終戦工作
人事変更・会議により方針を決めていく大日本帝国だったが、新たな脅威を伝える報告が・・・。
四月八日 この日人事移動が行われ海軍大臣は米内光政に変更された。又、外務大臣は総理大臣の東条英機が兼任していたが、帝国海軍の豊田貞次郎が着任した。豊田貞次郎の就任はこれで二回目であった。一回目は開戦前の一九三三年だった。豊田は海外の事情に詳しいがどちらかというと国内の事情に乏しかった。
今回の人事移動の結果、軍内部では終戦に向かう体制が見えていた。米内は和平派であり、豊田は海外のことを他のものより知っている。そういう者を外交にたたせようという事はやはり終戦へと向かわせているのであろう。
陸軍も東条英明が兼任で行っていた陸軍大臣を阿南大将とした。本人は表面は好戦派ではあるが「一定の戦果を得るまで抗戦すべし」と内面終戦派とも見れなくもない意見を放ち誠実で人望が厚い。そのため軍が一体となり行動するにはうってつけの人材であると判断されたためこの度選抜されたのである。
四月十日 台湾でドイツ・共産党軍が降伏する少し前に。【今後ノ戦闘大綱】【本戦争ニ必要ナ兵力】の二つの計画書が提出された。
【今後ノ戦闘大綱】
一,中国・南方・インド・ビルマ・ソロモン周域全てに於いて戦線の不拡散に徹する。
二,マリアナ諸島とその周辺に太平洋全域における陸海軍航空兵力の五分の四。連合艦隊は潜水艦で敵の兵力をマリアナ諸島に誘い込む。
サイパン島・グアム島・テニアン島・ロタ島の四島に防衛拠点を築き上げ敵の空爆・艦砲射撃に耐えれるようにし敵の上陸に対抗できるようにする。
海上兵力で航空兵力を予備戦力とし主戦力たる戦艦で敵の主戦力を殲滅する。
三,各国の駐在武官からの情報を極力取り入れ、主に中立国のスイスの駐在武官の藤村義一を通して和平工作を行う事。
【本戦争ニ必要ナ兵力】
一,陸軍兵力を工兵・建築労働者を各島に三〇〇〇名と歩兵一個師団・2個砲兵旅団・一個戦車旅団を新たに派遣する。航空兵力は二個航空師団と一個爆撃師団。
二,海軍は現存の戦力と一・一・三・三・五・五計画によって増設される総合戦力。
各島の陸戦隊はそのまま配置。陸上航空兵力は一個航空師団。
東条首相・阿南陸相・米内海相・豊田外務相の四人に需要大臣を加え会議が行われた。不拡散に徹するという案については特に反対意見はなかった。
必要な兵力についても阿南陸相が苦言を呈したりもしたが結果的に二つの計画書は原案通りに通された。
陸軍部はこの時期新たに九八式戦車を制作した。電気溶接をできるだけ多く使用し、エンジンも一から設計し直した水冷式エンジンを作成した。馬力は四八〇馬力と非常に強力であった。九七式チハに搭載した航空改造エンジンとはうって変わって、いかにも戦車に搭載すべしため作製されたエンジンといえる見栄えであった。
水冷式のため非常にコンパクトな設計となった。ただ整備が難しく冷却ファンが非常にもろくかつ構造が複雑であったため安定性ということでは九七式チハの方に負ける。
装甲は前方面四五mm・側面二〇mm・後方一〇mm・上面八mmという正面重視の装甲厚であった。おまけに傾斜装甲のため二〇〇m離れた場所から放たれた四七mm砲の直撃に耐えれるほどの強靭さであった。ただし三回の射撃実験で装甲がかなり削がれたという。
主砲は四九口径砲身長四七mmのモデルと新作の四五口径砲身長七五mmモデルが用意されていた。新作の砲は八八mmより小さいが砲身の長さによりそこの部分をまかなった。確かに前回の九七式の八八mmモデルは重量のため砲身を幾分か切り詰めている。
四七mmモデルであれば速度は五十キロとやや快速である。
四月十四日 呉の造船上では越後の三番艦にあたる戦艦の建造を行っていた。設計図だけは二ヶ月前から書かれていた。しかし海軍から比較的容易・早期に作成できることという条件付があった。
そのためだろう。鋲打ちの音が甲高く聞こえる造船場だが電気溶接を使用した建造が行われていた。鋲打ちより幾分が作業がスムーズであった。最も重要なところは鋲打ちのみとなっている。
四月一八日 「阿南陸相」その男は所属を早口で言い敬礼を行った。しかし明らかに動揺していた。「どうした」部屋で膨大のペーパーワークに追われていた阿南はその男の動揺さに何か不吉なものを感じた。
「ビルマに中国国民党軍と思われる部隊が侵入しました」その言葉を聞き阿南は唖然とした。中国国民党軍という言葉に若干の違和感を持ち、一秒後に言葉の意味を理解した。「国民党軍か?共産党軍ではないのだな」と驚きを隠しつつ兵士に聞く。兵士は小声で答える。続けて状況報告。「歩兵第五五師団が交戦中とのことです」
「共産党の次は国民党軍か・・・やはり同じ国民のため攻撃時期は同じというわけか」
中国国民党群の中には共産党軍と同じくドイツの思惑で派兵されていたドイツ兵が幾人かいた。
「敵の航空隊を発見!こちらも大至急航空支援を要請する」
「東洋コンドル第一飛行戦隊見参!」翼に十字が描かれたB109が上空で暴れる。機銃掃射が行われる。発砲でオレンジ色が弾ける。
同時刻インド派遣軍にもこれは通達されていた。「大変だ!大至急牟田口中将に伝えろ」
次回「振り返えらぬ進路」
8月15日投稿予定です。夏風邪にみなさん気をつけてください。