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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
惨劇の後に・・・ 
74/115

王将を撃沈せよ

 越後は戦線に復帰する。しかし米軍はある恐怖の砲弾を使用し始める。恐怖の砲弾は水雷戦隊そして飛騨を襲った。

 果たして海戦の行き先はどこなのか。

〇三〇〇

 ━━━━力が入らない。まず一番最初に感じたものがそれだった。痛いという感覚がない訳ではないが小学生でも我慢できそうな痛みだ。アドレナリンの過剰分泌、又は感覚神経の一時的麻痺のおかげだろう。

 ここでずっと横になっているわけには行かない・・・。まず目を開けてみる事にした。すると視界が赤く染まっていた。火事か!体が一瞬反応したが熱を感じない。

 つまり・・・。額がズキリと痛んだ。なるほど俺は今額から出血しているのか。視界が赤く見えたのもそのせいか。目が血を洗い流そうと涙を出している。かろうじで動かすことができる右手で目を拭うと先ほどとは違う景色が見えた。部屋は煙で覆われていた。俺は悪運が強いのだなと感じた。煙は上に行く習性が有る。敵艦から砲弾を受けてなぎ倒されるが、そのおかげで煙をあまり吸わずに済むとは皮肉というべきか不幸中の幸いとでも言うべきなのか。何か生ぬるいものを左手に感じつつ、ヨロヨロと立ち上がった宇垣は艦橋内を見渡す。赤いランプが点々とつく薄暗い部屋の中で左手を見ると赤々と染まっていた。 これはランプのせいではなく、まちがいなく血液である。首を振り周囲の確認をした。 鋼鉄の壁には巨大な破口がぽっかり開いており煙の壁の向こうでは黒々とした景色が見える。辺りには航空参謀や副長・砲術長などが倒れている。数秒後、分隊長が後ろで立ち上がったのを感じ取り放心状態から脱すると急いで命令を下した。「看護・看護手を!ごほぉ」煙が充満しているのを思いだし慌てて両手で口をおさえた。


 飛騨に報告が届いたのは2分後の事だった。


 

 「被害はどうだ」モンタナは孤独な戦闘をしていた。ウィリアム・パイは後方で指揮をとっているが具体的な指示はない。単に「艦の性能を最大限に発揮し目標に損害を与えよ」という誰でも言える文だけ送ってきた。モンタナで指揮をっているのは艦長ノーマン・スコット中佐である。


 史実での実績を少しだけ紹介しよう。サボ沖海戦で未完成のレーダーを装備した艦隊で日本艦隊を撃ち破った。ただこれは日本側の軍司令が最後まで味方艦隊と勘違いしていた事もあり、駆逐艦1隻沈没・同大破さらに巡洋艦2隻が損害を負っている。だが日本巡洋艦部隊を壊滅させ日本側が得意とする夜戦で勝利した。(ちなみにこの時両軍混乱していた)


「浸水は食い止めていますが火災は激しいですが鎮火出来うる範囲であり問題ありません」事実を淡々と述べるその声には焦りを感じなかった。つまり鎮火できますと言っているようなものだ。

 ━━━━ためしに・・・あれを使うか。

「ファイア・ズーム弾を使用する」「し、しかし艦長まだ性能は確かではありません」砲術長が反対するが「構わん!やれ」という一言にやむなく装填弾変更の命令を出す。

 ━━━━まだ未完成の試験版とは言え十分な成果が期待できる。それにあれは本艦のみ積んでいる。「装填できたか」「主砲全砲門装填完了!」砲術長は高らかに告げる。

 ━━━━今の段階でさえ一定の効果が期待できなくもないはずだ。「それでは主砲発射用意!目標はまずさっきの水雷戦隊だァ」「全砲塔照準を合わせろ」砲塔がわずかに動き各々の砲塔が上下に作動する。超砲身にしては幾分か速く動作している。

 ━━━━うまくいけばあいつらに一泡吹かすことができる。

 発砲命令を出そうとしたとき白い水柱が至近に直立する。日本艦隊の発砲である。「いい気になるなよ」心の中で叫ぶ。「構わん全砲塔斉射せよ!」「斉射だぁ!撃てぇ」間が1秒あった。そして静寂を破りモンタナの主砲が一斉に火を吹き砲弾を弾き出した。


 「駆逐艦回頭してきます」その光景を飛騨で確認していた。悠々とした姿である。まさしく胸を張っていると言える。だが実際は戦艦の射程外から遠のこうとしている事を忘れてはならない。

 惨劇は訪れた。敵の主砲弾が周辺に散らばるように落下した。そう周辺に落下しただけだった。直後その場所から幾つもの物体が飛び上がった。

「何だァこれは」日本水雷戦隊は別世界に飛ばされたかのように奇妙な音に悩まされた。それは物体が落下してくる音だ。

 しかしながら砲弾は既に全て落下している。その落ちたものから出てきたものがそれの正体である。飛び上がったそれは重力の作用により次々と落ちてきた。まるで崩れていく水柱と同調しているような速度だ。それは次々と各々の下部にある船海域に落下した。すると高熱を帯びた火柱が一斉に立ち上がる。

