破られた鎖国
別に外伝にしなくて良いよな。自分はそう考えた。
一八五三年 浦賀に黒船が姿を現した年である。日本人がいままで見たこともないような巨大な船である。日米和親条約の締結を求めるペリーに対し江戸幕府は返事を来年とした。日米和親条約とは当時アメリカが、清をはじめとする東アジアとの貿易のために太平洋航路を必要としたため下田/箱館の開港を求めたものである。当時の蒸気船では十分な燃料を積み込むことはできず、補給のための寄港地として日本の港が必要であった。何にせよ急にそんなことを言われればどの国でも困るだろう。おまけに鎖国している国である。
幕府は返事を来年すると言いその場しのぎの政策で乗り切った。
一八五四年 黒船が今度は四隻水平線から姿を現した。これに反すれば武力で解決することも否めないという空気の中で日米和親条約が結ばれた。
一八五八年 日米和親条約は日米修好通商条約の基礎固めの条約に過ぎずこの年日米修好通商条約が結ばれた。これが日本が明治になっても足を引っ張り続けた不平等条約である。
詳しいことは省略するが公使の交換、江戸・大坂の開市、開港場の外国人居留地の設定、自由貿易の原則といった基本的な条約がある。だが問題は次の二つである。領事裁判権を規定し、関税自主権の否定。外国人が日本で犯罪を犯しても外国で裁かれる。輸出税が自分で定めれず安く輸入できる。これはイギリス・オランダ・ロシアなどとも結ばれた。
これらのことにより近代文明の取り込みにし成功した件を考えると日本にまったく恩恵が無いというわけではないが、以後二つの不平等条約が日本を苦しめることとなる。
しかし関税自主権という概念が幕府側に無かったという事を考えると米国もそれなりに考えて決めたことは確かである。
だが同時に日本は戦乱の世界へと投げ出されたのであった。
日本はその後一八八七年幕府が大政奉還を行ったことにより天皇主権へと移り変わり、明治時代へと入る。この間には戊辰戦争という旧幕府軍と新政府軍の衝突があったがやがて終わりを告げた。明治へ入ると近代設備が一気に導入された。電灯や機関車などである。また自給自足で生活していたものもいた国民暮らしは円・銭・厘という硬貨の導入により代わって行った。地租の二.五パーセントを国に収めることや軍隊の設置なども行われた。
一八七三年の徴兵令では免責事項が多く初期は三万六〇〇〇名とお寒い状況だった。
一八七四年 台湾への日本人漂流者が殺害や暴行をを受けたことで日本軍は初の国外出兵を決定。規模は三六〇〇名で戦闘はすぐに終結したが、同盟国の清国と一時戦争状態に入る危機に陥った。結果、清国の金と引き換えに日本軍は撤退。だが清国との関係は悪化。
一八八九年に免責事項の多くが廃止され陸軍はその後大幅に増加した。ただ海軍はこの後も志願制を貫いた。この九年前にいままで外国に頼っていた小銃を見習い自国製の十三年式村田銃が作成された。これは射程や重量など全てを同時期の外国製小銃と比較しても遜色ない、むしろトップクラスの小銃であった。その五年後には十八年式村田銃が完成。
この頃の世界情勢は東洋を制覇したいイギリス。南下を進めたいロシアといった構図が出来上がっていた。ロシアの南下は当然日本の危機である。そこで日本は朝鮮王国を盾に出来ないかと考えた。
そして日朝修好条規が日本と朝鮮国の間で結ばれる。清国は朝鮮国は属邦だといいこの条約の破棄を求める。朝鮮国内ではいままでの関係を大切にするべきとの清国派と日本にならい近代化に進むべきとの親日派（開国派）が対立した。しかし清国派が反乱を起こし朝鮮国内部は大荒れとなってしまった。清国が軍を派兵しこれを抑える。日本も在留日本人保護のために七〇〇〇名を出兵した。陸軍はこの頃になると六個師団を常備する軍隊になっていた。海軍も巡洋艦「浪速」「高千穂」「千代田」「吉野」を主力とした艦隊を編成していた。
朝鮮王国は当時酷く死体や排便物が道に転がっているような情景だった。
なお一八九四年不平等条約が一部改正された、日清両国で朝鮮王国の反乱を止めようという文章を日本は清国に提唱した。これは国際世論が清国に理解を示し始めていたからである。しかし清国はこれを認証しなかった。
七月二三日 朝鮮在留の混成第九旅団が清国と交戦状態に入った。
同月二五日 海軍も豊島沖で戦闘を起こした。先に発砲してきたのは清国だった。戦闘の結果二隻を撃沈、一隻を大破、一隻を拿捕し輸送していた大砲一四門と清国兵など合わせて一一〇〇名の損害を与えた。対して日本側は損害無しという一方的な大勝利を得た。
