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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
殺戮の占有者
93/115

マリアナの悪魔Ⅰ

 〇一〇五

 「轟水より入電、右前方に敵潜水艦音多数!」このような報告が全艦のあらゆる場所で聞こえた。眼下の敵の攻撃は見えない。各艦の操舵士は艦長の勘による退避進路の方角へと舵を動かすが、轟水が今頃になり報告したということは最初からこの位置に潜伏して居たわけだ。そして既に逃げる準備を始めたということだろう。要は敵の魚雷は既に日本艦隊の方角へと進んでいると言うわけである。

 

 …刹那!!爆音がどす黒い海中から響き渡り、そこから黒い水の柱が艦隊を包み込むかのように高々と飛び出た。連鎖的に爆発音が聞こえ何本も水柱が海面から飛翔する。被雷した船が鉄をこすり合わせるような悲鳴音をあげて傾きはじめた。

「巡洋艦愛宕・高雄被雷!!駆逐艦沖風艦首から沈没しはじめています!」栗田が率いる第一戦隊の三隻が餌食となった。沖風は小さな船体に二発もの魚雷を受け水に対し抗う術を忘れたかのように急速に沈没し始めた。高雄には一発が直撃した。

「巡洋艦高雄、錨鎖庫に魚雷命中。同型愛宕中央機関室に二発、後方機関室と艦首付近に各一発被雷しました!」

 愛宕は栗田艦長が乗船していた。その愛宕は四発もの魚雷を受けた。四発など排水量三万トンを超える戦艦でも下手すれば沈没する。それほどの威力が排水量1万トンの巡洋艦が受けたらどうなるか。答えは火を見るよりも明らかである。

 愛宕では総員退艦命令を出す暇もなく二〇度近く傾き、やがて海中へと見えない手によって引きずり込まれるかのように沈んでいった。

「高雄応急処置中」高雄は右舷に傾いたが応急班のすばやい処置で大損害を被るのを防ぐことが出来た。艦内では懸命に木材や板や布でなんとか破孔を塞ぎポンプで海水の排出を行っていた。

 一方敵潜は頭上の敵である駆逐艦や轟水の爆雷の報復攻撃を受けていた。海中で数多あまたの爆発音が響き渡り海面がその度に一mほど盛り上がった。薙刀型駆逐艦の内の一隻が投下した爆雷が敵潜一隻に命中したらしく他とは違う破裂音が聞こえた。爆発を思わせるような衝撃が海面から噴き出し、少しして重油の膜・残骸・遺体らしきものが浮かび上がってきた。 しかし轟水が感知したスクリュー音から考え恐らく三隻はいたとされる。二隻は何処かへ逃げてしまった訳である。

 

 〇一四〇 

 この戦闘の最中に栗田は愛宕から小型ボートで脱出しており戦艦尾張へと乗船した。その後二隻の戦闘艦の乗員などを駆逐艦などで救出し日本艦隊は潜水艦に気をつけながら一八ノットで航行を再開した。

 バラワン水道を抜けた第二艦隊はフィリピンのミンダナオ島の上方を抜け、東側のスリガオ海峡に進む。そこからサイパンに向け1300km進んだ場所で機動部隊を展開し以後、第一・二戦隊と機動部隊は別行動となる。

 

 サイパン島はこの頃になると敵の航空攻撃に対抗が難しくなっていた。連日米軍の二〇〇機前後の航空機がサイパン島を攻撃するため出撃しているわけである。おまけに米軍は一回出撃すると三日ほど休みが与えられたのにもかかわらず、サイパン島の日本兵は朝から晩まで警戒態勢である。この日も夜間の盲目爆撃が行われた。どこかいい所にあたれば良いな程度の攻撃でしかないが、それでも島に居る兵士達からすれば恐怖である。サイパン島の海岸線には塹壕はほとんどなくほぼ島の内陸に兵士達が潜んでいる状況であることは偵察機の報告で既に分かっている。そのため1日中爆撃や砲撃を島の形が変形するほど撃ち続けていた。

 

 九月二十日の夕刻遂に第二艦隊はフィリピンのスリガオ海峡を通過した。これに対し米艦隊は潜水艦より受け取った報告により日本艦隊の規模は分からないが確実にサイパン島に向かっているのだと確信した。


