日章旗の島
〇二〇〇 日本軍は叫び声を上げながら、ひたすら突進してくる。森林に逃げ込んでいたアメリカ・オーストラリアの連合軍が襲撃に気づいた時はすでに遅い。次々と月の光を浴びている銃剣に刺し殺される。赤い液体が飛翔し地上にボタボタと塊となって落ちる。
米豪陣地からはパッと光の線が上空に駆け上り赤々とした小型の太陽のような明かりが上空に広がった。するとあたりは昼のような明るさになるのだった。だが眼前には日本軍が目と鼻の先にいた。
さらに後方より八八ミリ砲が援護射撃として撃たれる。飛来音が聞こえ米兵がなぎ倒され戦車が紙細工の破壊され、周辺の物資は無数の破片へと形を変えた。
紅蓮の炎が照明弾に負けずおとらず明かりを照らす。第一防衛線、第二防衛線などは一〇分足らずで突破された。
連合軍は雪崩を打ち南方向へ敗走した。日本兵は死体を乗り越え追撃戦に入った。
〇二二三 B-17が突如として日本艦隊への爆撃を中止した。ポートモレスビーへ戻ったのだった。長門が恨みを込めた主砲を発砲した。一機の上方でこれが炸裂し下を航行していたもう一機を巻き添えにし撃墜させた。
戦艦日向は後部の火薬庫が艦砲射撃のため残り少なかったため誘爆を複数回起こすことは無く火災も何とか鎮火できそうだった。
駆逐艦は一隻爆撃を受け停止したところにもう1発が命中し主砲の射撃音より大きな音を海中で轟かせつつ轟沈していった。
戦艦長門は第二砲等に直撃弾を受けるが汚れて、少しへこんだだけで別に問題は無かった。
それは段々近づいて来た。上空を何か怪鳥のようなものが通っているような感覚に襲われたその時。砲弾の落下音とは比べ物にならないものが陸軍部隊に落下し目もくらむ様な閃光と、土埃で何も見えなくなった。同時に聞こえてきたのは断末魔の叫びだった。
土埃があけると死体が黒焦げた土の上に転がっていた。
その近くでまた爆発音が…帝国陸軍は大混乱に陥り敵は一時的に体制を建て直し機関銃を撃ちかけた。逃げまとう兵士が幾千の銃弾に襲われた。
だが陸軍の混乱は一つの音により消えた。突撃ラッパの音だった。ラッパの音を聞いた兵士たちは再び喊声を上げて突撃した。
同時に機関銃の音が上空でなり響いた。味方の航空隊が駆けつけてきたのだ。空陸で熾烈な戦闘が繰り広げられた。
〇二二五 日本艦隊は陣形を組んで当海域より離脱した。長門最後はあまりにも悲惨なものだった。偵察員が何か言ったのが聞こえた。瞬間…ものすごい音がした連続だった…徳永艦長はその音が二度と聞けないほど右耳を強く床に打つ付けられ船の傾きと共に壁に転がった。参謀の手を借り起き上がる。
「弾薬庫に火が回るぞ」という声が聞こえた。突如下で何かが暴れているような感覚に襲われ第二主砲の天蓋が吹き飛んだ。赤い炎が砲塔から出てきて艦橋にぶち当たった。網膜を焼かれた艦長は唸り声を上げると、次の衝撃でガラスに倒れ掛かかった。するとガラスが二度目の爆風で砕き割られそのまま無数のガラス片に突き刺ささりながら転落死した。
長門は二〇度傾いた。次第に激しく傾斜がついていった。もはや救援不能とし僅かながらに生き残っていた水兵だけ救助し、燃え盛る長門に後ろめたさを感じつつ撤退した。
しかし長門は三日間その姿を残していた。
その長門を発見したのはポートモレスビーを制圧した後日に日本駆逐艦が発見した。だが曳航しようとしたがとても出来る状態ではなかった。その次の日いくと長門の姿は無かった。つまり長門が沈む姿を見たものはいない。
今回の海戦で戦艦三隻中一隻沈没、一隻が大破した。日向と伊勢は内地に戻っていった。