陸軍も海軍に負けず劣らず破竹の勢いで進撃していいった。
その後下関条約で台湾・賠償金・遼東半島を貰う。が、ロシア・ドイツ・フランスがこれに対し反対したのだ。これが三国干渉である。結果日本はこれを返還した。
だがロシアは清国よりこれを租借した。その後ロシアは清国にて勢力を強めた。日本は武力に移るのを何度も抑えたが、朝鮮にロシアが軍事施設を設立すると日本はついに戦闘を決行した。なお日英同盟でイギリスの協力が得れていたことは皆さん周知の事実である。
アメリカもドイツ・フランスなどにロシアに手を貸すなら日本に支援すると発言した。 よってロシアは孤立無援で戦うこととなった。陸では旅順・奉天で、海では日本海で敵を破ったが国力は限界に達した。ロシアも国内で革命などが起こり戦闘の続行が困難となった。アメリカが仲裁役に入りポーツマス条約を締結した。
これは日本の朝鮮半島における優越権を認める事や、樺太の北緯50度以南の領土を永久に日本へ譲渡する。ロシアは東清鉄道の内、旅順－長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。関東州（旅順・大連を含む遼東半島南端部）の租借権を日本へ譲渡する。沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。等の条件であった。
その後第一次世界大戦など日本軍は各地で戦闘を行った。
一方中国はこの流れの中どういう経歴をたどってきたのだろうか。 清国が滅亡したのは日清戦争が起きて一六年後だった。その後中国大陸では軍閥と言われる各地方の勢力が生まれた。巨大な勢力を持ち清国を滅亡へと追いやった革命軍は孫文を臨時大統領として中華民国を設立し、中国国民党を結成した。
一九一四年 第一次世界大戦が始まり、連合国側についた日本は山東省に進出。ついで、中国政府に、山東省や南満州鉄道などの利権等を要求する二一か条要求をつきつけた。孫文は反対したが日本側の圧力に押されるような形で、これを受け入れた。民衆はこれに対し不信感を抱いた。
一九一七年 ロシア革命によりソビエト連邦が成立、ソ連は世界の革命運動支援の為コミンテルンという組織を作った。ロシア革命の影響を受け、一九二一年に、杭州で中国共産党が結成された。だが小競り合いが発生しソ連とは関係が悪化した。これは日本側の工作によるものであった。よって共産主義を掲げる国家の中が悪くなると言う奇妙な光景が生まれた。日本側としては共産主義国家を仮想敵国としており双方を敵同士にし力を奪っておきたかったのである。
一九二五年に孫文がこの世を去ると翌年、蒋介石率いる一〇万人の軍隊が、列強と手を結ぶ軍閥打倒の為に北伐を開始した。
しかし、国民党と共産党の関係は長く続かず、翌二七年上海クーデタが起こり、多くの共産党員や労働者が殺された。蒋介石は共産党に対する弾圧を強めていった。
一九二八年 蒋介石は、東北の軍閥張作霖を倒し北京に入城した。
一九三一年、共産党率いる毛沢東は、瑞金で中華ソビエト共和国臨時政府を樹立し主席に選ばれたのだ。
この頃、日本は、中国東北地方への進出し、一九三二年、傀儡の満州国を建国した。蒋介石は共産党打倒を掲げたが、共産党軍に反撃される形となり敗れてしまった。共産党軍はその後日本との関係を悪化させていった。
一九三四年 蒋介石率いる国民党軍は中国西部に押し込められる形となった。これがビルマを攻撃してきた軍である。
日本は拡大する共産思想の国家に恐れを抱いていた。日本は中華人民共和国に中華民国の時と同じく二一ヶ条の条約を締結させた。これを受け入れた中華人民共和国であったが、関係はさらに悪化した。一部では排日運動が行われ日本が中国に多数の軍を送るという事もしばし起きた。
そうアメリカの開国後、日本はロシアを恐れ今の状況にたどり着いたのである。ロシアは共産主義のソ連に変わり、中国も共産主義に染まった。日本の敵は共産主義だったのだ。
だがそれは日本を増強させアメリカから敵対視される事となってしまった。アメリカが日本に出した最後通牒で知られる文章を作成したのはホワイトという男であった。彼はソ連のスパイであった。
そしてソ連と共に悪化する中国共産党軍を蹴散らすと言うのも何かの罠だったのかもしれない。現にソ連は今満州周辺に軍を終結させている。
この戦争は誰が仕組んだのだろうか…。
時間は決して戻らない。だがこれからの時間をどう扱うか。それが日本に課せられるべき使命なのだ。
