから、ぴょんぴょん跳ねながら拭いている。
その度に結んだ髪が踊るように元気に揺れる。
「あ…あのさ、手伝おうか?」
勇気を出して言ってみる。
「え?でも悪いし…」
「…どっどうせ暇だし…」
僕は、もう一つの黒板消しで上の方を消し始めた。
「ありがとう!なんか、ごめんね?」
なんか照れ臭くて返事が出来ず、首だけ横に降った。
しばらくは沈黙が続いたが、志穂がその沈黙を破った。
「流斗君さ、普通に話せるじゃん。
なんで他の人と話さないの?」
「…………………………………」
分からない。どうして話せないのか。
無視されるのが怖いから…?
話したら後でなんか言われるかもしれないから?
理由はいくらでも思いつくが、どれが本当なのかは分からない。
「ゴメン!言いたくないならいんだよ?」
「いや、人と話すのがなんか恐くて…」
「でも今は話してるじゃん!大丈夫だよー、このクラスの人はみんな優しいし。」
それは、相手が志穂だからじゃないのか?
僕が話しかけてきたってどうせ…。
「まずは一歩踏み出すことが大事なんだよ。
よし、もう教室での仕事は終わったから大丈夫!ほんとにありがとね!
じゃ、また明日。」
志穂は日誌を持って教室を出て行った。
…一歩踏み出す、か。
志穂のことばを帰り道、心の中でつぶやいた。




