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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
惨劇の後に・・・ 
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嵐の前の静けさ

 

 二三一〇 大日本帝国陸軍のバイクである陸王のエンジン音がなびく。ただそれだけで周囲は静けさに包まれていた。背の高い草が両脇に生い茂り整備されている土の道にも雑草がチョコンと顔を出している。8班で周囲を探索している。

 斥候隊は1班10輌で行動している。どの班もサイドカーはつけてはおらず武装は腰につけている九八式拳銃だけである。一九三八年(皇紀二五九八年)に正式化され、使用弾は9mmで有効射程100mで重量が約1キロというバランスが良い拳銃である。

 班の中で仲間の拳銃とはひときわ違うのを持っている者が2名いる。それは日中戦争の時から使用されている10年式信号拳銃である。名前のとおり攻撃用でなく味方に異常事態などを知らせたりする代物である。近くにいないと信号が伝わらないように思えるが、今夜は非常に天候が良い。このような日であれば大体25キロ程離れた場所からでも目視できる。

 

 「ガニ股兵士がバイクに乗ってうろちょろしてるそうだぜ」インド内部に張り付いている仲間兵士より報告を受けた英国兵士は日本の偵察隊と思わしき部隊への攻撃することとした。彼らは12名で各々で拳銃・自動小銃とその自動小銃のマガジンを5つずつ持っていた。それに加え鉄鋼焼夷弾を装填している重機関銃を1丁持っていた。

 彼らは日本の偵察隊の進路を正確に見抜く事に成功しそこで待機した。待ち伏せ攻撃をするのである。



 二三三〇 台湾に上陸した中国軍とドイツの混成軍に夜が訪れた。欧州民族には夜戦うという意識がないらしくほとんどの兵士が睡眠に入ってしまっていた。一方のアジア民族である中国共産党軍はそうではなく辺りを警戒していた。一時間ごとに見張り交代をすることとしたのだ。

 実は数時間前訓練が不足気味な部隊と正規軍が入り混じっている部隊と北部進行軍は衝突していた。これは台湾を防衛する正規軍と日本軍が徴兵し訓練した台湾独立防衛軍を大雑把に編成したものだ。総数はゆうに1300名を超えていた。火砲は無かったが軽機関銃が何丁か使用されているところを見るといよいよ本隊がお出ましと言ったところだろう。

 

 ━━━━。寝息を立てるドイツ兵の耳を揺さぶる音が微かに聞こえていた。少しボンヤリしていた共産党軍兵士が何かを叫んだ。音は次第と大きくなってくる。航空機かと思われたが音が違う上に空にはその様なものはない。

「何の音だ」次第に近づいてくるような音に恐怖を感じる。しかしその姿は見えない。「どうなってやがる」何もいないはずなのに原因不明の音が次第に近づいてくる。何人かの兵士は憔悴を隠しきれず適当な場所に銃撃を加えた。だがその行為がかえって焦りと恐怖を増大させていった。




 二三四〇 インドの方面もその頃異変が起こっていた。突如として機械化偵察隊の前方にいる日本兵のバイクの前輪にピアノ線が絡まった。その兵士は前に投げ出されバイクも宙を1回舞い地面に落下した。続いてそのバイクに2輌目が激突し兵士もろともバイクは横倒しとなった。慌ててほかの兵士がブレーキをかけた。

「何だ、どうしたんだ」心配した見方兵士が駆け寄ったときに突如として草むらから黒い棒状のものが突き出された。間違いなく銃身であった。何か掛け声のようなものが聞こえると、その銃身からは幾多もの閃光と弾丸が吐き出された。

 英国軍の重機関銃の射撃であった。機動性のない機械化偵察隊など的のようなものである。唖然としている日本兵に重機関銃は唸り偵察隊をなぎ倒していく。吐き出された鉄鋼焼夷弾は次々にバイクを炎上させてる。日本兵も慌てて拳銃を握り地面に伏せるが、英国兵士は今度は自動小銃を持って惜しげもなく銃弾を発砲した。炸裂音が鳴り響き紅の炎が舞い上がりそれは信号弾の必要性を感じないほど強烈なものであった。だが空に向け白い煙が立ち上った。それは"敵と交戦"を知らせる合図だった。



 その信号弾は他の班に確認され10分後に本隊に報告された。


 

 〇〇〇〇 ちょうど日付が変更された時に軍が民間より買収しインドまでわざわざ持ってこられた郵便機が、上空より信号弾が発砲されたと思わしき場所を偵察した。だが既に部隊は壊滅し敵と思わしき姿は確認できなかった。後にトラックで駆けつけた大隊が大規模な偵察を行ったが、敵の発見には至らず急遽きゅうきょ各編隊の作戦の変更に入るとともに航空機の夜間偵察を決行することとした。

 

 彼らを攻撃した英国兵士は"浸透奇襲兵団"と呼ばれている。その名のとおり敵陣地に浸透し奇襲攻撃を仕掛けるゲリラ部隊・コマンド部隊のようなものである。

 

 日本軍の最終目標はインドからビルマの国境線の確保。かつその上方にあるブータンとネパールに隣接している中国近隣への制圧。ただしここからは中国へ進撃し領土を制圧するという事はしない。そんなことをしていたら、恐らく5個師団は貼り付けなくてはならない。ただでさえイギリスの植民地に進撃しており、アメリカと戦争までしているのにも関わらず2方面から中国へ進行などしたらどこかが崩れる。大陸部が敗走すれば中国どころか下手すれば満洲さえも危うくなる。太平洋方面が敗走すれば大日本帝国滅亡がやってくる。あくまでここの部分を制圧し敵の脅威を取り除くための作戦である。

 ただこの作戦を遂行する上で主な作戦地域は山間部になる。ここ一体は山が連なっている。重装備でこんなところは進めない。故に軽装備で進まなくてはならない。そのためトラックなどは山のふもとまでしか物資を送れない。山頂まで行こうとしたら舗装した道を作らなくてはならないだろう。山の木々の根や泥に邪魔され兵士さえ通り難い場所をトラックは通れない。そのために牛や馬などが用意されているのだ。さらに兵士も手軽に運べるように手押し運搬車という大八車のようなものも活用する。わからない方は50センチ×50センチほどのカゴの下に1つの車輪。手で持つための2本の棒がかごのふちについたものを想像してみると良いかもしれない。非常に小回りが効くため山林地帯ではもっこいのアイテムである。

 

 〇〇四〇 「先ほど襲撃してきた国籍不明軍の内二人を捕らえました」そう言うと拘束された兵士らしき2人が前に出された。

「どこの兵士かと思えばイギリスか」牟田口中将はなるほどといった顔で2人の兵士の顔をまじまじと見た。足を怪我しているところ見ると銃撃戦で傷つき逃げるのが遅れたのだろう。

 そして「誰かイギリス語の翻訳が出来る奴はおらんか」と探させた。その間に「先の襲撃はこの兵士だけでは無いだろう」と言うと「ハッ、現在も捜索中です」と言うと、ムッとした顔になり「構わん、先遣隊でビルマ国境線への進撃を開始する。第33師団・39師団も出す」と声のトーンを僅かながら上げて言った。第1総軍の佐藤中将も斥候隊を再び出す事を決定した。さらに臨時編成した第97師団を支援として送り出すこととした。

 

 これにより4万名の兵力が進軍を開始した。第1総軍、第2総軍の全兵力は11万であるため実に3分の1以上の戦力が移動を開始したという事になる。


 第2次世界大戦の陸上戦で5本指に入る戦いが遂に行われようとしていた。

 次回 5月30日〜6月2日 予定

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