破滅への誘い
時間を少し戻す…。
一〇三〇 第二次強襲部隊の戦闘機は一二機。来襲してきた米軍機は実に八十機の大群だった。戦闘機が半数を占めている。
出撃待機中だった第二次制空部隊は慌てて出撃した。幾数か迎撃が遅れたが九六式戦闘機二四機 震電一六機が迎撃にあがれた。これに第三戦隊九八式水上戦闘機が九機ついている。
震電は強引に爆撃機迎撃に入った。またたくまに八機を撃墜した。だがF6Fがそれを阻むようにやってきた。一二,七mmを乱射してくる。やむなく震電は戦闘機と空戦を開始する。
九六式艦戦は速度では劣るが格闘戦で右に出るものはいない。小回りの旋回で相手の背後に回りこみ機銃を撃ちこむ。だがF6Fは強靭な防弾性をもっているため距離が離れていると大したダメージを与えることが出来ない。
戦闘機の数では明らかに日本艦隊の方が有利であったが合計の数では敵わない。必然的に攻撃機は機動部隊に攻撃できる可能性が高くなる。
しかし機動部隊周辺の艦隊は尋常ならざる数である。対空砲火が一斉に火を噴き回避行動をしながらも七機を撃墜した。
だが急降下爆撃機の攻撃を受けた空母が二隻あった。第二機動部隊の大鶴と迅鶴である。
ほぼ直角を射撃できる対空火器は非常に限られる。そのため回避行動がとても重要となる。だが避けれないときは避けれない。
大鶴に二発命中し、迅鶴には三発が命中した。二隻とも軽空母であり装甲は薄い。大鶴はなんとか大参事になるのを免れたが迅鶴はそうでなかった。三発目が着弾した数秒後船体が弾けた。途端に激しい爆発音をなびかせ火炎の柱が舞い上がった。
航空用燃料タンクや航空機用爆弾庫にまで炎がまわったらしく迅鶴は激しく燃え上がった。連鎖的に爆発を起こし、五回目の爆発で前方甲板に亀裂が生じた。甲板上では消化ホースを暴れるように振り回す兵士たちがいたが効果は無いといっても過言ではない。
やがて浸水し始めて前方に二〇度前のめりになると急速に沈没を開始した。
一〇分後帰投したのが第二次強襲部隊の爆撃隊や攻撃隊である。この一〇分後第一次強襲隊の武藤が帰投した訳である。
一方の第一制空部隊はどうしたのか? 彼らは途中で戦闘機四〇機が五〇〇メートル下にいるのを発見した。これは絶好の獲物である。おまけに半数は小型爆弾を積んでいたらしく動きが鈍い。機首を一八〇度捻る様に旋回する。出力を最大にしながら降下しつつ銃撃を浴びせる。機銃弾がまるでシャワーのように米軍機に降りかかった。
いくら防弾性能が高くてもこれは防ぎきれない。一挙に九機が機首をガクリと落とし墜落していった。おそらく機銃弾は風防ガラスを突き破りコックピット内で死亡したためと思われる。
慌てて米軍戦闘機も反撃を開始するが爆弾を背負っていた戦闘機は当然反応が遅れた。慌てて爆弾を切り離す。機体が嘘の様に軽くなる。だがときすでに遅く背後には日本機が迫っていた。射撃音が一定のリズムで鳴り響く。米編成隊はまともに抵抗もできず壊滅した。実に三五機が撃墜され残った五機も破損していた。対して日本側は撃墜二機・撃破四機のみという一方的な戦闘だった。
一二四〇 第三次強襲部隊が発進する。実際は第二波だが第二次攻撃隊は先の機動部隊防衛戦で燃料や弾丸を浪費している。
第三次強襲部隊編成
九六式戦闘機一七機 九六式艦上攻撃機二四機
初期陣容より三機少ないのは空母迅鶴と共に沈んでしまったためである。だが先の損害から考慮し第三次制空部隊の九六式艦戦を二〇機付け九六艦戦は三七機となった。ただしエンジントラブルで艦戦二機・艦攻一機が帰投した。
第三次強襲部隊が敵機動部隊を発見したのはそれから二時間近くたってからのことだった。再び上方からの攻撃があったが、あらかじめ五〇〇m上方で待機していた第三次制空部隊の所属機がこれと交戦を開始した。
そして第三次強襲部隊が攻撃を開始しようとしたときだった。再び嵐のように対空機銃が一斉に火を吐いた。高射砲が咆哮し至近で一斉に炸裂する。明らかに尋常ならざる正確な射撃だった。いやそれ以前に数が多すぎる。何千という機銃弾が自分の機体をめがけ飛んでくる。異常なほどの集中砲火だった。視界はまるで火の中を飛んでいるかのような世界を映し出していた。
猛烈な対空砲火の前に攻撃隊は敵から見ればおもしろいほどに日本機は落ちていく。
