決戦、フィリピン海
キンメルが驚いていると「アリゾナが右舷に4本被雷しました」通信係のものがそういうと「何?4本魚雷を食らっただと!」キンメルはまだ若い通信員に怒鳴るように聞いた。「…はい」「潜水艦にでもやられたのか」とキンメルは早口で聞いた。「いえ、先ほどの巡洋艦と思います」キンメルは声も出せず艦橋から外の風景をみていた。
アリゾナは中央部に3本、艦尾に1本受けダメージコントロールがあわただしく働いていた。しかし3つの缶室に浸水し、艦尾のほうの浸水は隔壁を次々と突き破りだした。右舷に傾きだしたアリゾナには総員退艦の命令が出され乗員は駆逐艦で救出された。
一方日本機動部隊は九六式戦闘機の援護を出していたため、上空ではF3Fと死闘を続けていたが無駄に死者を米軍は出すだけと悟ったため戦闘機をさげていた。
「巡洋艦を近づけるな」キンメルは駆逐艦に艦隊の周りに円を描くように配置した。「ジャップの艦隊を消滅させろ」「敵艦隊と距離3万です」「よし再度射撃!目標敵戦艦」
「敵が砲撃を始めたようだね。こちらも射撃を開始しよう」嶋田は艦橋で報告を聞きその時その時で判断していた。「撃ち方初め!」越後の9門の40センチ砲(実は41センチ砲)が咆哮した。
双方の艦隊の近くでは水柱がたっていた。
サンフランシスコ ニューオリンズ ポートランドの3隻の巡洋艦が右側から味方駆逐艦と交戦を始めた。
日本駆逐艦隊は自在に魚雷を発射し寄せ付けなかった。また12,7センチの豆鉄砲でも進路妨害などには役立つ。
戦艦長門がその時、接近してきた巡洋艦アストリアに直撃弾を出した。距離は2万をきっていたため威力は戦艦が受けても無事ではすまない。それを巡洋艦が受けたのだ。たちまち甲板上の構造物が跳ね飛ばされ血糊で汚れあっというまに沈んでいった。さらにほぼ同時に今度は陸奥がペンシルベニアから直撃弾を受けた第2主砲を砕かれ火災が発生した。後部の3番4番主砲で陸奥は反撃した。
一方米軍駆逐艦は戦艦部隊より前方にグイグイでて雷撃を敢行しようとしていた。カッシン タッカー ポーター マクダガルが左からショー カノン ダウンズ カミングス が右から突進してきた。
しかし高雄 愛宕 摩耶 鳥海が目の前に立ちはだかった。砲撃戦となった。距離は1万メートルであったため米軍はおかまいなしに魚雷は発射した。しかし高雄以下4隻は急停止するとその魚雷を交わした。20センチ砲が駆逐艦に向かって放たれた。さらに高雄級は連装魚雷管が4基ついていた。そのため8本の魚雷が撃てた。合計で32本が発射された。日本軍の酸素魚雷は50ノット(90キロ)近い速力が出せる。さらにその時九六式戦闘機が駆逐艦の前進をとめようと艦首に銃撃を開始した。9ミリ程度では威力が無いのだが心理的には結構きいた。カノンが魚雷を受け大破した。またカミングスは魚雷発射管に20センチ砲が直撃した。ちょうど再度発射前だったので誘爆を引き起こし自らの魚雷の爆発で沈んでいった。さらに高雄以下4隻に気をとられていると8隻の駆逐艦が回り込んで横にいるのが分かった。7隻の駆逐艦は突進したことを後悔しながら回避行動をとったが縦横から迫る魚雷や砲撃はかわせるものではなかった。
戦艦越後が遂に戦艦ネバタに砲弾を3発叩き込んだ。越後は砲身が長いため威力は3万メートルで40センチ装甲が貫ける。ネバタの弦側装甲を突き破ると爆発した。ネバタは13度傾き射撃は不可能となった。
陸奥は反撃に出て1番主砲まで破壊されていたがここに来てようやく敵に直撃弾をだした。41センチ砲が対35センチ装甲しかされていないペンシルベニアに吸い込まれた。このとき双方の距離はわずか2万3000メートルであった。距離が近い分相手に与えられる損害が大きくなる。陸奥はペンシルベニアに再び射撃を行い4発きれいに叩き込み完全に沈黙させた。その後も直撃弾を出し12発打ち込むと大爆発を引き起こし燃える鉄の城は沈んだ。
キンメルは目の前の光景が信じられなかった。アメリカ艦隊が負けているのだ。
キンメルの目の前にはまさしく地獄絵図が広がっていた。そこに越後の41センチ砲が飛んできた。
キンメルは壁に体をたたきつけられた。体中が痛んだ。なにか体から抜けていく感覚があるたぶん血だろう。キンメルは薄れ行く意識の中で自分の船が傾いていく感覚をあじわっていた。
越後はテネシーに狙いをつけると2万9000メートルまで近づき砲撃したのだ。結果3発が命中したのだ。越後は斉射を開始するとテネシーを海の底に沈ませていった。
アメリカ艦隊は大破しているものは魚雷で止めを刺されてたりした結果戦艦は全滅した。また巡洋艦
アストリア沈没 ポートランドが大破しサンフランシスコ ニューオリンズが甲板を破壊された。
さらに駆逐艦は9隻が沈められ、1隻大破炎上中であり、実質戦力的に残っているのは2隻という有様である。アメリカ艦隊はジリジリと撤退を開始した。スプールアンスはこのとき空母で指揮をとり、見事な撤退を見せた。日本艦隊は深追いをしていたが潜水艦の神出鬼没という事態が多々起こり、スプールアンスの戦闘機が九六式戦闘機がいなくなったとたん現われ機銃で邪魔をしてきたのだ。
嶋田は不満そうだったが戦果は悪くない。駆逐艦白雪、初雪、白雲、磯波が沈没したがこれだけで損失はすんだ、と思っていたが帰還時に陸奥が潜水艦による雷撃を受けた。なんとかレイテ湾にたどり着きそこで座礁した。以後レイテ要塞として扱われるのだがここはまだ日本軍が上陸していない。そのため皮肉なことに砲戦であまり撃てなかった金剛型戦艦がふんだんにレイテ湾に艦砲射撃を開始した。
さらに高速輸送船2隻と護衛艦6000名の兵力をまわしてもらいレイテ島占領を始めた。しかしこれで島のアメリカ軍は度肝を抜かし混乱し日本兵に降伏した。
そのころフィリピン北部は日本軍が完全に占領していた。
大本営はいつもは誇張している戦果報告をそのまま話した。完全勝利フィリピン海戦と騒ぎ始めた日本国内をみて「この戦争は日本の大勝利で終わる」と思う人が大半だった。




