珊瑚海の微妙な海戦
日本駆逐艦が決死の突撃を敢行し始めたのに対し、米軍も負けじと始めた。日本は2列で縦陣を組んでいた。
一方戦艦の殴り合いは驚くべき展開を迎えていた。日本の越後級の砲弾が効かなかったのだ。アメリカが作成したモンタナ級戦艦は若干だがトップヘビー気味でかなりの装甲が施されていた。自身の砲弾に耐えうる装甲は一般的な戦艦では暗黙のルールとなっている。が、この戦艦はなんと対50口径18インチ装甲が施されていた。つまり一回りならぬ2回り大きな砲弾にも耐えうるだけの装甲を持っているのだ。モンタナ級戦艦の砲弾精度も大したもので飛騨に至近弾を出した。
「距離を縮めよう」冷静に命令を下した。この世に砲弾がどの距離からでも効かないという事は絶対にないのだ。そして越後型戦艦のバイタルパートは500ミリという異常な装甲に守られていることも日本側は忘れてなかった。
一七〇〇 日米両艦は距離をお互い縮めていた。それは水雷戦隊も同じであった。最上が先頭を行っていた。この時米軍もそうだが観測機が上空を飛び交っていた。まさに航空機が偵察機程度しか使い道がないとされていた時代に戻ったかのようだ。距離は2万を切ろうとしていた。この時2列の縦陣だったのが急に左右に別れた。つまり右に一隊、左に一隊が突き進んでいった。最上は右から邁進していった。大型巡洋艦も後ろから2000m距離をとり進んでいった。
その頃、ズバーンと何かが弾け飛ぶような凄まじい轟音が鳴り響いた。それは恐怖を思わせる音でしかなかった。
「飛騨に命中弾2発!」遂に命中弾が出た。徹甲弾でなく幸い榴弾であったが艦橋付近の機銃郡を吹き飛ばした。観測機が傷ついた獲物を狙うハゲタカのようにクルクル上空を旋回していた。
一七一〇 「魚雷発射!」米軍が魚雷を放つのを確認すると日本側も耐えに耐えていた雷撃を開始した。網目を描くように魚雷を発射し、すぐにクルリと方向転換した。米軍も雷撃を敢行する。そして反転しようとしたところで急にいちばんうしろに位置する駆逐艦の艦橋がまるで玩具のように根元からなぎ倒され幾数の水柱に包まれた。煙を吹き出しその場で速力を落とした。言うまでもなくこれは距離2万m離れた場所からの大型巡洋艦の射撃であった。そしてお互いの魚雷の戦果が確認できる時となった。当然のことながら先ほど大型巡洋艦の砲撃をまともに受けた駆逐艦は2発もの魚雷を受けあっという間に沈没した。両翼から扇状に雷撃した日本艦隊の魚雷は米軍の駆逐艦を網に絡め取るように5隻を沈没させ2隻を損壊させた。これに対し日本艦隊は駆逐艦2隻が沈没した。さらに同時刻に飛騨が反撃に打って出てモンタナに2発の命中弾を叩き出した。一発は弾かれたものの2発目は運悪く張り出したバルジに落下し思いっきり破壊させた。そして浸水を起こし海水をものすごい勢いで飲み込んでいった。しかしそのバルジはただ張り出しているのではなかった。異常なほどの隔壁を持ちゴムを貼り隔壁の防御力を高めていた。
米軍も越後に命中弾を送り込み後部甲板をズタズタに破壊した。甲板は歪みに歪み火災も起こっていた。負けじと越後もその5分後にフロリダ戦艦に命中弾を叩き出した。紅蓮の炎が舞い上がり鋼の装甲がえぐられ破片が上空に投げ出された。
その頃アメリカ水雷戦隊は大型巡洋艦の射撃と魚雷攻撃によりかなりの被害を被っていた。重巡2隻は無事であったためアメリカ艦隊はそれで対抗した。しかし8インチと12インチの砲弾の威力は子供と大人のような差がある。アメリカの重巡は悲しく海面の前方に水柱を作るだけだった。しかし大型巡洋艦は一方的に有効弾が与えられるといういわゆるアウトレンジ戦法を行えた。アメリカ水雷戦隊は再び突撃を開始した。大型巡洋艦はそれに砲弾をひたすら撃ち続けた。ここに戦況の行き先は決まったのだった。僅か20分後にこの海域では駆逐艦が戦艦に雷撃を行い命中はしなかったものの海域から離脱したというエピソードが残っている。退避するとき1隻の戦艦に3発の砲弾が命中し甲板装甲を突き破り艦内で大爆発を起こさせて小破させ多数の兵士を吹き飛ばしたという戦果をあげたそうだ。結局この海戦では戦艦の殴り合いは微妙なモノに終わってしまった。
だがこれが後になり日米の戦況を大きく揺るがす一大決戦を引き起こす原因となるとはこの時誰も知らなかった。
「越後型2隻の戦艦の被害を知らせよ」
「越後後部甲板損傷、飛騨左舷機銃郡損壊するも両艦大きな損害無し」
「なにウィリアムパイが撤退しただと!一体どうなってやがるんだァ!」ハルゼーは犬のように唸った。
この後も珊瑚海での海戦は続いた。
諸事情により場合によっては2月8日ほどまで更新ができなかもしれません。短文でありながら時間ばかりかけて申し訳ありません。
ただ2月10日以降は恐らくバンバン更新できますので、長い目で見てくだされば幸いです。