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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
珊瑚海、波高し
68/115

弾かれた砲弾

 

 真っ先に悲鳴を上げた船は空母ヨークタウンに他ならなかった。高くそびえる艦橋にぶつかるのではないかと危惧するような低空飛行を日本軍機がやってのけた。爆弾は日本機パイロットのように迷う様子もなく5インチ砲にまっしぐらに落下した。次の瞬間、鈍い音が聞こえ砲身が高々と吹き飛ばされた。炎を拭き上げたかと思えば艦首からも爆音が響き渡り、熱を帯びた風圧が甲板上を吹き抜けた。これに加えて2発が立て続けに命中し火災を生じた。おまけに最後の1発は海兵隊居住区、倉庫、飛行機装甲格納庫を突き破り爆発し艦内で死傷者が多数出た。だが爆弾によって与えた被害も然ることながら、アメリカ海軍が誇るダメージコントロールはこの火災を数十分で完全に沈下させてしまった。両者驚く程の練度の高さである。勿論損害を被ったのはこの空母だけでない。ハルゼーの隷下にはまだ巡洋艦や駆逐艦がある。もう1隻の空母であるホーネットにも爆撃隊が殺到し、ホーネットは2発の命中弾を広々とした飛行甲板に吸い込んでいった。結果爆弾は飛行甲板を貫通して飛行格納庫の1部を焼き払った。重巡洋艦オーガスタンにも爆撃隊は襲撃し命中弾1,至近弾1発を受け小破した。


 立て続けに2隻の空母から悲鳴のような爆発音と黒煙が上がり戦闘能力を削っていった爆撃隊は嵐のように去りゆき、静けさが第16任務部隊を包み込んだ。ホーネットは甲板の損傷は幸い端であり穴も小さかったため鉄板で塞がれ離着陸は可能であった。ヨークタウンは艦橋とその付近が損傷し指揮が乱れていた。


 アメリカ戦闘機がその空母より飛び立つとそこに日本軍の第2次攻撃隊が襲撃してきた。



 〇八二〇 リー大佐が率いる第29・30駆逐艦隊は駆逐艦1隻が撃沈された海域より離脱していた。駆逐艦が相手を確認しない間に沈められるのだから、敵が重巡洋艦以上の船舶であることは容易に予想がつく。数は不明だが1隻や2隻ではないであろう。ウィリアム・パイの第三艦隊は水上戦闘艦ではどの艦隊より強力である。その艦隊がリー大佐を攻撃した艦隊がいると思われる海域へと突き進んでいった。


 「ジャップの奴らめ懲りずに来やがったな、おい、アレック奴らを残らず叩き落としてやるぞ」無線機に向かってそう言うとアレックが乗った機体がエンジンの出力を上げて編隊の前にグッと力強く出た。無線機で呼びかけた男が眼前にいた。


 日本の艦戦が慌ただしく四方に飛び行き迫りくるアメリカ機に立ち向かった。爆撃隊は固まっていたが、敵艦の対空砲撃が命中し2機が木っ端微塵に砕けると一斉に散開した。

「アレックいいぞ」無線の男は先程から日本の艦戦の銃撃を執拗に撃ちこまれていた。が、彼は余裕を持ってそれを交わしていた。その日本の艦戦は直後頭上に幾十の火線が降り注ぎ機体のリベットが弾け叩きつけるように胴体部が破裂し空中で塵となった。

「降下射撃いいぞアレック」無線の男はそう言うと目標新たに選択して翼を傾けた。


 アメリカ機の必死の迎撃に会いつつも九七軽爆撃機は空母上空に滑り込むと爆弾を落とした。1番機があとからくる二番機三番機を前から引張ているかのように後続機は編隊を乱さずに爆弾を投下した。海面には幾百の大小の水柱が乱立し青々とした海を白く染めた。その白い幾百の水柱の中には紅蓮の色を輝かせた火柱が立ち上った。


 

 〇八四〇 空母ホーネットは同じ道は歩まんという意思を行動でしめすかのように爆撃隊の攻撃を周回運動で避けた。一方艦橋を失ったヨークタウンは一番目の至近弾であろうことか舵を損壊した。コントロールを失い列外をさまよった。日本機3機が上空からそれを見下して機首をグイッと下に向けると翼に抱いている爆弾を降下しながらヨークタウンに叩きつけた。命中弾は2発。甲板を突き破る際に信管が作動して幾つもの兵員室と機械室が爆風により圧壊し換気が元々悪かったのかヨークタウンの艦内は灼熱地獄へと姿を変えた。


 これに対し日本攻撃隊も並みの被害ではなかった。20機がこの攻撃で海に散ったのだ。歴史の合間にはいつもこういう犠牲者がいるのだ。そしてこのように戦争をしていると、それは爆発的に増えるのだ。


 

 ━━━━日本の攻撃隊によりヨークタウンは再起不能なほどに場爆弾を受けていた。五箇所も黒々とした穴が空いており艦橋と対空砲火陣はやけ崩れた鉄屑となっていた。第16任務部隊は主力の航空部隊に大損害を被った。

「なんて奴らだ!」ハルゼーはそのように吐き捨てたとカーニーは言う。


 その後は大規模な航空戦は起こらなかった。事態が急変したのは昼飯も終えた8時間後だった。珊瑚海で砲声が交わった。

 その砲声は稲妻のようであった。

 ━━━━一六四〇

「ジャップの戦艦を発見!」モンタナ級戦艦2隻は越後級戦艦を確認した。どちらが先なのかは分からないが日本でも確認していた。300mにも及ぶ化物のような戦艦を。



 先にモンタナ級戦艦2隻が計24門中12発もの主砲を打ち込んだ。初弾は外れ日本艦隊から1200mも離れた場所に落下したが水柱には圧倒的な威力を感じとるには十分なものだった。越後も応戦し18門中9発の砲弾が砲身から吐き出され、それはアメリカ艦隊の前方1000mに落下した。


 距離は2万9000、水雷戦隊は自軍を有利とすべく前へ前へ進んでいった。

「全艦最大戦速!缶をやけぇー」艦長の命令により缶が焦げそうなほどになるまで機関室の兵員は働いた。鋼色の煙突からはそれよりずっと黒い黒煙が自艦の上空を覆うように吐き出される。


 

「仰角修正1度上げ、方位角60度から61度に変更」射撃指揮官が命令を下した。「発射!」の命令が下ると砲身から勢いよく敵に向かって発射される。両艦は夾叉弾が出るまで1分間ごとに主砲の砲門数の半分を撃った。幸運なことに命中弾を先に得たのは日本側であったがそれは戦慄の光景でもあった。距離は2万5000にまで接近していた。そこで越後が放った16インチ砲がフロリダに命中した。命中の閃光が輝き紅蓮の炎が舞い上がると思われたが、砲弾は船体を貫けず海中へと落下した。


「艦長、砲弾は弾かれました」双眼鏡で見ていた幕僚が低い声で報告した。モンタナ戦艦の艦橋では打って変わって砲弾を弾いたことに関して換気の声が響いた。そしてモンタナの砲撃は飛騨を夾叉し12発の弾丸が飛騨に向かっていった。迫りくる砲弾は空気を切り裂き音を荒げまっしぐらに向かってきた。




 「敵の巡洋艦の動きをしっかり見ろ、雷撃の腕はその艦の風格を変えるぞ!」水雷戦隊もまた熾烈な戦いが始まろうとしていた。

 それでは皆さん良いお年をお向かいくださいませ。

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