多大な被害は被ったものの大戦果を収めたため大本営は誇大報告を行った。どこの国でも誇大報告というのはある物であり、日本特有という訳ではない。
一週間後、帝国陸軍はポートモレスビーを制圧した。事実上オーストラリアと米軍の間は遮断された形となった。この戦いで米豪軍は二五〇〇〇名中一〇〇〇〇名が犠牲となった。一日目での死傷者は両軍合わせて四〇〇〇名を超える激戦だった。
一方、工作船「朝日」がレイテ湾に座礁している陸奥の修復工事を行っていた。正確に言えば修復では無く改装工事だ。陸奥は二つだけ缶室が残っており発電機も使用可能だった。だがこの巨体はどうにも動かない。強力に固定されているようだ。
仕方が無くいっその事要塞にしてしまえとなったのだ。第二主砲跡には鉄板を置き対空機銃をその上に設置した。動かす必要性も無いので重量を考えずにコンクリートで一部包装した部位もある。
主要武装 四一センチ連装砲塔三基 一五センチ副砲塔一〇基
一二,七センチ高角砲六基 二〇ミリ機銃六〇挺 一三mm三連装機銃四〇挺
以上の武装となった。一個師団さえ超える火力にも換算できる。残っていた缶室で重油を使い発電すれば主砲・副砲なども使える。
一方大破した日向だが、後方甲板部が完全に損壊し、よくぞ戻ってこれたとおもわず声に出さずにはいられない悲惨な姿になっていた。前部甲板部は幸い一ヶ月もせずに修復できる。だが後部は半ヶ月後から修復作業に入れるという状態だった。
金剛型戦艦は二五ミリ対空機銃を二〇挺から六〇挺にまでに増強された。ここで戦艦山城は大改装を遂に終えた。艦首を伸円球艦首にしたため速力が二七ノットにまで増えた。
さらには機銃を一二〇挺(二五㎜三連装四〇基)四〇口径一二,七ミリ高角砲二〇基
長一〇センチ砲一〇基 一二センチ三〇連装噴進砲六基水上艦載機格納庫が後部に備えられておりカタパルト二基が搭載されていた。
訓練もすでに始まっている。
第一/二/三航空艦隊
「赤城」(九六式艦上戦闘機一五 九六式艦上爆撃機二一 九六式艦上攻撃機二七)
「詳鳳」(九六式艦上戦闘機一五 九六式艦上爆撃機一二)
「瑞鳳」(九六式艦上戦闘機一五 九六式艦上攻撃機一二)
「龍鳳」(九六式艦上戦闘機一五 九六式艦上攻撃機九)
(補用は含まない)
計 一四一機 (戦闘機六〇機 爆撃機三三機 攻撃機四〇機 攻撃機兼偵察機八機)
第一/二戦隊「越後」「飛騨」「伊勢」「山城」+駆逐艦四隻
第四戦隊「高雄」「愛宕」「摩耶」「鳥海」 〃
第五戦隊「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」 〃
第一輸送艦隊 駆逐艦二隻+高速輸送艦四隻+給油艦二隻
第二輸送艦隊 駆逐艦二隻+高速輸送船三隻+給油艦二隻
この高速輸送船には一個戦車連隊と三個歩兵連隊が乗船している。戦車は九七式戦車だが砲塔に八センチ砲を積んでいるのは変わりないが、車体に対し大きすぎるため旋回が異常に遅く重心の関係で走行に難があった。そこで砲塔を旋回しない固定式とした。さらに装甲が分けて運べるようにと五〇ミリ装甲に増強された。そのため速力は三四kmと遅いのだが。また航空艦隊の攻撃機兼偵察機とは九六式艦上攻撃機である。
さらにこの艦隊とは別にアリューシャンに進行すべくまた別の艦隊が送られていた。
空母「加賀」「龍驤」「鳳翔」を中核とした機動部隊だ。
四月三〇日 夜の海に日章旗を掲げた大艦隊が黒々しい景色の中をただただ目的の場所へと巡航速度一六ノットで航行していた。
〇〇〇〇「日付がかわりました」
「そうか」嶋田は短く返事をしたあとに先頭の巡洋艦羽黒から射程距離に入ったとの電報を受けた。
「対潜陣形を取れ!第一/第二戦隊距離三万まで接近せよ」