 同日 一四〇〇 米機動部隊は護衛空母三隻【コパヒー、アルタマハ、バーンズ】と駆逐艦二隻を日本艦隊が来ているという西側に送った。これは攻撃でなくおもに偵察目的である。しかしその三隻に搭載されている機数は全部で七〇機にも及ぶ。これが米軍の航空兵力の補充を支えているものである。これを何十隻と運用すれば何百機と航空機を補充することが出来る。そもそも護衛空母は商船に航空甲板を乗せて軽く改造しただけのものであり非常に作りやすい。

 

 九月二一日 〇七〇〇 雲の上に何か飛んでいるのを確認した。アメリカ艦上偵察機が上空を舞っていた。震電がスクランブル発進した。偵察機は逃げ始めたが航続力と運動性能を捨て速度と火力と防御に特化した双発の局地戦闘機から単発の艦上偵察機は逃げられるはずが無かった。震電は素早く後ろ上方につくと新型の組み合わせの搭載装備である九mm四挺と二〇mm二挺を一連射した。すると偵察機はまたたくまに蜂の巣にされエンジンに異常を起こし墜落していった。


 一二〇〇 再び偵察機が来るが対空砲火により周辺空域から駆逐した。同時刻水上機航空母艦千代田から九八式水上偵察機が五機発進し、それぞれ巡航速度三〇〇kmで探索が開始した。

 

 九八式水上偵察機は水上機ならばの形を生かそうとフロートの部分を燃料タンクとして扱えるようになっていた。どうせ空気抵抗が悪いなら利点に変えようとした結果であった。 フロートの三分の一が燃料タンクとなっており、網目状の鉄線と防弾ゴムで被弾対策が施されている。この偵察機は二人乗りで一人が操縦士でもう一人が偵察兼電信士となっている。勿論武装は無いということになる。エンジンも「興」三三型(一一〇〇馬力)を搭載しており二人乗りである事が重なり速度は九四式偵察機乙型の約三〇〇kmを軽く凌ぐ四一〇kmを出せるとカタログではなっていた。しかしながら燃料満載では速度は三八五kmである。それでも水上偵察機としてはとても速い部類に入る。航続距離が二三〇〇kmと広大な距離を駆ける事が出来る。


 そして二時間後に「航空母艦三隻、乙巡(軽巡二隻)を発見」との通信がきた。実際は小型空母三隻と駆逐艦二隻であり、どうやら誤認してしまったようである。


 「つまり距離は六〇〇kmしかないのか、目と鼻の先ではないか」山口中将は驚いたように言い第一次強襲部隊 九六式戦闘機二〇機 九七式軽爆撃機二〇機を発進させた。

 そして第一戦隊、第二戦隊を前進させそのほかの艦隊はここに残ることとなった。


 一三三〇 第一次強襲部隊が申し訳ない程度の対空射撃を行う護衛空母三隻に襲い掛かった。試験用対空レーダで感知していた護衛空母群だったが戦闘機を発進させるのが遅れた。おまけにようやく上がった四機もなすすべなくあっという間に撃墜されてしまった。まったくかまう様子も無く日本航空隊の攻撃が始まった。

 護衛空母アルタマハが真っ先に狙われ二発の直撃を受けた。二五〇キロ爆弾だが商船改造船には致命的なダメージを負わせることが出来る。バーンズは三発の至近弾で小破した。狂ったように弾幕射撃を繰り返す駆逐艦には見向きもせずに九七式軽爆撃機は六機でコバヒーを狙い四発を命中させ轟沈した。アルタマハも速度が落ちたところを二機に攻撃され撃沈された。

 唯一の請ったバーンズも戦闘機により艦橋やカタパルトが破壊された。この攻撃によって日本航空隊の損害は撃墜・自爆三機のみで圧倒的勝利を得た。


 しかしバーンズや駆逐艦の偵察行動や報告によりアメリカ機動部隊は日本機動部隊の位置を割り出すことに成功していた。そして総数三〇〇機の攻撃隊が四派に分け一時間後、三〇分おきに日本艦隊の方角へと送り込む事を決定した。悪魔のように空を覆いつくす編成が日本艦隊を発見するのにはそう時間はかからなった。


 一六〇〇 アメリカ機動部隊が襲い掛かった艦隊は航空母艦ではなかった。

 次回「マリアナの悪魔Ⅱ」

 アメリカ艦隊の大編成の全貌が明らかになる中、サイパン島の援護に入る南雲機動部隊だったが・・・。

 

 ※体の節々が痛く具合不良のため延期します。ごめんなさい。

 更新日11月31日以内

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