「爆弾だとぉ」それは確かに正解である。もっ正確に言えばかなり高価な油を使用して作成された焼夷弾だった。一発の砲弾からそれは8発がでてきた。90発を超える小型爆弾がその周辺に散布されたわけである。艦の上でメラメラと勢いよく燃え上がった。海上でさえ燃えていた。それほどまで計算された爆弾なのだ。それ以上に叩きつけたれた砲弾から周囲に効率よく爆弾をばらまける技術も大したものである。慌てて消化作業を行おうと水がかけられ炎がついた海域から慌てて脱出が図られた。

 脱出するのは容易だったが水をかけたにもかかわらずなかなか消えない。それどころか炎はその活動場所を徐々に拡大し始めた。


 「高性能焼夷弾とは・・・」飛騨の艦橋では騒然としていた。いやそれ以上に騒然としていたのは間違えなく水雷戦隊である。

 何人かが体に燃え移ったのか訳の分からぬことを言いながら転げ回り海中に身を投げだす。また仲間に助けを求めようとして消火活動を妨害したり火を移したりと人的被害も相当なものであった。温度は1000度を超えているため鉄とはいえ変形し始めた。

 駆逐艦4隻に命中しこの内1隻はなんとか鎮火することができたが3隻はいまだ炎上中だ。それどころか誘爆までも始まっていた。


 「見ろ火の手は大きくなっているぞ!次はあの図体のでかい奴だ」そう越後と飛騨である。

 

「王将を撃沈せよ!」混乱しつつある2隻の戦艦にはその命令が響き渡った。越後もようやく復帰した。

「砲術長よぉく狙え」敵のあの火災は一度命中すると最悪黒い鉄屑になってしまうだろう。


 「ジャップの船はフランク野郎だ。戦闘用の装備以外着飾らない・・・まさしく気取らないフランク野郎だ。だから誘爆物資がたくさんあるんだ」あながち間違えではない。イギリス兵が一度日本巡洋艦に乗った時など、私は今日初めて本当の巡洋艦に乗ったというような事を言うほど生活性より戦闘用に特化されているのだ。だから誘爆しやすというのは幾分か意味を履き違えてはいるような気もするが。だが実際に3隻の駆逐艦が次ぎ次ぎ誘爆を始めている。


 「撃てぇ!」越後の主砲が咆哮した。飛騨もそれに続く。モンタナはそれに返すかのような砲撃を行う。

 

 天空より飛来してくる砲弾はまるで雲を切り裂くかのように殴りかかる。


 擬音を使えばガゴンと言うような音がした。その直後に聞こえたのは火薬が一斉に破裂する爆発音である。それがモンタナの第2主砲のすぐ後ろに突き刺さるかのように命中した。紅蓮の炎が巻き上がる。爆発エネルギーがモンタナに被害を与える。

 「飛騨に焼夷弾多数命中!火災が至る場所で発生」中部甲板にその砲弾は命中した。周囲と前部・後部の甲板に火拳が殴りつけたかのように炎があがっていた。

 すぐさましょうかが必要だ。だが艦長は違う指示を出した「消化作業は後だぁ。なんとしても敵の王将を撃沈せよ。」

 一字一字をしっかり区切るように言った命令の元放たれた砲弾はモンタナの左舷の艦首に命中し爆発させ6人を死亡させ浸水を生じさせた。当たったのはこの1発だけではなくもう2発あり、他は左舷装甲を打ち壊し大量の浸水を生じさせた。距離は2万3000で当たれば壊せる。モンタナが傾き始めた。


 これによりモンタナは主砲の射撃が不可能となった。勝敗は決した。

 ここにきてウィリアム・パイが陣形を整え援護を開始し始めた。だがそれは無駄な努力にも思えた。越後はモンタナに止めとばかりに砲撃を加えた。


 大型巡洋艦はウィリアム・パイの艦隊を駆逐する。その中もがき苦しむ日本艦があったそれはモンタナの攻撃により死の火を浴びた駆逐艦と飛騨であった。


 〇四〇〇 アメリカ艦隊はモンタナを失い撤退を始めた。もう1隻の戦艦も傷を負っているのも大きいだろう。

 日本側は大きな恐怖が過ぎ去った事を実感した。例の駆逐艦3隻は沈没し飛騨は生気を失ったかのような形相に成り果てていた。

 あの後残った船で消化作業を始めたが上部甲板はほとんど消失してしまった。


 珊瑚海の海戦はこれが最後であった。後日アメリカ艦隊が撤退したことが機動部隊やポートモレスビーの基地などから確認できた。日本艦隊も疲れ果てたかのようトラック島に撤退を開始。


 唯一飛騨だけはマリアナ経由で本土へと戻った。

 珊瑚海での海戦は終結を迎えた。その被害報告に大本営は驚愕する。

 これに反して激化するインド派遣艦隊の戦い。そして始まる台湾上陸作戦。アメリカ撤退とその後の作戦。

 


 次回 5月5日(日曜日)更新!

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