表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
惨劇の後に・・・ 
78/115

「奴ら、キチガイだ」

 前回の話に入れ忘れてた部分がありましたので加筆して投稿させてもらいました。

「総員起こし5分前」海軍の朝は早い。

「総員起こし」の号令がかかった。するとハンモックに横たわっていた兵士が一斉に飛び降りると素早くハンモックの片付けに入った。このハンモックのことを海軍では釣床という。ある歌に「揺れる釣床、今宵の夢は」とあるため納得できる。

 さてこの釣床を速く釣床紐というもので素早く結ばないと新兵は顎に一発制裁を喰らう。かと言って荒々しく結ぶとこれも顎に一発である。最も彼らは最早新兵ではない。それが証拠に素早く作業をこなした。


 甲板にあがると説明が行われた今日は訓練では無く実際に戦闘が行われる。これは前の日から通告されていた。

 「台湾に上陸した敵兵を沿岸部から砲撃し・・・」といった具合だ。まあたしかに陸上部隊からしてみれば本旧式巡洋艦もそれなりの脅威であろう。

 彼らが乗っているのは防護巡洋艦平戸であった。就役が1912年であり既に26年が経っておりいつ除籍されてもおかしくはない。とはいえ中国の警備にも昨年まで抜擢されていた事もある。兵士の練度も極めて高い。


 ここは満州の旅順である。他には支援艦として色丹・石垣・八条・択捉という4隻の船舶が起工されていた。これは魚雷装備を取り外した低速駆逐艦のようなものである。中国を警戒するため駆逐艦より低コスト艦で運用できる船舶が求められていたために作成された船舶である。等級で分けるなら海防艦に分けられる。(ただ史実ではこの年代は海防艦という等級を廃止)この艦隊の後に給油艦と海防艦国後が15ノットで航行を開始した。光が反射してキラキラと輝く海に白い航跡を曳いて目的場所に船は只走る。先に出発した5隻の艦隊は19ノットの速度で進んだ。

 


 


 〇六〇〇 一方の台湾に上陸した台北攻略軍は昨晩の攻撃で精神をすり減らしていた。そう昨夜・・・二三三〇だ。

 

 ━━━━「何の音だ」次第に近づいてくるような音に恐怖を感じる。しかしその姿は見えない。「どうなってやがる」何もいないはずなのに原因不明の音が次第に近づいてくる。何人かの兵士は憔悴を隠しきれず適当な場所に銃撃を加えた。だがその行為がかえって焦りと恐怖を増大させていった。

 兵士の脳内で昨夜の回想が映像として流れる。・・・草原に視線をやると黒い影がユラっと立ち上がるのが見えた。気がついたら辺り一面黒い影が見えた。こちらに白銀の刃が向けられていた。

 そしてラッパのような音と共にいままで聞いたこともないような声を張り上げてその黒い影は一斉にこちらに向かい走り出した。幾百の足音と刃の迫りくる映像、叫び声とラッパの音声が混ぜり合う。回想している映像が当時の自分の混乱を表すかのように揺れ始めた。迫りくる死の感覚・機関銃の音・手榴弾の爆発・閃光と炎の柱・銃撃の火花・絶叫・血しぶき・さらに迫ってくる足音・誰かが呼んでる。そうだ誰かが俺を読んでいる。揺れ動いていた記憶の映像が正常に再生され始める。呼んでいる。「誰だ」問う。

 「俺だよ」それは俺の両手に抱かれているものから聞こえた。俺は今何を持っているんだ。見る。戦友の・・・生首。白い目がこちらを見る。口は笑いながら「オレだよ」と言った。

 直後その回想をしていた兵士が耐え切れず発狂した。「うわあああああああああああああぁぁぁぁ」叫ぶ・叫ぶ・叫ぶ。「どうした、落ち着け」心配して仲間が駆け寄る。

 「生首がァアアァァァハハハァァ」手を振り回す。足を前後に激しく突きだす。暴れる・暴れる・暴れる。「モウイヤダァァァァァァア」残虐な映像と昨夜の記憶が入り混じり兵士はひたすら叫んだ。

 叫び暴れる友人を兵士たちは心を鬼にして数人押さえつける。兵士がどういう状況にあるか皆察した。

 「キチガイめ」ボソッと言ったその言葉はその兵士ではなく昨夜、こちらに走り迫ってきたあの黒い影を思い浮かべ言ったものである。



 

