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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
珊瑚海、波高し
70/115

獣の海

 すいません遅れて。予想外に忙しいですね・・・(大嘘)。

 一七四三 鉄のぶつかり合いを終え自ら越後の損傷箇所を渡り歩き指揮を取った艦長はようやく腰をを下ろした。「大した被害がなくて良かった」と宇垣纏うがきまとめは呟いた。

 越後・飛騨は双方今後の戦闘に関しても不利になるような損傷を負ってはいなかった。しかし敵とてそれは同じであろう。最も出撃時の第1目的としての【米軍のポートモレスビー爆撃を中断させる】は成功しているがこれは我が艦隊に矛先が向いたと言ったほうが正確である。米軍は確かに洋上で航空兵力を駆使し圧倒的な戦闘力を発揮する空母に損傷を受けている。が、こちらに至っては航空兵器そのものが不足している。生産力の違いというのもあるが軍部は大陸の方にも同じ程の航空戦力をつぎ込んでいる。米軍が本格的な反撃に乗り出す前はそれでも十分だったが今となってはその分配がどれほど愚かであったことかが露呈し始めている。


 たださすがに今回の事で300機の兵力を半月以内でここにつぎ込むことを決定したようである。もっとも、ここを失っていなければという事であろうが。

 


 軍令部次長の近藤信竹は〝殴り込み〝で戦果を得るつもりらしく屈することなく敵に直進することが大事と主張していた。

 偵察機が水上から離水し空に飛び立った。翼下にでかでかとしたフロートをつけた影が見えなくなるのにさほど時間はかからなかった。


 青々とした水面の上にはやや赤みがかかってきた空が見渡せた。その下で海が埋め尽くされるほどの駆逐艦〜戦艦までの船舶が集結している姿はやはり壮大な光景である。


 一八〇〇 死んだように静かな空気だった。だがそれはやがて打ち破られることとなる。

「セ・セ・セ」これは偵察機から発せられたものであり「我戦闘機から攻撃されている」という意味である。


 ハルゼーが無事な艦載機と空母のスペースをフルに活用して発艦させた12機の戦闘機と5機の爆撃機が来たのだ。豪快なエンジン音が上空でこだました。日本艦隊から慌ただしく光の矢が放たれた。しかし完全にふいをつかれた。もう今日は航空戦は無いと誰もが思っていたのである。

 

 幾つかの戦闘機が黒煙を吐き出した。しかし被弾の煙でない。その煙はまっすぐこちらに伸びてくる。そう飛騨が狙われた。

 

 ロケット弾は束となって直進した、刹那━━━━。艦橋にそれは直撃した。まさしく大阪城の天守閣に家康軍の大砲が命中したような光景であった。分厚い装甲で守られているが露天艦橋やガラスにミサイル弾が突き刺さり爆発四散した。

 飛騨はもがくかのように船体を揺らしミサイルの爆発とはまた違う爆発音をなびかせた。カラスに食い荒らされ形をなくした何かしらの生物のような姿となった。さらにそこに爆撃機が襲来した。狙いは飛騨でない。飛騨にはさほど被害が与えられぬと判断したのであろうか。それとも━━━━。飛騨の上空を勇ましくまたがり真っ直ぐ大型巡洋艦へと向かっていった。松浦・木曽にそれは集中した。



 来る途中で優れた対空射撃により1機が操縦性を失ったかのように右にそれて100m進まないうちに海中へと落下した。

 しかし4機はひるむ様子もなくまっしぐらに2隻へと向かってきた。


 黒光りする500キロ爆弾を抱えた4機は急降下に入った。この時速度は急速に加速する。鉄が擦れ合う音と海中に何かが落下する音、爆発する音などが混ざり合あった壮絶なる轟音が日本艦隊を包み込んだ。紅の炎を若干まといながらそびえ立つ白い水柱が崩れ去るとそこには激しく炎上する2隻の姿があった。命中箇所はどこかと思っているうちに戦闘機が近寄りロケット弾を撃ち付けた。黒煙に包まれた区域にミサイルが突入するとまた爆発音がとどろき炎が狂ったように騒ぎ出した。


 この僅か数分で日本艦隊は大損害を負った。嵐のようにその攻撃隊は逃げ去った。


 「松浦・木曽の消化を急げ!!」呆気にとられていた駆逐艦の艦長が慌ただしく寄り添って水をかけた。木曽は幸い火災は微弱であったが、松浦は誰が見ても助かりそうではなかった。


 しばらくしメラメラと燃え上がる炎の中船体の基礎部分が裂けたらしくけたたましい音を立てた。松浦は駆逐艦を巻き込むようなうずを造り重油や兵員と残骸を残し海中へと没した。駆逐艦は危機一髪でその海域から脱出し兵員の救助に当たった。


 空はすっかり暗くなり重油に燃え移った炎がユラユラと光っていた。


 「なんてことだ」豊田副武は吐き捨て自らの顔が醜く歪むのを感じ取った。



 カーニーは猛獣のように醜い喜びの顔をしているハルゼーの顔を見た。まさしく猛獣であったと言っている。


 

 その夜、2群の猛獣達は再び海を駆けた。

 4月6日から1週間間隔で更新を再スタートしようと考えています。

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