この時アメリカ海軍は空母の弦側に重機関銃を持った兵士を何十人と並列させていた。そして敵が来たら艦の対空砲火と共に射撃を開始する。正規空母であれば大体片弦二〇丁が配置されていた。駆逐艦も四〇隻が周囲にいた。それもただの駆逐艦でない。ハリネズミのように機銃を搭載した、空だけを攻撃するために作り出されたかのような形相であった。一隻辺り三〇mm対空砲が単装や連装合わせて三〇基、七〇門という膨大な数の機銃が搭載されていた。つまり駆逐艦だけで二〇〇〇門を超える対空砲火が積まれていた計算になる。
それに加えアメリカ海軍の新兵器が関係していた。対空レーダーとVT信管である。
この対空レーダーは索敵範囲はあまり広いものでは無いが敵が来る高度を感知できる。そのため日本強襲部隊は高空からの待ち伏せ攻撃を受けたのである。
VT信管というのは高射砲弾などが敵の戦闘機の近くを通ったとき自動的に炸裂する。普通は時間設定式を使うがどちらが優れているかなどわざわざ言うまでも無い。
だが日本側でそんなことを知るものがいるはずも無く攻撃機は的のようにバタバタと火達磨や無数の破片となり散って行った。ただ三機が魚雷を抱えたまま航空母艦へ突入していった。
戦闘機部隊のほうも四〇機のもの敵機と交戦し半数を失う結果となった。攻撃隊は二機のみ生還した。
戦果は二〇機撃墜破と空母一隻大破だった。大破した航空母艦は後に沈没したという。
一方の日本機動部隊も攻撃を受けていた。僅か三〇機の編成隊だったが大鶴が撃沈されてしまった。
強襲部隊の報告を聞き現状を把握した後…南雲は撤退を提案した。だが山口多門はそれに反対し断固戦うべきと唱えた。
だが最終的に豊田の決断により撤退となった。
一五〇〇 撤退中は九六艦戦を三機上空で哨戒させていた。第三戦隊は水偵に小型爆弾をつけ潜水艦を警戒していた。
だがこの日は攻撃を受けることなく日本艦隊は無事敵の航空攻撃可能エリアから脱したのだった。
一方のマリアナ諸島のサイパン島では森の中で日本軍のゲリラ攻撃が行われたいた。アメリカ軍はこの日だけで三〇〇名以上の死者を出し五〇〇名もの負傷者を出していた。
アメリカ軍は上陸させていた一個陸軍師団に加え一個海兵師団と二個陸軍師団を上陸させた。
日本軍は【今後ノ戦闘大綱】【本戦争ニ必要ナ兵力】に基づいて作戦を行っている。だが防衛陣地や兵力数などはサイパン島を見る限りは反映されていないように思われる。実際にそうだった。あまりにも米軍が来るのが早かったのである。
だが二島防衛陣地作成がある程度終了している島がある。グアム島とロタ島である。この内グアム島には装甲車や新鋭である戦車隊も多数配置されており万全の体制をとることに成功していた。
だが信じられないことに日本軍はマリアナ島の破棄を一〇日後に決定した。
一方の中国国民党には意外な人物が訪ねてきていた。国民党を代表して出てきた男は蒋介石だった。蒋介石は前に出てきた日本人の男に名乗り出るとその男も頭を下げ名乗り出た。
「始めまして東条英機と申します」
阿南陸相は部屋である物に目を通していた。「提案者は石原…満州事変を起こした男か」と独り言を呟き『大東亜共栄圏政略指導大綱』と書かれた資料をめくっていた。
ソ連の代表者スターリンは不安そうに胃をなでていた。「どうだ、わが同士よ」
「はい、我が同士スターリン」スターリンの側近ベリヤはスターリンが気にしている事を答えた。
「作戦は順調に進んでいます。戦車部隊に若干の遅れが見られますが問題ありません」
「米英と独伊はどうだ?」
「英国軍はアフリカから独伊軍を追い出すことに成功しました。米海軍も対潜装備を備えた駆逐艦の大量投入により大西洋をほぼ我が物としているようです。独伊同盟軍はもはや攻勢に出るほどの余力が無いようです」
「そうか、…あの国との講和は締結できたか」スターリンが最も気になっていた質問である。ベリヤは笑みを浮かべ「はい。無事に締結できました」と答えた。
「連合軍以上に厄介な国が上にいる。いや…本当の敵だろう。いまは味方でも」石原はそう語る。
一八五三年のペリー来航は日本を開国へ誘った男ではない。破滅へ誘った男だ。そしてロシアは…。
全ての情報をまとめたとき日本は本当の敵を知ることとなった。
次回予告 外伝「欧州戦線崩壊」 2月23日
外伝「破られた鎖国」 3月1日
本編 最終回「戦艦越後」 「破られた鎖国」と同時投稿