 〇九〇〇 インドに派遣された日本兵はひたすら歩く。その先方ではトラックやバイクが移動している。先行部隊に至っては今夜には山脈の麓付近まで行けるのではないかと思えた。時速4キロの部隊と20キロの部隊の差は一時間辺り16キロである。1日中休憩や食事も一切ないとすると384キロにもなる。

 実際は休憩(睡眠含める)が計5時間半、食事が1時間から24を引けば17時間半である。この時間なら距離の差は240キロだ。やはり機械というのは素晴らしい性能を持っているのものだ。

 

 時差の関係でまだ空は薄暗い。黒紫とでも表すべきであろう色が付いた空がただ頭上に広がっている。一定のリズムを刻むような兵士の歩きは恐ろしい程まとまっていた。これが共に訓練を積み重ねた仲ということだろうか。


 

 やがて昼になる。山が近づく。背の高い木々がそびえ始める。虫の声が聞こえる。恐らくこれが夏だったら耳がおかしくなるほど鳴き出すのだろう。いまが春で良かった。しかし春といえどまだ寒い季節だ。だが兵士たちは移動と緊張により寒さよりもむしろ暑さを感じていた。


 

 宵が近づく。一時的に周りのものが燃え出しているかのような風景が広がる。オレンジ色に染まる光景は何か特別な雰囲気というものを感じるものだ。もう夜になるのかという気持ちのせいなのだろうか。


 時間は立ちすっかり日が沈む。代わりに月や星が僅かながらに地上を照らす。



 

 二二〇〇 「増援が上陸したそうだぜ」この日中国の大型船が再び兵員を運んできた。船から詰められていた兵員と物資が倒れこむように出てくる。水位の浅い浜辺に降り泥にまみれながらも上陸する。今回の作戦は機動性を求めたため上陸した兵士は分隊単位で点呼ができればそのまま友軍交流地点に走れというものだった。12人ほどの単位にまとまるとすばやく駆けていくのだった。最も近い友軍との交流地点は北部なら8キロ、南部なら4キロの場所にある。勿論その途中にも味方兵士がいるがあくまで警備用の兵士のため現在の指揮官がいる場所まで行かなくてはならない。道行く道には家屋の残骸や死体が転がる。「日本人めぇ思い知ったかぁ」我が国土に進行してきた日本軍に仕返しができたとばかりに叫ぶ。だが死体のほとんどは兵士ではなく住民である。

 「しっかし今日も昼の銃撃戦で何人やられたんだろうな」銃撃戦がこのところ活発的に行われるようになっている。向こうもようやく本調子に入ったという所だろう。

 「それよりも昨夜のあれが原因で兵士が今日3人も発狂したらしいぜ」

「ふぅ・・・これからもっと増えるぜ。今日上陸したやつらは何も知らねーだろうな」

「後衛任務ならしたい片付けのために穴掘りだからいいだろうが、前衛はなぁ」

「昨日みたいに又来るんじゃねーだろうなぁ奴らァ」

「奴ら、キチガイだ」


 皆昨夜の攻撃を思い返していた。


 

 ━━━━昨夜何が起こったのか。台湾防衛任務についている台湾防衛第1・2連隊を主体とする日本軍は夜中に切りこむを行うことを決定した。それもただ切り込むのではなく日本陸軍が伝統的に訓練を行って来た戦法で行くのである。白兵突撃だ。これは精神主義の象徴的な攻撃方法で銃に銃剣を装着し己の能力を最大限まで引き出し目の前の敵を銃剣で刺し倒すのを目的としたものである。

 昨夜地理的に優位な日本軍は複数のルートを通り気づかれないように接近した。そして突撃ラッパが吹かれる。それを皮切りに「バンザァァイ」と叫び敵陣へ殺到した。ドイツ・共産党軍は度肝を抜かれ後退した。日本兵は後ろから刺し殺した。銃底で殴りつける。銃剣がダメになれば肉弾戦だろうが何だろうがと交戦する。ようやく体制を立て直したドイツ兵からの十字砲火を受け300名もの損害を出し撤退していった。一方の上陸軍側もほぼ同等の死傷者を出した。


 やがて台湾ではこの行動が日々繰り返される事となった。

 予告:遂に動き始める2つの陸戦。山を成す屍、川を成す血。いかなる状況においても弱音が許される兵士は何を思い戦いに挑むのか。希望を生み出すことは出来るのか。

 第2次世界大戦で1つの区切りと言われることとなる戦いの火蓋が落とされる。三大勢力の頂点に立つための戦いは次ぎ次ぎに惨劇を生むのだった。


 次回「陸のこころざし」6月1日更新! 乞うご期待。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