夜近づく夕方にて
予告より早いですが投稿をはじめさせて頂きます。長らく休載していましたが定期的にご覧頂きありがとうございます。(>_<)
ハルゼーの正規空母ヨークタウンとホーネットは決して無事なわけではなかったが応急手当を施し利用できる状態にされていた。他の巡洋艦5隻、駆逐艦14隻も無事である。詳しく言えばオーガスタンは損傷している。
「敵の大型巡洋艦を1隻撃沈した模様です」カーニーが嬉しそうに報告するとハルゼーも愉快そうな顔をし「ジャップの艦隊にも一泡吹かせてやれたか」とロケット弾で敵艦の攻撃に成功したということにかなりの満足感を得ていた。
一八一〇 一方の日本艦隊は各艦の応急処置を行っていた。越後は艦橋ガラスを撃ち破られ何人かが負傷していたし大型巡洋艦木曽も火災は鎮火していたが全く問題ないというわけでない。
「宵が近くなりましたので。偵察機を投入せずに攻撃隊を分散させて見ますか」空を見れば確かに日が沈みかけているのが確認できる。この調子では攻撃隊が帰ってくる時には日は完全に沈んでいるだろう。宇垣はこれに同意した。
「うーむ」海軍航空本部参謀大佐大西瀧治郎は唸った。大西大佐は航空機の操縦可能であり航空機を支持する反面、戦闘機は不要という考え方を持っていた。しかし近頃は少し意見が変わってきている様ではある。
「7機編成の6隊で行きましょう。比率は3と4で」戦闘機3機、爆撃機4機と言う事である。ただ大西大佐はこの時まともな戦果も得れぬだろうと考えていた。巡洋艦に損傷を与えれるのが関の山だろうとしていた。
整備兵の日頃訓練が幸を期してわずか10分で6編成隊が発進可能な状態になった。九七式戦闘機18機、九七式軽爆撃機24機である。これを失えば軽爆撃機2機、戦闘機6機だけになってしまうが恐らくそれは無いだろう。
一八二五 発進の合図がかけられ搭乗員が愛機に次々乗り込み空母の端に向かい戦闘機が進んでいく。甲板からタイヤが離れ一度海に落下したかのように見えた。が、浮力を得ると軽やかに上空に飛び上がった。
一九〇〇 雲の切れ目から見えるのは空の色を反射したオレンジ色に染まった海原だけであった。敵艦隊の姿は見えない。
ヨークタウンとホーネットの甲板上に続々と艦載機が戻ってきた。一昔前の戦艦と同等以上の火力を持しているものを撃沈したためか随分と溜飲が下がったような顔をしている。
ウィリアム・パイの艦隊は態勢を立て直すことができた。ウィリアム・パイ率いる第三艦隊は重巡ヴィンセンスと駆逐艦6隻が沈没している他主力の戦艦が損傷を受けている。
一九二〇 雲の切れ目から何やら艦隊を発見することに成功したのが攻撃隊があった。しかし目標としていた箱型の船ではなかった。だが敵であることには違いない、ウィリスAリーの第30駆逐艦隊を発見した。同時刻箱型の船を主力とするウィリアム・ハルゼーの艦隊を確認した攻撃隊があった。
時速何百キロで動く世界に弾幕射撃によるオンレジ色の束が入り込み視界が一気に悪くなり、高射砲による弾け飛ぶような衝撃を付近で感じると機体は激しく揺れ動いた。ときおりガツンとした鈍い音ともに持ち上げられエンジンが止まるかのような振動を感じ取った。黒煙と閃光などが混ざり合った奇妙な世界で軽爆撃機は爆撃進路を見つけることを迫られる。
「ジャップめ!仕返しのつもりか」突如小破したオーガスタンに鋭い角度で何かが飛び込んだ。それは木っ端微塵に砕け散り惨劇のはじめを告げた。たかが軽爆撃機4機ごときにここまで出来たのかと目を疑わんばかりの光景が目の前にひろがった。軽巡洋艦セントルイスに爆弾が命中し5つあった三連装砲塔は2つが無残に破壊された。さらにこの後1発命中、直衛機を上げるまもなく回避行動を始めていたホーネットにまたも命中した。駆逐艦には目もくれず損傷していたオーガスタンに命中弾、デ・ロイテルの後部甲板に直撃させるという異常な命中率を叩き出した。
「セントルイス火薬庫に引火します!」
日本機が逃げいくように過ぎ去っていく最中阿鼻叫喚の報告とともに恐れていた事がおこった。セントルイスは内部から火柱を立ち上げまるで巨大なナイフで刻まれたかのように構造物がバラバラと海中に落下していきタービンが破損し炎はどんどん大きくなりやがて船体を飲み込んでしまった。
またホーネットは爆撃される高度が低かったためか甲板を突き抜けず爆発した。目も当てられぬほどの光と熱量を放出しながら中央部分がえぐり飛ばされ修復不可能なほどの風穴があき戦闘不能となった。
オーガスタンはよほど運が無かったのだうか分からないが、まるで戦艦の主砲を受けたかのように艦首の基礎部分が損壊し浸水が始まった。ダメコンがあわてて応急処置をするが基礎部分が壊れているためかじわじわと破口は広がり500tの浸水を許すと船は不気味な咆哮のような音をあげ船体と艦首を水の重さと自らの重量により切断した。海中に突き刺さるかのようにやがて沈没し始めた。離れた場所で真っ黒に変色してなお単発的な爆発起こすセントルイスが少しずつ海に没し始めていた。ちょうど沈んでいく夕日のようであった。デ・ロイテルはタービンが損傷した。
わずか7機の異分子はハルゼー率いる第16任務部隊の真髄を破壊して嵐のように過ぎ去っていった。
一方の第30駆逐艦隊は3隻が集中攻撃を受け沈没1隻、2隻が中破した。この海戦ではわずか1機だけ撃墜された。
二〇四〇 目標を確認し攻撃に成功した二隊は各々の戦果を語った。敵機がいなかったため戦闘機体は偵察機のような役回りとなっていた。だが彼らも弾幕射撃にさらされ全てを全くの狂いもなく見れたわけではない。この時飛行隊長に語られた戦果は実際のそれと同じであった。
二一〇〇 「敵の機動部隊はもう余力無し・・・残るは戦艦」宇垣はこの時例の戦艦部隊と再び砲火を交えることを望んでいたが全く問題がないと言うわけではない。
しばらく悩んだあと進路はそのまま南にとり野獣が潜む海へと向かっていった。夜は始まったばかりだった。
次回 インド艦隊の動向もそろそろ入ります。