射程距離に入ったのはミッドウェー島の飛行場のあるイースタン島。奥に飛行艇基地の見えるサンド島が目標だ。そこから速度を二二ノットまでに増速した。
戦艦部隊が距離三万に迫ったのはそれから一〇分後のことである。
「全艦撃ち方始め!」嶋田の命令により通常弾がイースタン島に降り注がれた。一二,七センチ、四〇センチ主砲弾がアメリカ守備兵の目覚ましとなった。
大地を揺るがす主砲の命中による振動、そして閃光が島を赤るく照らし出した。何だと出てきた米軍は自分たちが置かれている状況を一瞬で理解した。
絶望が彼らを覆っていた。
アメリカのイースタン島の倉庫や滑走路に並べられていた陸軍戦闘機の新鋭戦闘機P-40やP-36が全て爆発炎上した。滑走路コンクリートに大穴が空き周囲の表面には亀裂が入り格納庫の爆弾などが次々に誘爆していって破片がほかの施設や兵士たちを襲った。
アメリカ軍は陸上砲で応戦しようとしたが距離が遠く、おまけに破壊されているのが多かったため命を無駄にしまいと逃げ場所を探して左右散り散りに走っていった。
嶋田が砲撃を停止するまで三〇分ほど砲撃は続いた。間髪いれず上陸部隊が行動を開始した。上陸用舟艇が島へと近寄っていった。
〇〇五〇 ミッドウェー島が攻撃を受けているとわかったのはこの時間だった。
この事態に対応すべく派遣された艦隊はなかった。米軍は兵力の温存を図ったのだった。
数分して空母蒼竜から東京に迫り来るB-10/2型の撃墜に敢闘した九七式戦闘機の夜間戦闘機版を真似して装備した九六式戦闘機が六〇キロ爆弾を両翼に装備し一八機が夜というにも関わらず上空に駆け上がった。
イースタン島を低空飛行で駆け巡り焼け爛れた敵陣地を眺めながら飛行していると対空射撃を行う陣地があった。
いきなりガンという衝撃が走り、爆弾をつけた重い機体の高度を上げてその陣地を見た。なるほど数人の兵士が勇猛に対空機銃をかざしていた。しかしもう終わりだ。九六式戦闘機はその陣地にダイブすると一〇〇メートル地点で爆弾を投げ捨て、瞬間的に操縦桿を引き機体を並行に戻すなり発動機を最大に回し爆風に巻き込まれるのを回避した。断末魔の叫びが聞こえ後ろを振り向くと先ほどの陣地が赤々としていたのが分かった。
さらには逃げていく兵士を九ミリ機銃で掃射していった。いまやミッドウェー島は血飛沫で島は染められいたるところから火が上がり、凹凸だらけの島となっていた。
〇一〇〇 高速輸送船が沿岸に近づき小型の揚陸艇から兵士や車体と砲塔にわけられた戦車などが次々揚陸されていった。
二五〇〇名の兵士が一気にイースタン島の隣のサンド島に上陸し残った兵士の掃討を行なった。アメリカ兵は武器をほぼなくしており一部の部隊は抗戦したものの大体は降伏した。
〇三〇〇 敵の抵抗はなくなりこの時間帯日本軍はミッドウェー島を占領を宣言した。
一方のアッツ島やキスカ島は戦艦はおらず水上打撃部隊は巡洋艦や駆逐艦などで構成されていた。だが空母は三隻であり艦載機が一〇〇機を超えるので十分な戦力だ。
空母より爆撃機や攻撃機が発艦二五〇キロ爆弾や六〇〇キロ爆弾を、又は石鹸や質の悪いガソリンなどで作った安上がりな六〇キロ爆弾を多量に落とした。
〇三二〇 鈍足な輸送船に運ばれた上陸兵士は六〇〇〇名であり上陸を終えていた。島にアメリカ守備兵はおらず、アッツ・キスカの両島の占領もこの時間帯に終了した。
〇七〇〇 工兵の支持で滑走路の修理や兵舎などがミッドウェー島で行われいた。大本営はこの島を水無月島と名付け占領をラジオで大々的に発表した。
アッツ・キスカ・ミッドウェーの三島には日章旗が翻っていた。